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何度目の転生だろうか……おっ、ちょうど100回目か♪  作者: Kuran
第一章:出会い

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プロローグ

※1話~順に加筆・修正中です。読んでいる途中、整合性のない部分があるかもしれませんがご了承くださいませ。R8.8.7

 そこは、上下も左右も曖昧になるほど無機質な、真っ白な空間だった。


 その何もない部屋の真ん中に、ポツンと置かれた一つだけの椅子。そこに偉そうな態度で深々と腰掛け、脚を組んでいるのは、若い青年だった。


 薄青の長髪をなぞるように流し、華奢な体つきをしているが、その目つきだけは鋭く生気に満ち溢れている。白い着物のような衣を優雅にはためかせていた。


 その傍らには、仕立ての良い白いスーツを着た中年の男性が、背筋をピンと伸ばして立っている。眼鏡の奥の瞳は冷ややかで、整えられた白い髭が几帳面な人柄を物語っていた。


 若い青年――この世界の『神』が、退屈そうに口を開く。


「……やっと、この時が来たか」


「はい。長きにわたる年月でございましたな」


「なあ、百回も必要なかったんじゃないか?」


「決まりですので」


 無機質な側近の答えに、神は苦々しい表情を浮かべた。


「相変わらず融通の利かない奴だな。それにしても……なんで『こいつ』だけ、こんなに桁外れに強いんだ?」


「条件は全員同じはずでございます。ですが……さすがに百回も転生を繰り返せば、その生き方や経験の差が徐々に顕著になってくるのでしょう」


「これじゃあハラハラもしないし、面白くないじゃないか! 能力、下げるか?」


「ステータスの直接改変は不可能です。転生者には全員分け隔てなく【神の呪縛】が付与されておりますので、それ以外での外部干渉は許されておりません」


「ちっ、ほんっと融通が利かないなぁ……。ところで、【神の呪縛】って具体的にどんなやつだっけ?」


 白いスーツの男は、心底あきれたように薄い溜め息をついた。


「【神の呪縛】とは、我が君がおつけになられた呪いの一種です。『獲得経験値十分の一』および『精神年齢の成長停止』が付与されております」


「精神年齢の成長停止?」


「左様です。ご自身で作られた呪いを忘れられたのですか? バカなのですか?」


「……ん?」


「『感受性豊かな年齢じゃないと転生のドラマがない。かといって幼すぎても話にならない。何千年と歳をとって達観されてもつまらないから、精神は永遠の十八歳でいこう』……とおっしゃっていたのは我が君ご自身です」


「そうだったっけ……よくそんな昔のこと覚えてるな。っていうか今、サラッとバカって言わなかった?」


「……滅そうもございません。耳の錯覚では?」


「そうか? ならいいけど……ちなみに『経験値十分の一』はなんで付けたんだっけ?」


 側近は再び、今度は隠す様子もなく大きな溜め息を吐いた。


「やはりバカですね。『百回も転生したら強くなるのは当たり前だから嫌がらせしてやる』とのお考えで、獲得経験値を一桁削ぎ落としたのです」


「ねぇ、今やっぱりハッキリ『バカ』って言ったよね!? 上司に向かってバカ連呼する部下がどこにいるんだよ!」


「ああ、お耳に届いてしまいましたか。大変申し訳ございません。つい、本音が」


 無表情のまま、微塵も反省の色が見えない頭の下げ方をする。


「『つい』って……ハァ、まあいい。だが、このまま一方的な展開になってもつまらんからな。よし、決定だ。こいつにだけは何も教えず、いつも通りシレッと転生させろ。ついでに生まれ落ちる時期も少し遅らせるか。これで多少は差が埋まるだろ」


「なるほど。他の二人には転生の意味を説明し、呪縛を解いた上で『相当頑張らないと負ける』と警告を発する……と。その程度のアドバイスとハンデの設定であれば、ルールの範囲内で可能です。かしこまりました、神よ」


 白いスーツの男は深々と一礼すると、そのまま煙のように姿を消した。


「さてさて……どんなドロドロした世界が生まれるか、楽しみだなあ」


 椅子の背もたれに深く寄りかかり、神は不敵に口元を歪めた。


 この物語の主人公・ルクスは、何も知らされないまま百回目の転生を迎えるばかりか、あまりにも巨大なハンデを背負わされたことに、まだ気づいていなかった――。



「あー……またここからのスタートか」


 視界に入ってきたのは、信じられないほど小さくて丸っこい自分の手足。


 自分が赤ん坊という存在に巻き戻ったことを理解するのは、これで百回目だ。相変わらず体は思い通りに動かないし、声を出そうとしても「あー」とか「うー」という情けない喃語にしかならない。


「不便だけど、まあ、身体が大きくなるのを待つしかないか」


 俺はいつものようにあっさりと現状を受け入れた。


 見回せば、木製の小さなベビーベッドに寝かされている。覗き込んでいるのは、今世の両親と思われる若い男女だ。二人とも顔をくしゃくしゃにして、俺に満面の笑顔を向けている。


「よかった。今回も一応、まともそうな家に生まれたみたいだな……」


 俺は今世で『ルクス』と名付けられた。


 俺には、前世の記憶がある。いや、前世どころか前々世、前々々世……遡ればきりがない。今回でなんと、記念すべき百回目の転生となるのだ。


 これまで歩んできた百回の人生は、まさに波乱万丈だった。


 国と国が泥沼の領土争いを続ける世界。


 人間と魔物が生き残りをかけて殺し合う世界。


 多種族が己の尊厳をかけて覇権を争う世界。


 振り返ってみれば、ろくでもない戦乱の世界ばかりだった。


 そんな環境だから、運が悪いと生まれた瞬間が「魔物が徘徊する深い森の中」だったり、「崩れかけた廃墟の瓦礫の下」、ひどい時には「冷たい牢獄の床の上」だったこともある。それに比べれば、温かい家と優しそうな両親がいる今回のスタートは、大アタリの部類だった。


(でもまあ……百回目と言っても、どうせ今回も似たような争いばかりの世界なんだろうな)


 そんな冷めた思考を巡らせながらも、赤ん坊の抗えない生理現象には勝てず、強烈な眠気に襲われて俺はそっと目を閉じた。



 それから、十二年の月日が流れた。


 朝の澄んだ光で目を覚まし、顔を洗うために洗面所へ向かう。


 鏡を覗き込むと、そこにはなかなかに整った顔立ちの少年が映っていた。


 艶のある黒髪に、同年代と比べても頭一つ分ほど高い身長。太すぎず細すぎず、適度にしなやかな体つき。まだ十二歳ということもあり「格好いい」というよりは「可愛い」寄りの印象だが、将来は間違いなく男前に化けるだろう。


(これは将来、女の子にモテて困っちゃうかもしれないな……)


 そんな能天気なことを考えつつ、前髪を整える。


 赤ん坊の頃の俺はほとんど泣かなかったため、両親をかなり心配させてしまったらしい。しかし一歳になる頃には誰よりも早く自立歩行を極め、言葉を完璧に話し、文字や絵を描き始めたため、今では「天才児」として生温かく見守られている。


 本当は生後数ヶ月で歩くことも話すことも可能だったのだが、あまりに早すぎると「悪魔の子」などと気味悪がられて殺処分されかねない。それは過去百回の経験から学んだ、身を守るための知恵だった。


 この十二年で、この世界の構造も大体把握できた。


 予想通りというか何というか、大小さまざまな国家が入り乱れ、戦争によって常に領土を奪い合っている世界だった。国の数は二十から三十ほど存在すると言われているが、正確な数は誰も把握していない。内戦で分裂したり、一晩で滅んだりして、毎日のように情勢が変動しているからだ。


 ――まったく、人間という生き物はどうしてこうも争いが大好きなのだろう。


 ただし、そんな混沌とした世界にも揺るぎない絶対強者が存在する。


『三大大国』と呼ばれる巨大国家だ。


アスール国、ロッソ国、アマレロ国。


 この三国は領土の広さ、資源の豊富さ、そして軍事力の全てにおいて完全に均衡しており、互いに牽制し合って直接的な衝突を避けている。周りの小国たちは生き残るためにこのいずれかと同盟を結んでいる状態だ。末端の同盟国同士による小競り合いは日常茶飯事だが、大国同士の全面戦争はここ三百年ほど起こっていないという。


 俺は運良く、その三大大国の一つである『アスール国』の平穏な村に生まれ、今日まで平和に生きてくることができた。


「ハァ……やっぱり今回も、いつも通りの殺伐とした世界かぁ」


 鏡の中の自分に向かって、俺は深く溜め息をついた。


 この先に待ち受けているであろう波乱の予感に、ただただうんざりしながら。

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