進化の光
明けましておめでとうございます。
今年も宜しくお願いします。
大変、お待たせしました。続きを楽しみにしてくれた人ありがとうございます。
要塞都市より南の森林地帯では、キリヤと怪物による戦闘は続く。キリヤ自身の攻撃では効果が少ない事は先程までの戦闘にて理解している。だが、キリヤは駆け出す脚を止めない。攻略の糸口を掴んだからだ。
先ほどの攻防の結果、数十メートル程に縮小された怪物の足元に難なく、辿り着き大剣にて一閃。竜炎による全身破壊の後遺症なのか、動きが頗る遅い。故に、両足を安易に両断される。自身を支える足を失った所為で盛大に前のめりで倒れ込む。しかも、手を出す事もない。傍から見ると、凄く痛々しい転び方だが、本人である怪物には大したダメージには成り得ない。
「先ずは、足かな」
地面に伏している隙だらけの怪物を度外視してキリヤは両断した足に狙いを定める。戦闘において機動力を削ぐ意味を込めて脚を狙う者も多く存在する。だが、切り落とした足を狙う意味などは普通なら考えられない。よほどの私怨のある相手にしか考えられない暴挙。だが、一切の迷いもなくキリヤは行動に移す。
身体から切り離された個所の下でキリヤは怪物の一部を喰らう。本体から分離されている部分は捕食者にて捕食が出来るという事実に先の一件でキリヤは気付いていた。
何の問題もなく、吸収し終えると反転して怪物の本体に斬りかかるべく、駆け出す。その頃には完全に回復を果たした怪物が立ち上がろうとしていた。
背後からの不意打ち気味の斬り掛かりに反応してか、無数の鋭利な触手群が迎撃するべく生成される。その触手を大剣にて切り払い、肉薄して大剣を背中に突き刺し、力一杯にグルリと回し、肉を抉り抜く。分離した個所をすぐに吸収する。真っ赤な鮮血がキリヤの顔を汚すのもお構いなしに残虐な攻撃を続ける。少しでも間が空くと再生される事を理解しているからだ。
肉を抉り、喰らう事に嫌悪感を抱くが、それでも手を止める事はない。キリヤが喰らう分だけ怪物の質量が減り、魔力も弱小化する。
「喰らい尽くしてやるから覚悟すんだな」
これがキリヤの導き出した攻略方法だった。
だが、この攻略方法にも欠点は存在する。肉を削ぎ落して、キリヤが喰らう分だけ、化物の存在値も減少するが、微々たる物でしかなかった。それに怪物は徐々にだが、キリヤの動きに反応できる様になりつつある。最初は難なく、削ぎ落せていたが、数十分も経つころには順応されてキリヤの攻撃がほとんど通らなくなっている。
「大分、魔力も回復したことだし、一気に畳み掛けてみるかな」
回復したと言っても、全快には程遠い。だが、ここで勝負に出る。拙速にて大量の分身を現出させる。無論、性能なんてものに気を配る余裕もない。ただ素早く、大量に用意出来れば良いのだから。
何百という数を優に越すが、尚も分身の量産は止めないキリヤ。その光景を怪物が正しく認識できた事は僅かだった。気が付けば、獲物が増大していた。ただ、それだけである。故に、黙って見守る訳でもなく、今まで通りに殺戮を再開するべく、地を蹴り迫る。これまでの時間は一分も掛かっていない。僅か数十秒といったところだった。
「ハァ、ハァ……ッ、これが限界っぽいな」
極限までに魔力を噴出していた事に加えて怪物が動き出した事にさすがに限界を感じてキリヤは分身達に邀撃を命じる。肩で息を零しながらも一挙手一投を逃さない様に視線を逸らす事はない。
千を超える数の分身体は一斉に飛び掛かる。分身体の性能は勿論、武器までもがバラバラだ――――――ただ一つの使命を除いて。
二十メートル程に縮小しているが十分すぎる巨躯な怪物の右腕が無造作に横に振られる。たった、それだけの事で百体ほどの分身が淡い魔力光と化して消失する。
だが、次の瞬間には空を、大地を踏み抜いては各自の得物を振りかぶる者共が居た。その者共の刃が届く前に怪物の体中から出る無数の鋭利な触手の餌食と化すが、一瞬で絶命し魔力光と成らない個体が多数と見受けられる。その個体の消滅も時間の問題だった。それでも、彼等の意志を崩す事は適わない。
触手群の攻撃を浴びた個体は自身が消滅する前に自身に深々と突き刺さっている触手を切断し捕食者にて吸収をする。それにより、前線に復帰できる個体も存在する。
無事な個体は無我の境地にて次々に襲い掛かる。ただ一つの目的の為に。
―――――――――喰らえ!
破竹の勢いで分身体達を鏖殺していく怪物に対して分身体は命を賭しての特攻するしか道は残されていない。時間が経過するにつれて、分身の数も激減して今では百を切ろうとしていた。
しかし、分身体が消失するにつれ、キリヤの身体にも変化が生じていた。
底を尽いた筈の魔力が徐々にだが回復し、新しい能力すらも習得していく。
分身が消失する際には、魔力、記憶、能力が本物に還元される機構が存在した。これによって、怪物は倒した分身体を吸収する事が出来ずに、微力だが、確実に力を奪われていくのだ。
この方法だけで倒すのには圧倒的に分身の数が足りない。故に、キリヤ本人が動き出す。
先ほどにも使った『縮地』と『クイック・スピア』の併用にての自身の最速の技を怪物の左の肩口の部分に叩き込む。分身たちとの混戦状態での奇襲のお陰で呆気なく成功する。
深々と突き刺さった天使槍から竜炎を注ぐ。ここまでは、前回と同じだ。
(全身に巡らすイメージではなく、一気に膨張させるイメージ――――――)
「破ぜろッ!」
想像通りに竜炎が内部で弾ける。まるで、爆弾が破裂したかの衝撃を一瞬だが、撒き散らす。その衝撃により怪物の左腕が宙を舞う。爆破による衝撃で痛覚の無い怪物にも一瞬の硬直が生じる。その刹那の瞬間に天使槍にて、真横に一閃。『絶対切断』の力を込めていたのは言うまでもない。胸元の高さから上が見事に両断されるが、数秒も経たずに元に戻る。
だが、その数秒の間に吹き飛ばした左腕の下に辿り着き捕食を開始した。いつもは一瞬で魔力光と化して消失する筈が、量が多いのか、質の問題なのか不明だが、完全に吸収し終えれない。
左腕の生成も終わらない内から既に怪物は反撃の為に動き出していた。右腕を振りかぶり拳を振り落としてくる。
――――――ドスンッと、大地を揺らし、その場に小規模なクレーターを発生させていた。間一髪で左腕の吸収を終え、直撃を躱す事に成功したキリヤ。すかさず、その拳に天使槍を絶対切断の能力を以って振るう。
そこから先は一方的な展開に成り替わる。最初の苦戦が嘘の様に事が進み始める。
千体以上の分身の経験が凝縮されたキリヤにとって、既に怪物の攻撃は見切ってある。触手がどの様に動くのか、どの様な反応をするのかが、手に取る様に理解できる。
もはや、戦闘とは呼べない。ただの作業と化していた。徐々に肉を削ぎ落して喰らうだけの。
本能によって、このままだと死ぬ事を察した怪物は奇跡を起こした。消えていた筈の自我が目覚めたのだ。自身の器以上の魔力を摂取し過ぎていた事が原因で暴走していたのだから、自身の過剰な魔力が激減した事が幸いしてキョウキは自我を取り戻しつつあった。
キリヤの勝利は揺るがない……筈だった。この時までは—―――――
キョウキの意識が覚醒した。それに伴い、キョウキの身体が魔力光にて燐光していく。この現象にはキリヤも覚えがある。自身も助けられた事のある現象。
「ま、まさか!!」
自分の推測が間違っている事を願いキリヤは駆け出す。キョウキを殺す為に。
渾身の絶対切断を放つが、キョウキを覆っている魔力光に拒まれて自身の必殺技が届かない。それでも、諦めずに何度も色んな攻撃を仕掛けるが、無駄に終える。遂に燐光を終えてキョウキの姿が現れる。
進化が完了したのだった。




