反撃の狼煙
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要塞都市と呼ばれる場所より数キロほど南下した森林では超ド級の化け物が暴れている。その化け物もは元々は固有魔物だったが、二人の魔王の実験により豹変した。その二人の魔王とは【病魔王】の異名で恐れられているカースド・ウィルス。それと、超合成魔獣キメラティックである。この二体も正真正銘の魔王として世界中の国々で恐れられている存在。
その危険な魔王の作品と相対するのは悪魔王ベルゼブブの片割れの能力を所持している元日本人の上級魔人のキリヤである。
キリヤは巨躯で異形の怪物の身体の一部を切り裂く。怪物にも刃が通る感覚が手に伝わるが気にせず、矢継ぎ早に大剣を振るう。当初の数十メートルもの大剣とは違って大きさは二メートル程のシンプルな大剣。その代わりに強度を底上げしている為に一度や二度の接触ぐらいでは刃毀れなどの不具合がでる事もなかった。
斬りつけては、避ける。酷く一般的な戦法である、ヒット&ウェイを繰り返すキリヤ。だが、斬り付けた個所も数秒も経つとビデオの逆再生の如く元通りに復元される。
自前の俊敏性を多大に発揮させ縦横無尽に空中をも駆け回る事で怪物の鋭利に尖った触手の群を回避する。よって、互いに決定打を与える事が出来ない状態のまま数時間の膠着状態に突入していた。
身体の至る個所から獲物を刺突するべく鋭利な触手が伸びる。その攻撃を一撃にてキリヤは切り払う。そんな行動を数えきれない回数も繰り返される。徐々に精神の摩耗が原因で集中力を切らす事が増える。結果的に自身の傷も増えていく。
丸太を連想できる程の極太の触手を大剣の腹で受け止める。その衝撃で一瞬、身体が硬直する。その隙を逃さないと代弁するかの様に四方から続々と迫ってくる触手の群。大剣では間に合わない。いや、初撃を防ぐことは可能だが、第二、第三と淡々と迫りくる全てを防ぐのは実質的に不可能である事をキリヤは理解していた。故に……
『風刃結界』
物理ではなく能力に頼る。『風流操作』と『風圧操作』の併せ技。創作物では珍しくもない技名。自身を起点とした約二メートルの範囲に風の刃を無数に発生させて効果範囲に侵入したモノに容赦なく牙を剝く。
既に何度目かも覚えていない程には使用してある。無論、最初は技名なんて決めてもいなかった代物。それでも、何度も多用する内に不便に感じ命名した技であった。
風刃結界にて迫りくる鋭利な触手を細切れにして一息つく。
「厄介過ぎだろ……」
風刃結界内にて思案する。その間にも容赦のない攻撃の嵐が続く。大規模とは言えないが、決して微量とも言えない量の魔力を消費してまで思考に耽る。
これまでの事を分析した結果で言えば、勝率は限り無く低い。物理攻撃は効果無し。打撃も斬撃も意味をなさない。唯一、効果が確認出来たものは魔法系統の能力だけ。
切り裂いても元通りにくっつき、再生にする相手の対処法は限られる。一つは再生を上回る攻撃。もう一つは対象部位を消失させること。
対処法が浮かんでもキリヤには勝機が見えないでいた。何故なら、その二つとも既に実践したのだから。一つ目は純粋にキリヤの攻撃力が化物の再生力に追いつけずにいたからだ。二つ目は魔法系統の能力で消失させる事は不可能ではない。しかし、あの巨躯を誇る化物の全質量を消失させるには圧倒的にキリヤの魔力が不足している事が原因であった。
戦局は完全に化物側に傾いている。それでもキリヤは足掻き続ける。
連続で迫る刺突にて風刃結界が破られる。理由は単純である。思考に意識を傾け過ぎて風刃結界の制御が疎かになったからだ。
風刃結界を超えて迫る刺突の群を神眼にて紙一重で避け、空中歩行にて空を駆け抜けて距離を取るが、無傷で全てを回避できる筈もなくて武器の破損と右の脇腹を抉られる結果に終わる。
治療もすぐに終了するが、その隙を狙うかの様に苛烈さを増した攻撃が襲い掛かる。回復中の攻撃は風刃結界にて凌ぐ。風刃結界を解くと同時に天使武器は発動し大天使の使用していた天使槍が顕現する。
迫りくる多数の触手に対抗するべく武器を変更する。大剣だと小回りが利かないが槍だとリーチもあり小回りも効く事が理由だ。それに能力としての性能も天使武器のが槍しか出せないが優秀である。
槍を手にしたキリヤは一直線に化物の額に向けて空を駆けだす。迫りくるキリヤを迎撃する様に鋭利な触手の群が動き出すが、天使槍の鋭い一閃により薙ぎ払い距離を詰めるべく空を蹴る。
槍で触手の群を弾き、払い、受け、切り裂く。槍で対処出来ない攻撃には風刃結界で対応する。その甲斐もあり、無傷とは言えないが、二体の距離は十メートル程に縮まる。その頃には触手の数や勢いは、当初の攻撃の数倍のにも及んでいる。
「速さを宿せぇぇぇッ 《クイック・スピア》 」
幾十と迫りくる触手の群と交差する刹那に自身の最速である縮地と併用して『クイック・スピア』を放つ。その直後にはキリヤの天使槍は、文字通りに肉の壁と化していた触手の群れを通り過ぎて怪物の額に深々と突き刺さっていた。無論、驚異の回復力を誇る怪物にはその程度の攻撃では致命傷には程遠い。
「まだだぁぁぁッ!」
深々と天使槍が突き刺さって出来た傷口に残りの魔力を全て注ぎ込む様にして竜炎を叩き込む。内部破壊するべく全身に竜炎を浸透させるべく細かく均等に薄く広げるイメージで竜炎を操作する。この技は、鬼の上級魔人のゴーキが使った『破壊拳』と同じイメージでキリヤは怪物の全身を上から下に向けて薄く伸ばされた竜炎が暴れ回る。
今回の攻撃は初めて怪物に致命傷が通ったと言っても過言ではなかった。竜炎を送り込み過ぎた所為で頭部は弾け飛んでいた。巨体に見合ってデカイ頭部だったが、見るも無残な姿に成り果てている。頭部を破壊された影響か、全身を駆け巡る竜炎の影響かは不明だが、動きを止めた。だが、それでいて絶命している訳ではなかった。この巨大な身体は頭部が無くても、直立不動にて脈打っている。
(命令系器官が再生するまでに仕留めねば、勝機はないって頭では理解しているが……このままでは、もう魔力切れになる)
残り僅かの魔力という事もあり、キリヤには迷いが生じていた。全ての魔力を消費しても倒しきれるかが不明な怪物が相手だからだ。もし、魔力を使い果たした後に怪物が活動を再開すれば、今のキリヤでは撤退することも厳しいからだ。
撤退するのが無難ではあるが、ここで撤退すれば怪物の餌食になる者が後を絶たないだろう。それにそもなって、実力も上がるのは必然だ。そうなってしまえば、勝機はゼロになる。故に、キリヤは悩む。自分の行動が大勢の者の命を左右するのだから。
キリヤが頭部を破壊して数分の時が流れる。数分と云えど、体内を十分に竜炎が蹂躙しただろう。それ程までにキリヤも本気だった事が伺える。身体の至る所が炭化している。
脈打つ以外にはピクリとも動かない身体を視て、キリヤももう少し様子を見る方向に方針を決めていた。欲が出たのだ。その結果―――――――キリヤは掴まった。
頭部を吹き飛ばしたキリヤは怪物の巨大な肩の上に陣取り、竜炎を絶え間なく流し続けていた。だが、首の周辺から巨大な腕が生えて、集中力の切れかかっていたキリヤを捉えたのだ。
通常なら竜炎に常に曝されている頂上付近の細胞は完全に死滅している筈だが、驚異の回復力ともいえる適応力で竜炎に対する耐性を得ていた。今まで動かなかったのは、細胞が竜炎の耐性を身に着けていた副作用であった。細胞が適応し終えると、一瞬の隙でキリヤに襲い掛かってきたのである。
「――――ッチ! っざけんなぁぁぁ!!!」
苛立ちのあまり舌打ちし、自身を竜炎で覆うが、竜炎に対する耐性を身に着けているので効果が薄い。そして、純粋な膂力が違い過ぎてキリヤは振り解く事も出来ない。徐々に接触部位から融かされ始める。上級魔人であるキリヤの身体は速攻で吸収される事はないが、長くは保たないことは自分でも理解出来た。自分の身体から白い煙が上がっているのだから。
両腕を含んで掴まれている所為で天使槍も上手く扱えずにいる。竜炎に風刃結界では、この強靭な掌を破壊する事が出来ない。既存の魔力も極僅かであったが、このピンチを逃れるべく魔力を練る。そして、身体変換で脚を刃状に変化させて絶対切断にてキリヤを捉えている腕を切り落とした。その結果、重力に従って地面に真っ逆さまに落ちる。
「ッイテテテ。なんとか、助かった」
木々がクッションに成ったお陰で衝撃が拡散された事もあって、大したダメージにはなっていなかった。本体から切り落とされたお陰か、掌からは吸収する素振りが見えなくなっていた。その頃、本体は死滅した部分を身体から取り除きながら身体を再生させていた。
「今のうちに脱出だ」
強い力で縛られている為に生半可な事では抜け出せない。足の刃だと、上手く斬れなくて四苦八苦とする。
(魔力さえあれば、この程度……)
心の中で愚痴を溢していると、直感で感じた―――――――――これは喰える、と。魔力が枯渇寸前だった為に本能が囁いたのかは不明だが。その後の行動は早かった。一瞬で掌を喰らい、魔力を回復する。掌を喰らうと、能力が入手できた。どういう訳か『竜炎耐性』という能力を入手に成功した。今までは、身体の一部を喰らうだけでは能力は入手出来なかったが、今回は違った。これについて思考を重ねていると怪物も動きだした。
最初に比べると、一回りも二回りも小柄になっているが、それでも数十メートルは余裕である。そして、元と同じ様な人型で復帰していた。頭部も完全に再生してあった。
「まぁいい。考えるのは後だな」
先ほどの不思議な現象のお陰でキリヤは勝機が少し見えていた。魔力もまだ回復しきって、いないが大剣を作成して構える。
「反撃の狼煙といこうか」
大剣を担いでキリヤは怪物との距離を縮めるべく走り出した。




