要塞都市
お久ぶりです。中々更新できずに申し訳ありません。
これからも不定期ですが、宜しくお願いします。
病魔王カースド・ウィルスの影響で山頂から真っ逆さまに墜落する途中にキリヤは幸運にも崖に横穴を発見したお陰で、事なきを得た。だが、キリヤを襲う脅威は終わってはいなかった。むしろ、まだ序章にすら至っていない。
「———―――ッ、どうなっ……てんだよ」
横穴内にギリギリで辿り着いた直後にその場に前のめりで倒れ込む。魔力も気力も十分ではないが、倒れる程の無理はしていない状況だったが、身体が思い通りに行動しなくなっていた。それどころか、体温も急激に上昇して激しい頭痛に怠惰感に苛まれる。体調は徐々にだが、確実に悪くなりつつある。
(考えられる原因は病魔王だ。奴と出会ってから、身体がおかしい)
自身の不調の原因を追究するべく、最近の記憶を手繰るが、病魔王カースド・ウィルスぐらいしか原因が考えられなかった。
激しい発熱と発汗により、一層と怠惰感が増す。
(寒い……体中がいてぇ。寒いのに身体は熱い……わけわかんねぇ。あと、なんか身体が重い。目をとじるな……死ぬぞ。まじで起き—―――――― )
そして、遂には気を失ってしまう。
体調不良により倒れ込んでから、意識が覚醒した時には夕暮れも終わり、暗闇が辺りを支配していた。だが、この場所から少し距離が離れた場所では怪物が人間の街を襲っていた。人間たちは防戦一方どころか、戦いにすらなっていなかった。ただの蹂躙だった。騎士、冒険者、魔物、魔人が束になって挑んでも結果は無情にも時間稼ぎがせいぜいだった。
「どれくらい意識を失っていたんだ……」
その呟きに応える者は誰も居ない。ただ、口から零れ出た独り言だった。外の暗さで大体の時間を推測する。
「少しは良くなっているみたいだ」
最初に比較してみても、少しだが良くなっているっと、自分の身体を眺める。高熱と強い怠惰感がまだ残っているが、倒れた当初よりはマシだった。それでも、キツイ事には変わりなかった。
「寝れないが、身体を休めておくか」
横穴の壁に背中を預け、横穴の出入り口に結界を張る。結界と言っても、ほんの気休め程度の物だった。体調不良も原因だが、何故だか魔力が回復していないのだ。それどころか、魔力が徐々に減っているのだ。
魔力が徐々に減っているのには原因があった。キリヤの体内では病魔王カースド・ウィルスによる病魔に本能で魔力が抗体の様に抗っていたからだ。。自然回復する魔力よりも消費する魔力の方が多いのが原因だった。このことは、まだキリヤは気付いていない。
朝日が昇る。キリヤはあれから一睡もしていない。一睡もせずに自身の身体の事やこれからの事を考えていた。自身の今の症状の原因は病魔王カースド・ウィルスだと推測したが、病魔王はキリヤに気付かれる事なく、この状態に出来る程の実力差がある。簡単に殺せるほどの実力があるのは確実だが、殺さなかった理由も気になった。
(殺す理由も無かっただけか? それとも、これで死んだと思ったのか?)
病魔王と争う理由はキリヤには無かったが、相手にはある可能性も考慮して今後の方針を練る。
魔力が回復していない事に気付いたのは、日が昇り始める少し前ぐらいだった。しかし、原因も解決策も思い浮かばないので放置するしかなかった。
「まさか、俺の体内に何かいるのか……」
キリヤが自身の身体に違和感を覚えたのは、太陽が真上に昇り切ったお昼の時刻だった。自身の魔力ではない魔力を自分の身体の体内から微かに感じたのが発端であった。その直後からは違和感の正体を探るべく、自身の魔力の流れや質といったものを強く意識する様に心掛けて、ようやく気付けた。これもキリヤの感知能力が高い能力の恩恵だった。普通なら気付かないレベルの隠密性の高い能力で気付ける者は稀である。
先ほどにキリヤの勘付いた様にキリヤの体内に異物が潜んでおり、猛威を振るっていた。原因もキリヤの推測通りで病魔王カースド・ウィルスにあった。彼女の所持してる能力には自動的で周囲に存在する生命体の身体を蝕む病魔を発現させる能力が原因である。無論、自分の意志で解除も出来るが、彼女はキリヤに微塵も興味もなくて、死んでも死ななくても、どちらでも構わなかった。それ故に、今の状況であった。
「この症状が病魔王の能力による影響ならば、俺自身の魔力で和らげる事も可能な筈だ」
キリヤは残っている魔力を身体中に巡らせ、病魔の侵攻に耐える。推測通りに病魔の活動を和らぐ効果があった。病魔に対する処置も手探りな状況だった為に時間が掛かったが、夕刻前には確立できた。
「問題は俺の魔力が保つか、だよな」
どれくらいの持久力があるのか、解らない攻撃に対してキリヤは魔力を巡らす事しか出来ない。
「目標を死滅させるまで継続する能力だったら、お終いだよな……」
いつ終わるのかが解らない攻撃というだけで、疲労感と恐怖が倍増する。その攻撃をキリヤは耐える。魔力も徐々に消耗していく。魔力消費に加えて、頭痛や眩暈といった効果も完全に払拭できた訳ではなく、ただ時間だけが過ぎていく。
一睡もする事もなく、三日目の朝日が昇り始める。三日目の差し掛かる頃には病魔の影響力も衰えてくる。しかし、キリヤ自身も魔力が底を尽きそうな状態であった。
(安定してきたな……今日は休んで明日には発つか)
晩には完全とは言えないが、安定していたので、次の日には怪物を討つ為に動き出さそうと考えていた。
朝日が昇り始める前には目が覚めるキリヤ。四日目には魔力以外は順調に回復していた。魔力だけは総量が莫大な為に自然回復が追いついていなかったが、身体は問題なく動く状況だ。
「よしッ! 行くか」
屈伸、伸展運動で身体をほぐす。何日も安静にしていたので『ゴキ、ゴキキ』と音を鳴らす。その音を耳にしながら横穴を発つ。そのまま鬼達と争った山頂に向かう。最初に状況の確認をするのに、高みから周囲を観察する方が効率的だと考えた結果である。
「うわぁ、自然破壊もいいとこじゃん」
ボノロア大森林の至る場所に破壊の痕跡が見られた。木々は倒れ、真上から拝見すれば、緑の絨毯みたいにギッシリと覆い茂ってあったのが嘘のように茶色の部分が点々と存在した。
「――――――ん、あれは……獣道か?」
先ほどまでキリヤが過ごしていた横穴とは逆側に視線を動かすと、獣道と表現するしかないような道が発見できた。ただし、大きさは普通ではない。尋常ではないほどに巨大である。幅が徐々に広くなっていく道は森林の外の方にまで続いていた。何の法則性も見受けられない様にクネクネとうねりも見受けられる。時々だが、森林の方向に引き返した経歴も伺える。
「あんな巨大な獣道が自然に発生する訳がない。ってか、俺が最初に山頂に来たときは何もなかったしな」
発生原因を考え込みつつも周囲を窺い続けるキリヤ。自然の恵みで栄えていた森には生命の息吹が碌に感じられない。木々や植物までもが弱々しい様にもキリヤには見えた。
「どの方角に行ったんだろうか……まぁ北っぽいけど」
北の方角に進むにつれて、大地が激しく荒れていくのを見れば、一目瞭然だった。自己完結を済ませて北に向かって飛び立つ。
感知能力の範囲を最大限に発揮しての高速飛行で、怪物の足取りを探すキリヤは半刻ほどで目標を捉えた。それまでに通り越してきた村や町は全壊、半壊が当たり前だった。そこで、どれだけの生命が理不尽に奪われたかはキリヤには想像もつかなかった。
目標である怪物はボノロア大森林を更に北に向かった場所に存在する『要塞都市アインバルド』に向かう道中の林で現在、足止めをされていた。足止めと言っても竜騎士と呼ばれる者達が数名で怪物の周囲を『飛び続ける』といった簡単な行動だけ。だが、それでも本能で動き続ける怪物には効果は覿面である。しかし、距離を開けすぎれば怪物が要塞都市に向かってしまう為に竜騎士たちは命を捨てる覚悟で任務に挑んでいた。
「まさか、あんな巨大なってるとは……それを、あんな少人数でどうするつもりだ? まぁお手並み拝見といきますか」
目標に追いついたキリヤは竜騎士と怪物の出方に目を見張る。予想外というか、全く想像していなかった大きさになっていた怪物を目にして、臆したキリヤは様子見という理由で遠方から様子を窺う事にした。
破壊と残虐の限りを尽くす怪物に豹変したキョウキ。現在、怪物は百メートル程の巨体を誇っているが、知性の欠片すらも感じられないが、その恐ろしさは本物だった。何千、何万もの生物を死に至らしめるが、その勢いは留まる事を知らない。だが、不幸中の幸いにも現在の怪物には知性や自我が欠如――――――いや、存在しないのが不幸中の幸いであった。
百メートルにも迫る巨大な怪物をこの場に留めるのが、今回の彼等の任務であるが、それは無謀とも言える作戦であった。
「無茶苦茶じゃんかっ! こんなの生き残れる訳がないじゃん!」
相棒の竜と一緒に巨大な腕を潜り抜けながらに彼は叫んだ。泣き言を言いながらも任務を続行しているのは要塞都市は彼の故郷で家族や親しい友人が住んでいるからだ。どれだけ、任務前に自分を鼓舞していても目の前の死の恐怖は拭えない。それどころか、増大している。その結果、第二、第三の攻撃を避けきれずに吹き飛ばされる。
「うわぁぁ!!」
攻撃自体は騎竜である飛竜に直撃したお陰で騎手である青年は宙に放り出されただけで済む。
「—―――新人っ、無事か!?」
宙を舞う青年を壮年の男性とその相棒の飛竜が救う。
「たっ、隊長!! おれ生きてだ……」
青年は涙を流しながら、身を震わせた。未だに死の恐怖が残っているのだ。
「隊長! 新人も無事で良かったんだけど、このままだと私たちが殺られるのも時間の問題ですよ」
火魔法で怪物の注意を引き付けながら仲間の女性が叫ぶ。他にも数名の竜騎士が弓矢や魔法といった攻撃を仕掛けるが、注意を惹く事しか出来ない。
「わかっているっ!! だが、オレ達が持ち場を離れる訳にはいかないだろっ……少しでも時間を稼ぐ事だけを考えろ! そして、頼むからオレより先にお前らは死ぬんじゃねぇぇぇぞぉぉ!!」
隊長の鼓舞を聞き、部下たちも自分に気合を入れ直す。それからは順調に事が進む。
『グィギャァァォォォォ!!!!!!』
中々に逃げ回る竜騎士に苛立ちを隠せないのか、怪物は咆哮する。その直後から身体の至る所から腕が生え、竜騎士を襲う。その攻撃に竜騎士たちも対応できずに次々と腕に捕まっていく。
「キャァァァ!! 何よ、これは!?」
怪物の腕に触れられた部位が次第に溶けだす。その速度は早く、数秒後には溶けて怪物の一部となっていた。
「ここまでかっ!」
隊長と青年を乗せた飛竜も最後には捕まり吸収され始める。これで、現場で生き残っていた二人も死を覚悟した。
「うりゃぁぁぁぁ!!」
怪物の背後からキリヤが竜炎武装で造り上げた超巨大な大剣を振り下ろす。数十メートル程の大剣は重力とキリヤの力に従って怪物の脳天から叩き割る。
不意打ちで縦に真っ二つに割かれたはずの怪物の身体は次の瞬間にはくっ付き始める。そして、切り裂いたはずの大剣も強力な酸で溶かされたみたくボロボロになり、使い物にならない鈍と化した。さすがに使えない武器を得物にしとく訳にもいかずに能力を解除する。地面に追突しそうだった二人の竜騎士は分身によって無事に保護されている。
「チッ、やっぱ……効かんか」
楽に終わるとは端から信じていなかったキリヤ。
「来いよ、木偶の坊が! 先日の借りを返してやんぜっ!」
言葉が通じないと理解しているが人差し指を向けて啖呵を切る。
魔力が万全ではないがキリヤは勝てると推測する。図体がデカくなった分だけ動きも鈍く回避にも事欠かないレベルだから。それでも、不安も残っている――――――自身の攻撃も効いていないという事実が。
だが、前回の様にはならないと心に誓い、新たに先ほどの大剣と同じ物を作成し、己が敵と対峙する。
最後の流れを変更しております。
【前回まで】要塞都市に移動。
【改稿後】 要塞都市に行かずにその場で戦闘。




