ボノロア大森林での戦い ~ハーピィ編②
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キリヤの魔法をハプドヴァースの放った魔法――――暴風波が破り、キリヤに襲い掛かってきた。風の斬撃が容赦なくキリヤの身体を切り刻んだ。実際は短時間の筈なのに体感では十分ぐらい攻撃されていた様な錯覚さえ覚えてしまう程の苛烈な攻撃だった。まさか、自分の魔法が打ち破られるとは思っていなかったので『竜炎』等の能力で防ぐ事が出来なかったのだ。
「まさか、そんな大技があるなんてな……少し見縊ってな」
全身に裂傷が出来て、確かにダメージを被ったキリヤだが、自信の表情は崩れていない。何故なら、いくら攻撃を受けても『癒しの光』や『身体変換』で回復する事が出来るからだ。今回もその例の通りに『癒しの光』を発動し全身の傷を回復し始めた―――――しかし、それを放置する程ハプドヴァースは馬鹿でなかった。
「やはり、すぐ回復するか――――だが、これならどうだッ!」
ハプドヴァースは一瞬で消えた。いや、消えたように見えただけであった。それ程の超加速であった。事実、キリヤは反応出来なかった。いくら意図的に神眼をオフにしているとはいえ、それでも反応出来ると高を括っていた。だが、それを抜きにしても速い。その一言に尽きる。純粋に速いのだ。
「――――回復する事を知っていれば、それは追撃のチャンスになる。アンタもまぁ強かったぜ。次が在れば、もっと良い勝負が出来たカモな」
ハプドヴァースの右腕がキリヤの左胸を貫く。彼はキリヤを暴風波で仕留めれないと考えていた。そして、治癒魔法で傷を癒すだろうと読み、その一瞬を狙った。自身が誇る最高速度でキリヤの左胸―――――人間で云う心臓に一撃入れる為に固有能力の『疾風』を発動したのだ。その結果、ハプドヴァースの読み通りにキリヤの左胸を貫くことに成功したのだ。
「……確かに、アンタも強いな。最後の一撃は効いたぜ――――だが、お蔭で捕まえれる事が出来た」
キリヤが絶命したと思い込んでいたハプドヴァースは、大いに驚いた。そして、咄嗟に後方に飛び退こうとした。しかし、キリヤに刺さっている右腕が抜けないのだ。身体変換で傷口を塞いでから体内の細胞を鋼鉄に変化してあった。その為、見た目は普通なのだ。
「―――――ッ!? 貴様、何をした?」
驚きを隠せないままハプドヴァースはキリヤに質問する。
「答えるとでも?……それと、あんまり腕をグリグリとするな。」
刺さっている腕を必死で抜こうと腕を強引に動かしたりと云った色々な行動を行っていたハプドヴァースは急に動きを止めた。別にキリヤの事を思い遣って腕を動かすのを止めた訳ではない。止めなければ、死んでいたからだ。それは防御に専念しないとという意味であるが。
突如としてキリヤは身体全体から炎を出した。それは至近距離に居るハプドヴァースには危険とも言える炎であった。それは竜が使う炎―――竜炎である。その火力は計り知れない威力を持っている炎だ。その為にハプドヴァースは自身に風を纏わせ防御に専念したのだ。自分の直感とも云える生存本能に従った結果である。ハプドヴァースが自身に風を纏い防御態勢に入るのと同時に文字通りに火達磨になった。
「ほう、よく咄嗟に防御出来たな……まぁ火力が違うんだけどな」
火魔法の《ヴォルケーノ》と比べようがない程の火力の炎であった。勿論、それだけ魔力を込めていたが、全身に大火傷を負ったが死んではいない。ハプドヴァースは未だに抜けない右腕の所為で回避行動すら取れずにいる。
「さてと、いつまで保つかな」
「その前にテメェが死ねッ! 」
回避行動の殆んどが封じられていて、取れる行動が防御か攻撃しか残されていないハプドヴァースは攻撃を選んだ。左手に魔力を集中し、攻撃を放った。
「《風斬爪》ォォォッ!!」
風属性の魔力が左手を覆い、強力な一撃と化した左ブローがキリヤに襲い掛かったが――――――竜炎武装で手甲を創り右手で受け止めていた。
「これで手詰まりだな――――終わりだ!」
キリヤは左手に竜炎武装で同じく作成した長剣を縦に振るう。しかも、先ほどハプドヴァースが行っていた様に風属性の魔力を長剣に纏わせて強化してある。その容赦のない一撃が振り下ろされた。――――ズバッっと肉の斬れる音と鮮血が周囲に飛び散った。
「よく、躱したな。思いっきりの良い奴だ」
キリヤの長剣は見事に空を斬ったのだ。しかし、その場にはハプドヴァース血液で血だまりが出来ていた。つまり、彼はキリヤの一撃をあのままだと躱せないと悟り、自らの右腕を切り落として回避に移ったのだ。
「ハァハァ……」
対するハプドヴァースは左手で右肘より先の無い右腕を押さえていた。魔人である彼もさすがにこれ以上の出血は不味いと考えているからだ。キリヤの皮肉すら返す余裕が見つからない様子だ。
「俺の都合で死んでもらって悪いと思う。存分に恨んでもらっても構わない。せめて、最後は楽に逝ってくれ!」
剣を正面に構えてトドメを刺そうとしたら、急接近してくる者が居た。ハプドヴァースの妹のハピネヴェースである。
「お兄様!? そんな……」
「最後に少しだけ時間をやる」
キリヤはそれだけ伝えて、立ち止まった。トドメを刺さずに少しだけ待つことにした。彼もそこまで鬼ではなかった。
幾らかの時が経過した頃、周囲が騒がしくなった。今までは空気を読んで誰もが静かだったのに。
「ハーヴァス様、ハピネス様! オークの豚共が同盟の件についての返答を聞きにやってまいります」
一人の下級魔人が空から降りてきた。髪色や瞳の色は、ハピネヴェースやハプドヴァースと同じエメラルドを思わせる緑色である。
「なッ! ……これは、どうなっているんですか?」
下級魔人は血塗られのハプドヴァースを見て、絶句している。
「ハプスル、その話は本当なのですか!?」
ハピネスが信じたくないと云った表情で聞き返している。そして、現実は残酷だったらしい。
「あの豚共が約束や期限を守らないのは、今に始まった事ではない……しかし、タイミングが悪い。この現状では豚共を追い払う事さえ厳しい」
ハプドヴァースは片腕が無いだけで、まだ十分に話す余力は残っている。まぁ実力差を十分に把握してあると思うが。
「人間よ、頼む! オレに時間をくれ! この通りだ!」
ハプドヴァースは地面に頭を付けて頼み込んできた。それを見ていた周りの者も大いに驚いていた。まぁ当たり前だろう。自分たちのボスが頭を下げているのだからな。
「妹と喋る時間なら、もう少し待つが」
キリヤは歩きながら、そう言い放つ。彼にもハプドヴァースがその事を頼んでいない事は知っているが。
「違う! そうではない。豚共を追い払う時間だけ待ってほしい」
真剣な眼差しでキリヤの目を見るハプドヴァース。
「それを俺に信じろ、と? 」
「頼む! 絶対にオレは帰ってくるから」
必死に頼み込んでくるハプドヴァースに少し好感が持てた。本当に仲間の為に動くかは知らないけどな。嘘ついても殺すから問題はないがな。
「分かった。ただし、条件がある――――」
「ああ、助かる。それで構わない」
ハプドヴァースはキリヤが言葉を言い終わる前に感謝の念を伝えてきた。
「ただし、逃げるなよ。全てが終われば――――分かってるな?」
キリヤは言い終わるのと同時に『癒しの光』でハプドヴァースの怪我を回復させた。
「勿論だ。それと、助かった。ありがとう」
怪我を負わせた張本人にお礼を言うのもおかしなものだが、ハプドヴァースは気にした様子はない。
「ハプスル、豚共は今どの辺りだ?」
ハプドヴァースは部下の魔人にオーク共の現在地を訊ねていた。そして、そのすぐ後にハピネヴェース以外の二人の魔人は何体かのハーピイを連れて飛び立った。




