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第12話 彼なりのオークの生き方

 共同の焚き火が小さくなったころ。レッドタスク族の夕食も、終わりに近づいていた。


 ルークは狩人たちの間へ座り。右手に、生の鹿肉を持っていた。


 誰かの視線を感じるたび。一口。また一口と、肉を噛む。


 だが。膝の上へ広げた葉には。まだ半分以上が残っている。


 食欲がないことを。不思議に思う者はいなかった。


 胸の前へ固定された左腕を見れば。理由としては十分だ。


 焚き火の反対側では。ロッカがブランカとともに食べていた。


 ほかの狩人たちが戻るより先に食事を終え。最後の骨を、ブランカへ投げる。


 そして。一族の多くがまだ肉を食べているうちに。自分の小屋へ戻っていった。


 昼間。ロッカはルークへ言った。


 夕食のあと。自分の小屋へ来い、と。


 理由は告げなかった。


 焚き火の向こうには。年長の幼子たちに混じって、クラグが座っている。


 口の周りは狐の脂で光っていた。野生タマネギの匂いも。隣に座る幼子たちが、何度も体を遠ざけるほど強い。


 誰かが文句を言うたび。クラグは生肉をもう一口食べ。何も聞こえなかったふりをする。


 ロッカがいなくなった途端。生肉を食べると腹が痛くなる体質は。治ったらしい。


 最後の肉が配られる少し前。三人の狩人が集落へ戻ってきた。


 先頭はブロッグだった。


 髪へ差した二本の赤い羽根のうち。一本は大きく傾いている。


 だが。まだ落ちてはいない。


 両手には、それぞれ一羽ずつ野兎。


 後ろの狩人は。若い牡鹿を引きずっていた。


 ブロッグは。集落を横切りながら、大声で話している。


 ほかの狩人たちが石の多い地面で足跡を見失ったあと。ブロッグだけが牡鹿を追い続けた。


 途中で。獲物を奪おうとする、はぐれオーガまで現れた。


 だが。ブロッグには追いつけなかった。


 何人かのオークが。話を聞こうと顔を向ける。


 ルークは向けなかった。


 残った鹿肉を。皆で使う大きな葉へ戻す。


 慎重に立ち上がり。焚き火から離れた。


 戻ってきた狩人たちの横を通ったとき。ブロッグの声が。一瞬だけ途切れた。


 視線が。ルークの吊り帯へ向く。


 それから。ルークが進んでいく先を追った。


 道の先には。ロッカの小屋がある。


 ブロッグは何も言わなかった。


 すぐに。オーガがどれほど大きかったかを話し始める。


 ルークは歩き続けた。


 ロッカの小屋は。ほかのレッドタスク族が使う寝床より、かなり大きい。


 それほどの小屋を持てる戦士は。集落にも数人しかいない。


 だからといって。中が快適というわけではなかった。


 大きな小屋を与えられた戦士は。寝台や家具を置かない。


 ほかの者に触らせたくないものを。中へ積み込む。


 ロッカの小屋も。寝床であり。武器庫であり。物置であり。ブランカの巣だった。


 ルークは入口の前で止まる。


 木枠を。右手の拳で一度叩いた。


 中から。低い唸り声が返ってくる。


「入れ」


 ロッカの声。


 ルークは。入口を覆う毛皮を押し上げた。


 中には。古い血。獣の毛。革。鉄。


 それらが混じった匂いが満ちていた。


 奥の隅では。ブランカが数枚の狼皮の上へ伏せている。


 頭は前脚の間。


 だが。目は開いていた。


 左前脚の傷は。すでに塞がっている。


 アカヤナギ茸の練り薬を塗った場所には。毛のない細い線だけが残っていた。


 ルークが中へ入ると。ブランカの目も動く。


 小屋の残りは。ほとんどが戦利品で埋まっていた。


 人間の盾が、壁へ立てかけられている。その下には。布の束。槍。割れた鞘。縄の束。中身のわからない袋。


 空いている場所へ。何でも積み重ねてあった。


 天井を支える梁からは。人間の鎧が、いくつも吊るされている。


 多くは。オークには使えない。


 胸当ては狭すぎる。腕当ては肘を通らない。兜には。牙を収める場所がない。


 ロッカは。その中でも大きなものだけを選び。革紐を長いものへ替えて使っていた。


 小屋の中央。低い木の塊へ座っている。


 膝の上には。いつもの胸当て。


 前面へ描かれた赤い牙は。決闘で地面を擦ったせいか、一部が剥げている。


 ロッカは。片側の穴へ、新しい革紐を通していた。


 顔を上げない。


「閉めろ」


 ルークは入口の毛皮を下ろした。


 ロッカは革紐を強く引く。


 軋む音。


 結び目を確かめる。


 それから。隣の山へ手を伸ばした。


「そこだ」


 足で何かを蹴る。


 それは床を二度転がり。虚ろな金属音を立てて。ルークの足へ当たった。


 最初は。形の悪い兜に見えた。


 ルークは身を屈め。右手で持ち上げる。


 鉄の鍋だった。


 片側は。内側へ大きくへこんでいる。


 丸い底には。黒い煤がこびりついていた。


 湾曲した持ち手が。縁へ沿うように倒れている。


 人間の厨房なら。中ほどの大きさだろう。


 ルークの手にあると。小さく見える。


 それでも。肉を数人分煮るには十分な大きさだった。


 ルークは。焚き火の光が当たる方向へ鍋を傾ける。


 鉄は厚い。


 へこみはあるが。裂けてはいない。


 底にも穴はなかった。


「襲撃へ行った奴が、兜だと思った」


 ロッカが言った。


「頭へ入らなかったらしい」


「鍋だ」


「なら、鍋だ」


 ルークは。親指で縁をなぞる。


 かすかな記憶が戻ってきた。


 前の人生。


 大きな厨房の炉の上には。いくつもの金属鍋が吊られていた。


 使用人たちは。煮汁。汁物。肉と野菜を煮込んだ料理を。絶えず混ぜていた。


 ルークは。そこで作られた食事を。数え切れないほど口にしている。


 だが。自分で鍋を使ったことは。一度もなかった。


「なぜ、俺へ?」


「肉を料理するからだ」


「焼いているだけだ」


「ホブゴブリンは、どれも料理と呼んでいた」


 ルークはロッカを見る。


「なら、俺が何をしていたのか知っていたんだな」


「見る前から知っていた」


 ロッカは。胸当ての革紐を締める。


 革が大きく軋んだ。


「その鍋は、おまえのためではない」


 ルークは黙って待つ。


「幼子のためだ」


「クラグか?」


「生肉を食べれば、腹が痛くなると言っていた」


「信じたのか?」


 ロッカが顔を上げた。


 二人の間へ。短い沈黙が落ちる。


 やがて。口の片側だけが上がった。


「それが嘘かどうかで、何か変わるか?」


 ルークは。手の中にある鍋を見る。


 クラグの嘘は。ロッカを騙していなかった。


 彼女は。わざわざ暴く必要がないと判断しただけだ。


「これで、どう助ける?」


 ルークが尋ねる。


「昔」


 ロッカは胸当てへ目を戻した。


「ホブゴブリンの戦団と、一緒に襲撃したことがある」


「ホブゴブリンと?」


「あいつらは、鉄鍋を二つ持ち歩いていた」


 ロッカは革紐を結ぶ。


「夜になるたび、水を入れた」


「それから?」


「穀物。根。内臓。古い肉。骨」


 肩をすくめる。


「歯で噛めないものは、何でも投げ込んだ」


「何になった?」


「水っぽい食い物」


「煮込みだ」


「人間は、もっと長い名で呼んでいた」


 どうでもよさそうに。ロッカは言う。


「一番小さなゴブリンも、それなら食べていた」


 胸当てを持ち上げる。


「戦団の長は、鍋が弱いゴブリンを強くすると言った」


「おそらく、本当だ」


「私もそう思った」


 ルークは。少し笑いそうになった。


「食べたのか?」


「食べていない」


「なら、なぜ効いたとわかる?」


「食べたあと」


 ロッカは答える。


「文句を言わなくなった」


 胸当ての革紐を指で引く。


「次の日の戦いでも、よく動いた」


 それで。ロッカには十分な証拠らしい。


「今でも」


 ルークは言った。


「料理は恥ずかしいと思っているんだな」


「思っている」


「それでも、クラグには食わせる?」


「恥じても、体は大きくならない」


 最後の結び目を締める。


 胸当てを持ち上げた。


「もう帰っていい」


 ルークは。鍋を床へ置いた。


 立てたまま。動かない。


 ロッカは。胸当ての腕を通す穴から、ルークを見た。


「まだ何かあるのか?」


「トクと話した」


「ほう」


 ロッカの目が細くなる。


「私の呼びかけを断った戦士か」


「決闘のとき」


 ルークは言った。


「おまえが力を抑えていたと考えている」


「トクは、何度も殴られてきた」


 ロッカは。胸当てを膝へ戻した。


「力の違いくらい、わかる」


 口元が上がる。


「おまえのラゴンを自分の目で見るまでは、そう思い続けるだろう」


「なぜ手加減したかも、わかったつもりでいる」


「そうか?」


「グアーグの座を欲しがっている」


 ロッカの表情は変わらない。


「族長になりたくないオークがいるか?」


「グアーグが戻る前に、戦士を集めている」


 ロッカは答えなかった。


「トクが断ることも認めた」


 ルークは続ける。


「俺にも、同じ選択をさせろ」


 ロッカの目から。笑いが消えた。


「それを言うために残ったのか?」


「そうだ」


 ロッカは。じっとルークを見た。


 そして。突然、笑い出す。


 立ち上がる。


 胸当てを。ルークへ投げつけた。


 ルークは右腕で受けた。


 だが。片腕だけでは。重さを支えきれない。


 胸へ押しつけたまま滑り。足元へ落ちた。


「トクは」


 ロッカが言う。


「私と取引する権利を、自分で得た」


 一歩近づく。


「戦士として、どれほど役に立つか知っている」


 さらに一歩。


「デュラグへ挑み」


 牙が見える。


「あと少しで勝つところまでいった」


 ロッカはルークの前で止まった。


「おまえは、私へ何を差し出した?」


「もう知っているだろう」


 ロッカの笑いが薄れる。


「俺が持つのは、バロクだけではない」


 ルークは言った。


「決闘でラゴンを見る前から、疑っていたはずだ」


 ロッカは何も言わない。


「バロクだけでも」


 ルークは続ける。


「俺より速いオークに会ったことはないだろう」


 小屋の中が。静かになる。


「おまえが俺を選んだのは」


 ルークは言う。


「決闘で見せたものだけが理由ではない」


「俺がまだ何か隠していると考えている」


 ロッカの口元が。ゆっくりと持ち上がる。


「そして」


 ルークは目を逸らさない。


「グアーグへ挑むとき、俺を隣へ立たせるつもりだ」


 ロッカは笑った。


「静かな狩人が」


 一歩近づく。


「ようやく牙を見せたか」


 足元に落ちた胸当てを拾う。


「だが」


 表裏を返しながら言う。


「トクの拒否を、勘違いしている」


「何が?」


「あいつが断ったのは、次の襲撃だけだ」


 ロッカは胸当てへ腕を通す。


「城壁のある町を襲うだけの戦利品を持ち帰れば」


 革紐を引く。


「トクは私の角笛へ応じる」


 ルークは黙っている。


 ロッカの笑みが。さらに広がった。


「トクは」


 ルークの顔へ近づく。


「何を与えれば、斧を貸すか自分から教えた」


 牙が。すぐ目の前にある。


「では、ルーク」


 低い声。


「何を与えれば、おまえの斧を借りられる?」


 ロッカの目が。床の鉄鍋へ向く。


「鉄鍋一つでは、足りないか?」


 ルークも。鍋を見る。


 あれが。本当にクラグのためなのは間違いない。


 ロッカは。幼子の嘘を見抜きながら。必要なものを与えた。


 だが。ルークが鉄鍋をどれほど欲しがるか。気づいていなかったはずもない。


「それとも」


 ロッカは続ける。


「一族の焚き火で肉を料理することを、認めてほしいか?」


 笑っている。


 からかっている。


 だが。提案そのものは本気だった。


 そんな恥ずべき習慣を公に認めることで。グアーグの座へ近づけるのなら。


 ロッカは。そうするつもりなのだ。


 ルークは。その目を見返した。


「グアーグへ挑むとき」


 ルークは言った。


「俺を、おまえの筆頭戦士として名指ししろ」


 ロッカの笑みが消えた。


「そして」


 ルークは続ける。


「族長になったあと」


 床の鉄鍋へ目を落とす。


「俺が、俺なりのオークとして生きることを認めろ」


 ロッカは。しばらく何も言わなかった。


「私の筆頭戦士にしろ」


 やがて。確かめるように繰り返す。


「そのあとは、好きに生きさせろ?」


 次の瞬間。大きな笑い声が、小屋を満たした。


 入口の毛皮を越え。集落まで届く。


 わざと。外へ聞かせているのではないかと。ルークが疑うほど大きかった。


「最初は」


 ロッカが言った。


「おまえを臆病者だと思っていた」


 笑いは収まる。


 だが。目には、まだ愉快そうな光が残っている。


「森へ隠れ」


「小さな秘密をいくつも抱え」


 一歩近づく。


「何も見ていないふりをしている」


 さらに一歩。


「だが」


 ルークの目を見る。


「おまえは、戦うことを恐れていない」


 もう一歩。


「ただ」


 ロッカの牙が見える。


「オークなら、こう生きろと言われることが嫌いなんだ」


「違うか?」


 ルークは。すぐには答えなかった。


 ロッカが言うのは。レッドタスク族を嫌っているという意味なのか。


 一族と同じように生きることだけを。拒んでいるという意味なのか。


 彼女にとって。その二つに違いはないのかもしれない。


 すべて間違っているわけでもない。


 この二年間。ルークは加護を隠した。襲撃を避けた。人間らしすぎる習慣は。すべて森の中へ持ち込んだ。


 ロッカから見れば。レッドタスク族を見下しているように見えても、おかしくない。


 だが。本当に嫌っているだけなら。もっと簡単だった。


 ルークは。いつでも集落を出られた。


 止められる者はいない。


 追ってくる戦士がいれば。ウルガルで倒せる。


 ウルガルだけではない。


 バロクを使えば。武器を構えるより先に、横を通り過ぎられる。


 敵の群れの中を歩き。一人ずつ喉を裂くことさえできる。


 ラゴンを使えば。正面から受け止めても。簡単には傷つかない。


 三つの加護のどれか一つだけでも。レッドタスク族から逃げるには十分だ。


 三つすべてを使えば。ルークを連れ戻せる者など。この集落にはいない。


 力なら。とっくに足りていた。


 好きな場所へ行くことも。邪魔をする者を倒すことも。命令に従わせることも。できる。


 誰にも罰せられず。好きなように生きることさえ。


 だが。誰にも止められないことと。それをしてよいことは。同じではない。


 力は。許しではない。


 自分へ逆らうオークをすべて殴り倒し。その結果を。自由と呼ぶ気にはなれなかった。


 快適な生活が欲しいというだけで。邪魔な者を殺して回ることもできない。


 そして。ただ立ち去ることも。できなかった。


 レッドタスク族は。残酷で。無知で。耐え難いことも多い。


 人間だったころに知っていたような。家族もない。


 それでも。ここは。ルークが育った場所だった。


 故郷と呼べるものがあるとすれば。今は、ここしかない。


 力があれば。どこへでも行ける。


 だが。どこへ行っても。そこを故郷にできるわけではない。


 だから。ロッカと取引しようとしている。


 自由を奪う者を倒せないからではない。


 殺さなければ手に入らない自由を。欲しいとは思えないからだ。


 一族を捨てず。邪魔をする者を皆殺しにもせず。


 それでも。自分の生き方を選べる場所が欲しい。


 帰る場所。


 自分が誰かを選び。その誰かからも選ばれる。


 前の人生なら。家族と呼んでいたものに近い繋がり。


 人間だった自分を。すべて捨てなくてもよい場所。


 そして。オークであることも。否定せずに済む場所。


 ルークは顔を上げた。


「ほとんど正しい」


 ロッカが片眉を上げる。


「オークであることが、嫌いなわけじゃない」


 ルークは。鉄鍋の縁へ視線を落とした。


「オークの生き方は一つしかないと」


 再び。ロッカを見る。


「他人に決められるのが嫌なんだ」


 ロッカの口元が。ゆっくりと上がった。


「残念だったな」


 ロッカは言う。


「おまえの生き方に価値があると証明するまでは」


 右肩で。光が灯る。


「私のやり方に従え」


 ――ウルガルの加護。


 右肩から。光の線が走る。


 ルークは。最初の輝きと同時に動いた。


 胸の痣が。激しく熱を持つ。


 ――ラゴンの加護。


 黒い光の筋が。胸から腹へ広がった。


 喉を上り。右肩を越え。腕へ絡みつく。


 だが。背中までは回らない。


 左半身にも。ほとんど広げない。


 ルークは。ロッカへ向けた体の前面だけを守った。


 胸へ固定された左腕は動かせない。


 右の前腕を上げる。


 ロッカの拳が。そこへ叩き込まれた。


 小屋の床が沈んだ。


 ルークの足元で。固く踏み固められた土が崩れる。


 踵が。二本の溝を刻んだ。


 拳から放たれた力に。小屋を支える柱が軋む。


 一瞬だけ。ルークはその場へ立ち続けた。


 だが。ウルガルの力は。右腕を通り。体の奥へ突き抜けてくる。


 ラゴンは。骨を守った。


 肉を裂かせず。内臓も潰さない。


 だが。体をその場へ固定する力ではない。


 ルークの足が。地面から離れた。


 背中から。入口の毛皮を突き破る。


 道を越え。向かいにあった空き小屋へ。


 そのまま叩き込まれた。


 壁が内側へ爆ぜる。


 木の柱が折れた。


 毛皮の屋根が。崩れた骨組みとともに、ルークの上へ落ちる。


 土埃が。一帯を覆った。


 ルークは。体の上に落ちた柱を押し退けた。


 立ち上がる。


 骨は折れていない。血も出ていない。


 左腕の痛み以外に。新しい傷もなかった。


 それでも。決闘で受けた一撃とは。比べものにならない。


 あのときのロッカは。本当に力を抑えていた。


 二年前。谷が燃えた、あの夜以来。


 これほどの力で殴られたことはない。


 そして。ルークが使ったラゴンも。まだ一部だけだった。


 ロッカは。自分の小屋の入口へ立っている。


 右腕には。まだウルガルの光が燃えていた。


 瓦礫の中から立ち上がったルークを。じっと見ている。


 やがて。腹の奥から笑い声が漏れた。


 次第に大きくなる。


 荒々しく。狂ったような笑い声が。集落全体へ広がっていく。


「トクは正しかった」


 ロッカが言った。


「私は、おまえへ手加減していた」


 牙を剥き出しにする。


「そして」


 ロッカの目が。ルークの体に残る、ラゴンの光を追う。


「私も正しかった」


 笑みが深くなる。


「おまえは、臆病者ではない」


 黒い光が。右腕から消え始める。


「私の拳を受けて」


 ロッカは言う。


「もう立っている」


 その目が。胸。腹。喉。右腕を順に見る。


「それでも」


 声が低くなる。


「まだ私へ、すべてを見せていない」


 周囲の小屋から。声が上がり始めた。


 重い足音が。こちらへ近づいてくる。


「明後日」


 ロッカは言った。


「出られるようにしておけ」


「次の襲撃か?」


「私へ、誉れを持ち帰れ」


 ロッカの牙が見える。


「おまえの妙な生き方にも、価値があると証明しろ」


 笑みが。さらに広がった。


「そうすれば」


 ロッカは胸を張る。


「グアーグへ挑むとき」


「おまえを、私の筆頭戦士として名指ししてやる」


 ウルガルの光が。右肩から消える。


「私がレッドタスク族を手に入れるのを助けろ」


 ロッカは言った。


「そのあとは」


 鉄鍋のある小屋へ、顎を向ける。


「好きなように、オークとして生きろ」


 ルークは。ラゴンの光を消した。


 崩れた柱を越える。


 道を渡り。ロッカの横を通って。彼女の小屋へ戻った。


 ロッカは止めない。


 ルークは。床に残された鉄鍋を。右手で持ち上げた。


 最初のレッドタスク族が。壊れた小屋へ駆けつけるより早く。


 ルークはもう。鍋を持って、その場を離れていた。


 背後では。ロッカが。まだ笑っていた。


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