それは既に降り立っている
いつも『龍眼の転生者 〜内なる龍が目覚める時〜』をお読みいただき、本当にありがとうございます!
前話では、王城を揺るがす異変の中、ユウミとシルザが共闘を決意しました。
そして今回は――王城でついに戦いの火蓋が切って落とされます。
新たな仲間との出会い。
街を守るために剣を振るう者達。
そして、二人の力が重なった時に生まれる、想像を超えた奇跡。
ぜひ最後までお楽しみください!
――王城へ向かう道中。
王城の方角から響いた爆発音の後も、石と金属が激しく衝突し合うような不快な轟音が絶え間なく聞こえていた。
その音は、まるで嫌な予感そのものが形になったかのように、ユウミとシルザの不安を煽り立てる。
『王城の東側で何かあったみてぇだな』
『人への被害がないと良いけど……』
『場所が王城内なら大丈夫だとは思うが、あそこは城壁に近いからな。城壁さえ無事なら街に被害は及ばねぇさ。……まぁ、ヒビでも入ってくれてりゃ、俺達には都合が良いんだがな』
シルザは口元を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべていた。
『シルザ、悪いこと考えてる顔してるよ』
『……気のせいだろ』
――その時だった。
『うわぁぁぁぁ!!』
『魔物だ! 魔物が城壁から出てきたぞ!!』
『逃げろ!! 殺される!!』
突如として街中に響き渡る悲鳴。
ユウミとシルザは瞬時に顔を見合わせた。
『魔物って……なんで王城からそんなものが……』
『おおかた、戦争用に飼ってた兵器だろ。爆発で檻でも壊れたんじゃねぇか?』
『いずれにしても急ごう。街に出たなら被害が出るのは時間の問題だ』
次の瞬間。
二人は疾風のような速度で街道を駆け抜けていた。
避難する人々が津波のように押し寄せる中、その流れに逆らって王城へ向かう二人の姿を、多くの住民達が目撃していた。
やがて二人は、城壁から現れた魔物を視認できる距離まで辿り着く。
そこにいたのは、鎧と兜を纏い、巨大な戦斧を担いだ異形の巨人。
――バトルサイクロプス。
その進行方向。
そこには、一人の騎士が片膝をつき、動けなくなっていた。
『っ! シルザ! 先に行く!』
ブワッ!!
『おいユーミー!!』
ユウミは風を纏い、目で追うことすら困難な速度で駆け出した。
『グォォォォアアア!!』
サイクロプスが雄叫びを上げ、戦斧を振り上げる。
狙いは、動けぬ騎士。
(間に合え――!)
ユウミは不知夜に手を掛け、一気に地面を蹴った。
ズザァァァァッ!!
騎士を庇うように、その眼前へ滑り込む。
だが、サイクロプスはユウミの三倍近い巨体。
その質量と膂力から繰り出された一撃は、既にユウミの目前へ迫っていた。
しかし――
ユウミは刀を抜かなかった。
柄に添えていた手を、静かに離す。
『――夜叉返し』
直後。
横薙ぎに放たれた巨斧の軌道が、不自然に逸れた。
受け流された。
いや――返されたのだ。
ドシュッ!!
『グァ……ァァァ……』
ドシャンッ!!
サイクロプス自身の斧が、その背骨ごと背中を深々と斬り裂いていた。
巨体が地響きを立てて崩れ落ちる。
『もう大丈夫ですよ』
騎士は恐る恐る閉じていた目を開けた。
目の前にいたはずの恐ろしい魔物は、既に絶命している。
代わりに立っていたのは、女性と見紛うほど整った顔立ちの青年だった。
『……あ……あなたは……』
『あの城壁の隙間を塞いでるの、君の魔法?』
『は、はい……そうです……』
『あれで魔物が街に出ないようにしてたんだよね? 凄いよ』
ユウミは安心させるように柔らかく笑った。
その笑顔を見た騎士の瞳が、小さく揺れる。
頬がほんのりと赤く染まっていた。
だが、ユウミはそれに気づかない。
『……わ、私は王国騎士団所属、オルヴィア・モルガンです……!』
『俺はユウミ』
『おいおいユーミー。とんでもねぇ速度で走り出したと思ったら、女に会う為だったとはな? 意外と隅に置けねぇ奴だな』
遅れて到着したシルザが、ニヤつきながら肩を竦める。
『ち、違っ――!?』
ユウミは思わずオルヴィアの方を見てしまい、顔を真っ赤に染めた。
そして――
バリンッ!!
『あっ……!』
オルヴィアもまた、羞恥で集中が乱れたことで、魔法障壁を砕いてしまった。
『ご、ごめんなさい!! 魔法が……!!』
『おいシルザ……』
『冗談だって。まぁ良いじゃねぇか』
シルザは大剣を背から抜き放つ。
その鋭い視線が、城壁の裂け目へ向けられた。
『グォォォオオオ!!』
『グァァァァアア!!』
次々と現れる巨大な影。
『バトルサイクロプスか……面白ぇじゃねぇか』
『……これだけの事態なのに、どうして王城から君しか来てないの?』
『それは……』
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、言葉を濁すオルヴィア。
ユウミはその様子を見て、深くは聞かなかった。
『行くぞユーミー!!』
『ああ』
『に、逃げてください!! サイクロプスは五十体以上います!! 二人だけでは太刀打ちでき――』
だが。
オルヴィアはその先を言葉にできなかった。
シルザの背後には、深紅の炎を纏うドラゴン。
ユウミの背後には、翠の風を纏う龍。
二人の背後に、確かに“それ”が見えていた。
極限状態の時のみ発現する、オルヴィアの特殊感覚――《精霊感》。
本人ですら自覚していない力が、二人の守護を視ていた。
次の瞬間。
ユウミとシルザは左右へ同時に駆けた。
サイクロプス達に一瞬の迷いが生じる。
その隙を、二人は逃さない。
『オラァァァァッ!!』
シルザの大剣が横薙ぎに振るわれる。
放たれた深紅の斬撃は、巨大なドラゴンの形を成しながらサイクロプス達を呑み込んだ。
『いやぁぁぁぁぁッ!!』
ユウミもまた、空気を縦に裂くように不知夜を振り下ろす。
翠の風が龍となり、咆哮を上げながら敵陣へ襲い掛かった。
『グゥゥゥアアアアアアッ!!』
断末魔が街に轟く。
紅蓮の竜。
翠風の龍。
両端から放たれた二つの力は、サイクロプス達を焼き裂き、吹き飛ばしながら互いへ惹かれていく。
やがて。
二つの斬撃は、戦場の中央で交差した。
『爆ぜて交われ』
シルザが低く呟く。
刹那。
轟音と共に、二つの力が融合した。
深紫の炎風を纏う巨大な龍が、咆哮と共に天空へ舞い上がる。
その姿は、まるで神話に語られる龍神そのものだった。
『なんじゃこりゃ!?』
思わずユウミが叫ぶ。
『……これは……合成魔法……? しかも斬撃同士で……!?』
オルヴィアの額を冷や汗が伝う。
昨夜見た炎風龍とは、規模も威圧感も比較にならない。
深紫の龍は、炎と暴風を煌めかせながら優雅に空を舞っていた。
その光景は、避難していた街の人々からも見えていた。
『王城に龍神が降臨した……』
そんな言葉が、各地で囁かれていたという。
龍神は大空を一回転すると、一点を見据えながら地上へ急降下する。
それを見たシルザは、獰猛に口角を吊り上げた。
まるで――何かを企んでいるかのように。
第35話をお読みいただき、ありがとうございました!
今回は、オルヴィアとの正式な出会い、そしてユウミとシルザの初めての本格的な共闘を描きました。
二人が放った斬撃が融合し、一体の龍となって舞い上がる場面は、私自身も特に気に入っているシーンです。
そして、物語の裏では王城で何が起きているのか。
なぜオルヴィア一人しか戦っていなかったのか。
次回からは、その謎にも少しずつ迫っていきます。
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それでは、また次回もよろしくお願いいたします!




