No.57 戸惑う珍獣
落ち着いた色の家具に、綺麗に整頓された室内。
インクの香りが辺りに漂う。
もちろん、初めての部屋。
色々な美しさを持つ人達の視線の集中砲火されとります。
「ティア、楽にしていい。彼女はサンとリーフの婚約者で、セレーネ王国一姫のディアティア姫だ」
笑顔のノルお兄様に、うっ……と詰まってしまう。
淡い金髪に空の青の瞳。
鍛え上げられた美丈夫ぶりは、目の保養であります!
ただ、発言には頷けませんよ~。
観察されてるし楽に出来ないです!
今すぐ回れ右して、部屋に逃げ帰りたい気持ちでいっぱい。
「ほぅ、噂の六彩の賢者を従える白魔女が…この少女とはな。クッ、面白い」
紫色の髪は無造作に伸ばされて、適当な紐で縛っている美形が一人。
アメジストの瞳が、好奇心に微笑んでいる。
イケメンは、何をしてもイケメンだね。
「この適当な態度のヤツが、元帥閣下のアーク・ファード。失礼な態度の時は、殴ってかまわん。そして、隣にいるのがベルーナ・キートス。俺の右腕だ。コイツ等は、俺の筆頭二人だから何かあれば名前を使うといい。俺でも構わないが」
「ノル、お前は自分やアークを雑に扱い過ぎ。初めてディアティア姫様。自分はノルの筆頭でベルーナ・キートスです。以後お見知りおきを。賢者殿もよろしくお願い致します」
流れる仕草で礼をしたのは、薄い桃色の髪を緩く編んだ美人だ。
美人度ならサンエーリ様と、並べる気がします!
繊細で優美なサンエーリ様と、柔らかい雰囲気と美麗なベルーナさん。
桃色の瞳も神秘的で、見つめてると何か言いたくなるから不思議。
「こちらこそ。知っていると思いますが、セレーネの美姫は妹でした。私は珍獣姫と呼ばれていたので、姫呼びは勘弁してください!」
「珍獣姫……??」
誰の声だったのか、気にしませんよ。
私は言い切った!
姫なんて柄じゃないし、背中がむず痒いのですよ。
今までがあるから、今更変えられてもイマイチ浸透しない。
良くて珍獣姫。最悪、呪われ姫。
一応、姫はつくけど良い印象がないから
、断固拒否で。
「アーク殿もベルーナ殿も、ティアと呼んであげて下さい。彼女の環境は、色々ありましたから」
「色々、は後で詳しく聞きましょう。では、公式な場以外ではティア様とお呼び致しましょう。自分やアークには、敬称は必要ありませんから」
ベルーナさんが、仕方ない子を見る目で譲歩してくれる。
きっ五歳以上違うと、包み込む様な優しさと余裕があるみたい。
「ありがとうございます!えーと……ベルーナさん?」
「はい、惜しいです。さんは、必要ないですよ。ティア様は、他国であろうとお姫様なんですから」
「……む、無理ですっ!」
どんな無茶ぶりですか?
十五年のブランクからの、今更ながらにお姫様扱いされても……。
何度も言うけど、色々と無理だ!
「ティア、ちょっとノル様の庭を歩かないか?サンはベルーナ殿とアーク殿達と、話があるみたいだからな」
頭を抱えていた私に、リーフ様がスッと手を差しのべてくれる。
私はここぞとばかりに、逃げる口実を見つけてホッとする。
エスコートには慣れないけど、サンエーリ様やリーフ様ならちょっと恥ずかしいけど、くすぐったい様な不思議な感じ。
サンエーリ様達の話は、気になるけど……今は逃げるのを許して下され!
チラッとサンエーリ様を見ると、柔らかく微笑んでくれた。
リーフ様に案内されながら、私はセレーネには無かった花を見て癒されていた。
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<ノルレッテside>
残されたのは、賢者殿とサンに俺達三人。
ティアは、庭の花に夢中になっているのか……じっと花達を見つめては、笑顔を浮かべている。
実に微笑ましい光景だ。
「サンエーリ様、彼女について詳しいお話を」
ベルーナの真剣な顔に、サンは順序よく話していく。
母とティアの関係は、生れた当初から最悪で会話らしい会話は皆無。
あるのは侮蔑の態度と、蔑みの言葉だけ。
侍女もメイドもいない生活。
身の回りの事は、自分で!が基本。
劣悪な環境に身を置いていたらしい。
「珍獣姫・平凡姫・呪われ姫・魔女。彼女が、物心ついた時には言われていたと。母親が我が子を認めないのも、どうかしてますよ」
「酷いな……顔が似てないからと言って、愚かな」
ベルーナは話が進むにつれて、呆れ顔を隠しもしなくなる。
俺も同じ気持ちなんで、同じ表情になっているかもしれない。
そこに賢者殿が、相づちを打ちながら続ける。
「私はずっと見てきたけど……あんなに不器用で、真っ直ぐな子知らないわ。冒険者をして資金を稼ぎながら、十歳で魔導師と薬師。十二歳で孤児院再建。十三歳でレース編みの普及。十四歳で魔法作成。……あの子の子供時代は、スノーリー様との時間で終わってしまったみたい」
「もしかして、六彩の賢者の魔法は……」
「正解!八割はティーちゃんの作品よん♪子供の自分が発表するより、信憑性があるからって。ティーちゃんは、フェリオス王様に頼まれて、軽く暗躍や暗殺者の生捕りは朝飯前の子よ?結構ハードなのにティーちゃんったら、気にしないんですもの!愛すべきお馬鹿なの!」
ケラケラ笑う賢者殿は、それでも誇らしげで嬉しいそうだ。
愛すべきお馬鹿。
庭を夢中になりながら、リーフに話かけているティアの穏やかなふんわりした雰囲気に、暗躍や暗殺者の生捕りをしていたなんて想像も出来ない。
可愛いらしい優しい花みたいな子なのに。
「ティア様に、暗躍はどんな得があったのですか?」
ベルーナの言葉に、賢者殿はクスクスひとしきり笑った後。
「ティーちゃんが動くのは、フェリオス王のため、ディルちゃんのため、私達筆頭のため、民のため。いつも、自分以外の誰かのためなの。そこに、損得勘定はないのよ」
「少なくとも、父王と兄には愛されていた、と」
「えぇ。フェリオス王もディルちゃんも、誰よりティーちゃんを愛していたと思うわ。それは、ティーちゃんにも伝わっているはずよ。ただ、受けとるのがものすごく下手なの。何十年かかったかしらね~」
アークが賢者殿を眺めながら呟くと、賢者殿は自信満々にフフッと頬笑む。
本当に自慢の主なんだろう。
「好意を受けとるのが下手なんですね。あんなに素直そうなのに」
「環境が最悪だったのよ。母上や貴族にまである事、無いこと言われて……蔑まれて。イビられて。言葉の暴力は、時に物理的な暴力より心身ともに神経を磨り減らすわ。でもあの子はいつも、前を向いていた」
「クッ、不器用も極めれば可愛いもんだな。愛すべき馬鹿、なかなか興味深いもんだな」
アークが喉で笑えば、サンが微妙な表情を浮かべる。
綺麗な顔が微妙になるのを見たアークは、また喉で笑う。
「大丈夫だ。俺は、サンやリーフの邪魔はしないぜ。まぁ、ベルーナは分からんけどな」
「アーク、冗談は程ほどに!本当にしょうがない人ですね。それでは、ティア様の生い立ちを考えると……」
「早々に婚約披露の夜会を開いた方がいいな。また今回の事の様な事になったら、ティアを傷つけてしまうからな」
俺の言葉に、皆は頷いて賛成してくれる。
あんな痛々しい姿をさせないために、俺は兄として出来る事はしなくては。
せっかく可愛い弟達が連れてきた可愛いい花嫁を、俺達は大切にしなくてはいけない。
「今度、同じ事があったら……許せそうにありませんから」
「同じミスは、起こさないから安心しろ」
このサンの笑顔は、最終警告だ。
今まであまり何かに執着しなかったサンが、ここまで執着するとは。
感情が動かすのが下手だったサンは、もういないのかもしれない。
それが兄として、心から嬉しいと思った。
きっとリーフも変わっているはずだ。
二人に変化をもたらしたお姫様は、笑顔がふんわりとした愛らしい少女。
この三人が、幸せでありますように。
願わずにいられなかった。




