No.51 花姫の夜会~王子様達と花姫の戦場
<サンエーリside>
賑やかに流れる音楽や談笑の声を聞き流しながら、私とリーフはティアを挟んで佇んでいる。
大きな扉の前で緊張しているティアに、私は小さく笑ってしまう。
「私達の花の姫君は、夜会で緊張してしまうのかい?普段は表だけでなく裏の仕事まで、軽々こなしてしまうのに」
「父様の手伝いの方が、数千倍楽なんです!夜会は気が抜けないから…それに、ドレスに着られている気がして…」
不安そうに私達を見上げるティア。
何をそんなに心配しているんだろう。
ドレスも綺麗に整えられた髪型も、優しく愛らしいティアにピッタリなのに。
「大丈夫だぜ。それで可愛い笑顔を浮かべられたら、完璧だな。まぁ、俺は素顔のティアの方が好きだけどな」
「でも、あまり可愛い笑顔を振りまくのは禁止だよ。恋敵は作りたくないからね?やっとナルサス殿が、諦めてくれたのに」
「えっと…ナルサス様ですか?」
コテンッと首を傾げるティアの頬を撫でて、私とリーフは苦笑を浮かべる。
現役魔導師のナルサス氏は、なかなか捕まえるのに骨が折れた。
でも、ティアをそのまま連れ去るのはルール違反な気がして。
いくらティアが、私達を選んだとしても。
話をして数分で、寂しげに微笑むと『ディアティア姫に多くの幸せが訪れますように、と』そう呟いて、私達を睨むと『ディアティア姫が泣き崩れる事があったら、拐いにいくからな』言い放った。
ハーツ殿に続き、ナルサス氏にまで忠告・宣言されてしまった。
「ティアはティアが思っているよりも、愛されているよ?」
「私は平凡姫で呪われ姫で魔女、珍獣。買いかぶりじゃないかな?」
眉を下げるティアに、今度はリーフが頬を撫でる。
ティアの瞳が寂しげに揺れたのを、見逃すほどバカじゃない。
「私やリーフだけじゃない。ティアは愛されているよ?フェリオス王やディル、筆頭の四人。まぁ、一番愛しているのは、私達だけどね」
軽くウィンクすると、ティアは少し頬を緩めて照れくさそうに俯く。
ナルサス氏からの言葉は、黙っておこう。
嫉妬深いと言われようと、私としては面白くないからね。
「ふふっ、私って幸せ者だね……」
「これから、もっと幸せになるんだよ?」
「三人で幸せになろうぜ?たまにケンカもしながら、ゆっくり俺達のペースで幸せになろうな」
「……はい」
ふわっとティアが微笑むのと同時に、騎士が合図を送ってくる。
せっかく可愛い微笑みが見れたのに!
まぁ、仕方ないから気持ちを切り替える。
「さぁ、私達だけの愛らしい花の姫。お手をどうぞ」
「俺達を見て微笑んでいればいい。いつだって俺達は、ティアの味方だから」
「ありがとう……」
差し出した手に、ティアは迷いなく手を乗せはにかむ。
扉が開かれると、突き刺さるような数々の視線に迎えられる。
好奇心、嫌悪、蔑み、嫉妬。
ここまでの好奇な視線にさらされるのは、久しぶりかもしれない。
兄上が王太子になって、表だって好奇な視線を向けてくるモノは少なかったから。
腫れ物扱いはあっても、視線だけでキツいと思ったのは久しぶりだ。
兄上が何らかの手を回したから、ある程度の平和が約束されていたんだと、しみじみ実感する。
私でも若干キツい視線に、ティアは背筋を伸ばして微笑んでいる。
顔を前に向けたまま、ティアは小さく呟く。
「巻き込んでしまってごめんね。慣れないとキツいよね…ごめんなさい」
二度謝るティアは、姿形では平気な振りをして微笑んでいても、微かに手が震えている事に本人は気がついているだろうか?
気丈に振る舞うティアが健気で、握っていた手に力を込める。
傷ついているだろうティアを、優しく包み込むように。
「大丈夫。私はティアがいい。優しくて、真っ直ぐで、寂しがり屋な君が愛しいよ」
「辛くなったら、俺達が拐うから安心しろよ。ティアは何も悪くないんだから」
そうティアは何も悪くないのだ。
悪意ある噂が、言葉が、態度が、ティアの存在を否定し蔑んでいるだけ。
むしろティアは、幼い頃からフェリオス王やディルの手伝いをしてきた功労者。
薬師や魔導師として、時には王女や娘として妹として。
それがどんなに大変な事で、気力と命を削ってきたのか。
ここにいる半数は、きっと知らない。
私達だって、ディルに聞いて驚いたのだから。
エスコートして、フェリオス王の前で私達は一礼する。
「楽にしておくれ。うん、今日のティアはちゃんとお姫様に見えるね。私は何時もの、やんちゃなティアも愛しているけどね」
「父様……私も愛しています」
小さな声で囁かれた言葉は、ティアに花の笑顔を浮かべさせる。
私達はティアの手を引いたまま、フェリオス王の横に佇む。
それを合図に、フェリオス王が声を皆にかける。
「我が愛しい娘、第一王女・ディアティアと、エメラル国第二王子、サンエーリ・エメラル殿、公爵家次男、リーフ・バトル殿の婚約披露を始めたいと思う」
そこでフェリオス王は言葉を切って、ティアを見て月の化身顔負けの笑顔を見せる。
一瞬にして魅せられる様な笑顔で、言葉を続ける。
「三人にたくさんの至福があるように。最愛の娘の幸せが続くように願って、乾杯」
周囲の貴族から、一応と言わんばかりの乾杯が終ったのと同時に、コツコツとヒールの音を響かせて人物は、今日はピンク色の露出の多いデコルテを見せたドレスを着ている。
「お父様、ちょっとお待ちになってください!サンエーリ様、目を覚まして下さいませ?貴方が愛しているのは、こんな冴えないディアティアではなく、指輪を贈って下さった私ですよね!?」
ローズニア姫がすがるように私を見て、手のひらにのせられている指輪を見る。
光の加減で淡い水色に輝く石は、台座を見ても間違いなく私のものだ。
やはり、お前が持っていたのか!
怒りでゆらゆらと魔力があふれる。
ふっと、ティアがギュッと手を握って来て、私は゛平常心・平常心゛と心で唱える。
その間にも、周囲の貴族が『やはり魔女だ!サンエーリ王子の心を、操っているに違いない!』と、ざわめきが広がっていく。
あまつさえ、相応しいのはローズニア姫だと広がっていく。
ティアの顔色は、青ざめながらも俯かずに前を見据えている。
きっと意地と私達に対する信頼感だと思もわれる。
リーフは、そんなティアを痛ましげに見ると肩を抱いて耳打ちする。
『無理しなくていい。俺達がいるから…今は守られていてくれ』
吐息のかかる距離の囁きに、ディアはサッと頬を染める。
それを見て、私もティアの腰を抱き寄せて悠然と微笑む。
これで面倒な魚が釣れたと。
一気に片付けてしまいたい!
ティアを傷つけるのは、家族であっても許さない。
「フェリオス王。私は指輪を紛失して、捜索を依頼していたはずです。それがなぜ、渡してもいない、ましてや嫌悪している相手が所持しているのでしょう?」
「ふむ、それは私にも分からぬ。ローズニア、説明しなさい。嘘や狂言は、厳罰が待っていると思え」
フェリオス王の容赦ない言葉にひるんだのは、ほんの一瞬。
ローズニア姫は、目に涙をにじませて私達を見る。
「サンエーリ様が、私にと渡して下さったではありませんか!きっと魔女の魔法で、忘れてしまわれたのですね…痛ましいですわ」
「それはないな。俺はずっとサンと一緒に行動していた。何より、俺達には魔法に耐性がある。これでも、魔法の先進国出身だからな」
鼻笑いでリーフがバッサリ、ローズニア姫の言葉を切り捨てる。
そう、魔法も毒も私達には耐性がある。
フィールの花にやられたのは、失態だけど。
リーフに鼻笑いされたのが気に入らないのか、ローズニア姫がキッとリーフを睨むとフェリオス王に顔を向ける。
「お父様!この不敬な男を、城から追放してください!私は姫よっ!敬まられる立場の第二王女よ!」
顔を真っ赤にして怒るローズニア姫に、フェリオス王は厳しい顔で問いかける。
「ローズニア、答えになってない。サンエーリ王子は、ローズニアに指輪を渡した記憶はあるのかな?」
「ないですね。寝ている間に、消え失せてしまったのですから。それに、もしティアに魔法を使われていたとしても、私は本望ですよ?嘘偽りなく、愛していますからね」
これは紛れもない本心。
ティアと一緒にいれるなら、魔法だろうと幸せなのだから。
まぁ、ティアがそんな魔法を使う事は、絶対ないだろうけど。
人目も気にせずに、ティアのまぶたにキスをする。
ザワザワと周囲が色めきだつ。
「魔法がなくでも、俺達はティアに魅了されているからな。全てが愛おしいよ、ティア」
リーフはティアの髪にキスをする。
ティアはされるがまま、頬を染めてプルプルしながら私達に身を預けている。
なんだろう、この可愛い生き物は!
場違いだろうと、愛しいモノは愛しい。
悶えても良いだろうか?
「嘘ですわ!私がこの女に負けるなんて……いいえ、やっぱり魔女の魔法ですわ!フィールの花が効くのですもの、魔女魔法が強力で変になっているんでしょ?」
ビシッとティアを指差すローズニアに、フェリオス王が綺麗な顔に難しい表情を浮かべる。
「ローズニア、何故フィールの花がサンエーリ王子に効くと知っているいる?」
「えっ……?そ、それは、噂で聞いたのですわお父様!」
視線を泳がせるローズニアに、ディルが呆れたようなしらけた表情で答える。
視線は残念なモノを見る目だ。
「指輪の紛失の話も、フィールの花の話も、知っているのは陛下に僕、サンとリーフ、ティアだけだよ?防音もしていたし、噂になるなんてあり得ない」
「ローズニア、正直に申せ。今なら命までは取りはしない。しかし、責任はしっかり取ってもらう。まだ、愚かな行いもあるはずだ、吐き出してしまえ」
「その前に、指輪は没収。これは、お前が触って良いものじゃない」
「お、お兄様っ!それは…」
ローズニア姫の手のひらから、ディルが素早い動きで取り返す。
ティアに負けるにしても、ディルも王太子で色々な鍛練をしているから。
ローズニア姫の動きに、負ける要素はない。
すぐに、私にディルが手渡してくれる。
久方振りの指輪は、綺麗に透明になっていて、光に反射して淡い水色に輝く。
場を忘れて軽く感動していると、ディルがローズニア姫と対峙していた。
「さぁ、吐いちゃいなよ。夕食に混ぜられた毒草も、放火もさ~?証拠だって、揃っているんだらよ?一応、僕の妹ならもう少し賢くなろうよ?これが、最後の忠告だよ?」
顔色を悪くしながらも、ローズニア姫は負けじと食い下がる。
「お父様もお兄様も…サンエーリ様まで、珍獣にほだされて!あの珍獣にあって、私に無いものなんてないのに!」
はぁ?!と顔をする私達に、ヒートアップするローズニア姫。
顔を真っ赤に染めて叫ぶさまは、姫のプライドだけで他はかなぐり捨ている感じだ。
「少なくとも、ティアは他人を陥れる嘘はつかないよ。人に優しく、自分に厳しいからね。罪を認めなよ、見苦しい」
「証拠はフェリオス王に渡してあるしな。さっさと吐け、どっちが悪女か……これ以上、ティアを傷つけるのは許さないぜ」
「私は悪くないわ!珍獣の癖に邪魔するから!私はサンエーリ様と幸せになりたかっただけよ!何で上手くいかないの?!あんたなんて、毒草で死ねば良かったのよ!」
血走った目でティアを睨むローズニア姫は、もはや自分で何を口走っているかも分かっていない。
憎悪の込められた目を目の前に、ティアは切なげに目を伏せてしまう。
きっと、優しいティアの事だから…止められなかった事を悔いているのかもしれない。
優しいが故に、傷ついてしまうのは切なくなってしまう




