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転生珍獣王女奮闘記  作者: 千里
41/66

No.41 月の化身の溜め息~王の悩みは果てしない


<フェリオスside>


エメラル国の王子達の背中を見送って、ドアが閉まると同時に溜め息がもれてしまう。

手を顔の前で組んで、先程の会話を思う。

聡いあの子は、自身の行く先を決めたんだと。

その前に、この国の憂いを少しでも減らして行くつもりみたいだ。

私やディルの負担を減らすために。

当たり前のように、王族の責務を誠実にまっとうしようとするティア。

だからか、ティアの周囲に集まる者は、心配性もしくは過保護が多い。

もちろん、ティアの人徳があってこその話だが。

きっと嫁入りにも、筆頭の三人は離れないで一緒に行くだろう事は簡単に想像出来る。


「少し休まれてはどうですか?」


テーブルにそっと置かれたカップから、紅茶の柔らかな香りが漂う。

器用な私の右腕・ジェイドは、紅茶の用意から国のあらゆる事までこなす人間だ。

そして、意見を言う事を私が許した二人目の貴重な人物だ。

もう一人は、彼の父であるチェルシー殿。


「あぁ、そうだな…」


湯気のたつカップを手に持ち、ゆっくりと味わう。

その間も、やはり今回の事件を考えてしまう。

ティアはぼかしていたが、サンエーリ王子の指輪を持っているのはローズニアだろう。

話を聞きに来たローズニアの憤慨が、ティアに向いたのは紛れもない事実。

ティア自身、隠していた様だけど化粧を嫌う彼女が、さっきはうっすら化粧をしていた。

心なしか頬も腫れていた。

どう考えても、ティアを殴る愚行を犯すのは、ローズニアしか考えられない。

どうして、ローズニアは分からないのだろうか?

一通り王女の情操教育と礼儀作法、王族の在りかたについては、学ばせたはずなのに。

今更考えても仕方ない事なのに、もう少し気がつくのが早ければ…と、考えてしまう。

今回のローズニアの行いは、父としても王としても戒め裁かなければならない。

いくら血の繋がりがあろうとも…それが私の決して消える事のない罪。

それは忘れられない傷になりながらも、私は王であり続けなければならない。

ディルに渡す前に、自身の時から存在していた膿を洗い流さねばなるまい。


「陛下。一人で抱え込んでしまうのは、貴方様とティア様の悪い癖ですよ?ディル様みたいに、瞬時に周囲を巻き込むぐらいでいらっしゃらないと」


クスクス笑うジェイドに、私も苦笑いしてしまう。

王太子のディルは、良くも悪くも合理的で笑顔で腹芸をこなす優秀な嫡男だ。

昔と違って王族ですら魔力が薄くなってきた今、武器に出来るのは知識と剣術。話術と処世術が必要とされる。

ディルは、どれを取っても優秀。

特に得意な話術は、ティアや筆頭を巻き込む事を簡単にしてしまう技術を持つ。

本当に涼しい顔で。


「ディルのあれは天性のモノだよ。巧みな話術も、腹黒さも。まぁ、私も腹黒さではディルの事言えないけどね」


「当たり前です。賢王と言われる貴方様が、ただの善人な訳ないでしょう。ティア様みたいな方が、王族でも希なんです。まぁ、だから珍獣と言われてしまうのですが…」


「珍獣、か…。ティアは王族では生きずらい子だよね。でも、それを見越してスノーリーは勉強だけでなく、常識や心の在りかたを教えたのかもね」


カップに口をつけて、数十年前に思いを馳せる。

ティアとスノーリーの授業は多岐に渡っていた。

新しい魔術や薬に関すること。

礼儀作法や国の歴史。

お忍びで城下に降りては、民の暮らしや常識まで学ばせた。

それはそれは、毎日楽しそうな二人に私達は見守る事で癒されていた。

時には魔法を失敗して、城の池に蛙が大漁発生してジェイドに二人で説教されたり。

二人は苦笑しながら、原因を突き止めようと躍起になったり。

新しい魔法の製作に余念のない二人は、いつも魔導書とにらめっこしながら、楽しそうに肩を並べていた。

薬師の時も味も考慮すべきだと、ティアは暇さえあれば花や草・実を噛ったり揉んだり。

ティアが無意識に毒に手を伸ばせば、スノーリーは真面目な顔で手を止め効能や効果を、一つ一つ教える。

たった五年。その五年がティアに大きな影響をもたらしているのは、紛れもない事実。

今だにスノーリーの形見の、透明の石のついたネックレスを普段大切に身に付けている。

ティアの中で、スノーリーは今も生き続けているんだろうね。

父として嬉しくもあり少し癪に障るけど。


「ティア様なら、どこにお嫁に行っても上手くやりますよ。彼女の本質は他者を惹きつけますから」


「それについては、あまり心配していない」


あの子の本質は、ディルがいなければ次代王にしても大丈夫な器だし、行動力・決断・王族の在りかたも目を見張る子だ。

ただ、芯の強さとは別に他者を大切にしすぎるのが難点。

人間として美点でも、王族としては切ないかもしれない。

王族は計算高く、人と渡り合わなければならない。

ティアには苦行にしかならないだろう。

決して頭の悪い子じゃないから、余計に傷ついてしまうのかも。


芯が強いから、譲れない事・見逃してはならないものを見つけ、悩み過ぎてしまう。

強いのに弱いとは、つまりはそう言う事だ。

今まで散々、あの子に裏側を見せたのは…いつか私の手から巣立つ時に、迷わず自分であれるように。

ただ相手側に染まるなんて、無難過ぎてつまらないだろ?

ティアには何処であろと、ティアである事を選ばせてくれる相手じゃないとダメだ。

共にいい刺激を与えながら、共に歩み同じ景色を見てくれる人が理想。

それにぴったりな人物達が、ティアに引き寄せられたみたいに惹かれたサンエーリ殿下と、リーフ殿。

ディルは最初から狙ってたみたいだけど、私はティアが選ばなければ意味がないと静観体勢。

若干、楽しかったのは否定しないよ?

その罰か…ティアも二人に少女らしい表情を見せ始め、初めて見る表情にちょっとだけ悔しく思った。

父親だけが感じるジェラシー。


「では、何故その様な苦い顔をしておいでて?」


「分かってて言っているだろ?」


「はい♪ティア様は色々なモノを変えてくれますね~?不謹慎承知で言いますけど、持ち拐われるのが勿体ないです…」


ジェイドこそ、ティアに本気で説教した事も数え切れない程。

それで、ティアが反省や後悔するか?

答えはNO。やると決めたらやりとげる。

結果がどうあれ、多少反省はしても後悔はしない。

それがあの子があの子であるが故。

ジェイドも、あの子の気質を気に入っているし。


「まぁ、あの子が選んだのなら…父親として応援しなきゃダメだよね」


「そうですね…まぁ、お相手はサンエーリ様とリーフ殿ですから大丈夫ですよ。多少のお転婆も許して下さいますよ」


思い出した様に笑うジェイドに、私も苦笑してしまう。

規格外のティアだから、今までも色々あったからね。

いつも破天荒なティアの行動は、私を楽しましてもらったし。

いっぱい助けてもらってばかりだ。


「……今度頑張るのは、私達の方だね」


「何処までもお供いたしますよ」


私の思考を読み取った様に、ジェイドが頬笑みを浮かべる。

お互い瞳は怪しげに光っているだろう事は、百も承知。

歩みを止めないのは、私が王であるから。

そして、私の腕から旅立つ娘に心配させたままなんて、王としても父としてもふがいない。

だから私はこのまま突き進む。

父親として、旅立つ娘の笑顔を守るために。

王として、誰より正しくあるために。


王と父。

私はティアがいつも許してくれたから、両方出来ていたのかもしれない。

優しくて聡い子。

君が笑っていてくれたら…きっと今の私も報われる。

もう一頑張りと、書類に目を通すべく移動するのだった。

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