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転生珍獣王女奮闘記  作者: 千里
40/66

No.40 王様と王子様~王子様は腹黒


<サンエーリside>


落ち着いた室内の中で、月を具現化したような方が真顔で私とリーフを見る。

向かい合う冷々とした瞳が、美しくもあり怖くもある。


「君達は帰還にティアを連れて帰るから、婚約披露の夜会を開いて欲しいと?」


「はい。婚約期間を1年にして、私達の国に慣れてもらうためにすぐにでも来てもらいたいんです」


「国でもティアを歓迎するでしょうし」


私とリーフの返事に、フェリオス王は怖いくらいの笑顔で言う。

威圧感をまとう笑顔は、一国をまとめる王の風格そのもの。

前から知っていたはずなのに、今日のフェリオス王は別人のようだ。

私達は無意識に、背筋を伸ばす。


「ティアは私の宝だ。しかしティアは姫として規格外。他者を守るためなら自分の命を削りかねない、危ういあの子を生涯愛し続けてられると?」


確かにティアは危うい。

でもティアは生きる事を投げ出すでも、諦めてる訳でもない。

生き続ける事を前提として、自分の出来る全力で動くだろう事は想像出来る。

自分のためにではなく、他者の誰かのために。

私はリーフと視線を一瞬合わせて頷く。


「ティアがティアでいる限り。私達は彼女の背中を守り愛し続けます」


「そんなティアを愛しているんです。我々の呪いすら吹き飛ばした、ちょっと破天荒で心優しいティアと生涯寄り添いたいと思ったのです」


フェリオス王は1度目を閉じると、溜め息混じりに口にする。


「…君達には腐るほどの縁談があると、耳にはさんだが?」


「愛のない結婚なんて虚しいだけ。だから今まで結婚はしないと、家族には言ってました。なので、家族も私の意思を尊重して、全て丁重に断っているのでご安心を」


「我々とティアが出逢えたのは、奇跡か運命だと思っています。手放せば確実に後悔で生きていけません」


フェリオス王を見つめたまま、本心を伝える。

芯が強くて心優しい、ちょっと風変わりな王女。

そんな彼女は、優しい故に心を痛める事も多いと思う。

自分が情けないと言いながら、一人で頑張って抱え込もうとするモノを、少しでいいから背負わせて欲しい。

ティアの荷物であれば、喜んで全てを受けとるのに。

私達には甘えて欲しい、頼って欲しい。

真剣にいい募ると、フェリオス王の雰囲気が急に変わる。

真剣だった瞳から、悪戯っぽい光りに変わったのを見逃さなかった。

フェリオス王は、何もない壁際に視線を移しながら小さく笑う。


「ティア、愛されているね~♪父様は嬉しいような、寂しいような不思議なかんじだよ?」


「父様、面白がってお二人に意地悪いわないでくださいませ!」


不意に姿を現したのは、頬を染めた愛おしい人で。

私達が驚いているのに構わず、親子は会話は続く。


「父様が呼ぶので来てみたら、幻覚魔法を使えなぞと…重大な事かと思ってみたら、なんですか!」


「ティアは私の宝だからね。大切な宝を簡単に渡せないだろ?」


「私がいなくても、話はできましたよね!?」


赤くなってるティアに、 フェリオス王は笑顔を向ける。

その姿は、先程のが嘘の様に柔らかく父親の顔になっている。


「これはついで。本命は別だなら。もうすぐ来ると思うけど…」


「もう、父様…私で遊ぶのはお止めください!」


ティアが顔を赤く染めたまま、 フェリオス王に噛みつく。

嬉しいそうなフェリオス王に、更に噛みつこうとした時。

そこへ宰相殿がフェリオス王に声をかける。


「第二騎士団長が到着しました」


「チェルおじじ様!」


ティアの表情がパッと明るくなる。

精悍な初老の騎士団長は、ティアの側に近寄ると、遠慮なく頭をぐりぐり撫でます。

ティアも慣れているのか、クスクス笑いながらされるがまま。


「二人で氷上ウルフの様子を見てきて欲しい。上手く事が運べば、山へと誘導してくれると助かる」


「チェルおじじ様とですか?」


こうして、ティアは何時も勅命を受けているんだね。

なんとなく、察してしまった。

まだ、氷上ウルフは人間に危害を向けないものの、絶滅寸前の魔獣であり危険は付きまとう。

心配そうにしている私達に、ティアは笑いかける。


「大丈夫です、父様には慣れてますから。それにおじじ様と一緒だし!」


「久々に楽しめるな。王子様達よ、心配しなさんな。このお転婆は、わしが鍛えた自慢の生徒じゃからな。おっと、名乗っておらなかったな。わしは、チェルシー・ブロッサムじゃ。この通りおじじと呼ばれておる」


初老の騎士団長は楽しげに笑いながら、ティアの頭を撫で回して続けている。

ブロッサム氏と言うこと…自然と宰相殿の方向を見ると、困ったように苦笑して教えてくれる。


「私の父です。今だに第二騎士をまとめあげていますが、少々遠慮がないと言うか…」


「生徒に遠慮してどうするんじゃ。お前とて、ティアに説教するじゃろ?つまりは、たいして変わりない!」


「父上ほどではありませんよ。いいですか、二人とも程々でお願いしますよ?ティア様は、近々婚約披露の夜会があるのですから!」


ビシッと言われた言葉に、ティアとチェルシー殿は顔を見合わせて笑う。

その光景は、祖父と孫娘の様で微笑ましい。

宰相殿はこめかみに指を当てながら、人選をミスしたのでは?と呟いている。

これも何時ものやり取りなんだろうね。

そこへ、慌てた様子の小姓らしき人物が現れた。


「あの、魔導師のナルサス様が調査をご一緒したいと…」


「ナルサス氏が…どうしますか?」


宰相殿がフェリオス王に伺いをたてると、王は少し考えた後に呼ぶ様に伝える。

ナルサス氏と言われて、私達はモヤモヤしたモノに包まれる。

現れたナルサス氏は、軽装に腰には剣をさした姿だった。


「ティアと一緒に行きたいと?」


口上をのべようとしたナルサス氏を遮って、王はナルサス氏に聞く。

ナルサス氏は、膝をつき頷きながら詳細の説明をする。


「文献を漁っていた所、ちょっと気になったモノがありまして。自分は魔導師です、少しでも貢献できるかと」


自信ありげの姿に、王は腕組みをして考えた後。


「一緒に行動する事は許そう。ティアの邪魔だけはするな」


「御意。では、早速片付けてしまいましょう」


膝をついたまま頭を下げるナルサス氏にが、少しだけ羨ましく思える。

私とリーフは、あくまで客人だ。

だから、抜刀などの事柄に首を突っ込む事は出来ない。

それが、ここまで歯がゆく感じたのは初めてだ。


「ハハハ、婚約者殿。このおじじが、目を光らせているので、安心しなされ」


私達に騎士団長は、朗らかな笑顔で言う。

ティアの事になると、仮面の王子と言われている私も、まだまだなのだと痛感はする。


「ティア、任せたよ?」


「はい。お任せください。おじじ様と一緒で楽しみです♪」


「じゃ、行くとするか。移動は転移魔法じゃろ?」


「うん。ナルサス様もいいですか?では、行って参ります」


手を軽くヒラヒラ振るティアに、緊張も恐れもない。

あるのは、騎士団長への絶対の信頼。

正直、羨ましいと思った。

絆を見せつけられた気がして、心が乱れてしまう。

リーフも同じなのか、複雑な表情で転移魔法の三人を見送っていた。


「積み重ねてきた絆は、君達には太刀打ち出来ないだろうね」


分かっている。でも心が落ち着かない気持ちになるのは、ぞくにいう嫉妬だ。


「それで話を戻そう。婚約披露の夜会には、別の動機があるのではないかい?」


「はい。ローズニア姫の動向を探りたいのです」


「きっと我々の邪魔をするはずです。そこを掴めれば、余罪も明らかになるはずですから」


「自信はあるのかね?ローズニアも一応は姫だ。簡単にはいかないのではではないか?」


フェリオス王の表情は硬い。

心配しているだろう事は、おおよそは想像出来る。

しかしながら、あのローズニア姫の様子からして…長引かせるのは危険だ。

ティアに少しでも危険があるなら、排除したいのが本心だったりもする。


「彼女は姫である事を理解していれば、こんな流れにはなってなかったと思います」


私の言葉に瞳を伏せる王は、小さな小さな溜め息を吐き出す。


「半分は私の責任かもしれないな…聡いティアと同じに考えていたから。ティア最初から規格外だったのに、ね」


思い出すように遠くを見つめるフェリオス王は、どこか楽しそうな寂しそうな表情を浮かべている。

その言葉の響きに、憐愍が混ざっていた気がしたのは気のせいではない。

私達は何も言えなくなってしまう。


「そうだね…ここらで潮時だね。膿みは全て洗い流さないと、民にまで迷惑をかけてしまうしだろうしね」


言葉の指す意味は、思いの外重い。

それでも、有言実行だと瞳が言っている。

客人の私達に出来る事があるだろうか?


「改めて、ローズニアの非礼に対する謝罪を。そして、強くて弱いティアを幸せにしてやってくれ」


「謝罪も受けとりますし、ティアを幸せにするのは当たり前ですので、頭を上げて下さい」


頭を下げたフェリオス王に、私達は慌てて頭を上げてもらう。

ローズニア姫は捨て置き、ティアを幸せにするのは当然だ。

三人で幸せに暮らすのが、私達の幸せに繋がる。


「私達は必ず幸せになります」


「ティアに頼って貰える様に、日々精進はさて行きたいと思います」


「私の宝をよろしく頼む」


父親の顔で頬笑むフェリオス王に、私達は頷く。

王であり父親のフェリオス王は、安心したように慈愛の笑顔を浮かべた。

それは、心からの笑顔だった。



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