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転生珍獣王女奮闘記  作者: 千里
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No.4 王子と白魔女~お兄様の愛の罠


<ディルアルside>


青の季節の十四日目。

双子の妹・ディアティアとローズニアの、誕生日と婚約者を選ぶパーティーが開かれる二日前。

どこか皆が浮き足立っている。

大陸の中心である花の都・セレーネ王国は、大国ではないものの色々な面で重要視されている。

例えば、魔法の技術。

六彩の賢者が日々製作する魔法は、治療から生活魔法まで多岐に渡るり、人々を助けている。

例えば、レースや刺繍。

練習さえ惜しまなければ、自宅で家を守りながら収入を得られるので、庶民の主婦に人気が高い職だ。

どちらも、ここ十年程で広まり他国にまで伝わるまでになった。

孤児院だってそうだ。

でも、これには秘密がある。

ある少女が、小さな好奇心と優しさから始めて広がったもの。

本人は、゛凡庸で取り柄がない゛と言っていたが、僕には誰より優れた人間だと思っている。

心の在りかたや、柔軟な考え。

優しさ、強さ、賢さ。

周囲の侮蔑的な言葉も態度も、自分を保ち続けるたくましさ。

もし、ティアが弟だったら…僕はティアを王太子に推したと思う。

最初は理解されなくとも、ティアの心の在りかたは次第に、人を惹き付ける。

今だって、侮蔑する貴族は母の取り巻きがほとんどで、ティアと仲良くしている貴族も少なくない。

それだって、ティアに助けられた人がほとんど。

見返りを求めないティアの人間性に、魅了されたりしている。


「それでも、ティアは鈍いから気がついてないんだよね…」


ティーカップを傾けながら、こぼれた独り言。

可愛い妹の変な所の鈍さに、苦笑しているとノックの音が聞こえて、守護騎士兼側近のネイル・ブロッサムが入室してくる。

宰相殿の長男であるネイルは、水色の髪と瞳の、美丈夫であり真面目なヤツだ。


「ディルアル様、サンエーリ様とリーフ殿が到着致しました。案内してよろしいでしょうか?」


「いや、僕が行こう。賓客室だろ?」


「分かりました。今からでもよろしいでしょうか?」


僕は頷いて歩き出す。

ネイルは僕の後ろを歩きながら、苦い顔でささやく。


「サンもリーフも相変わらずだった」


「またからかわれたのかい?」


光景が浮かぶようで、小さく笑ってしまう。

サンもリーフも、いわば幼馴染みたいなものだ。

幼少期に出逢ってから今まで、年に三回は談笑の場をもうけている。

手紙のやり取りは、もっと頻繁に。

もちろん、産まれてから一緒にいたネイルもその場にはいた。

そして、真面目なネイルは、サンとリーフにいじられるのが常。

仕事は必要異常に出来るのに、変な所で天然なネイルは、いい玩具になってしまう。

見てて面白いから、僕も参加しちゃうけど。


賓客室の前には、エメラル国の護衛が一人。

僕達を見ると、胸に手を当てて礼をする。


「サンエーリ殿下がお待ちしております」


「ご苦労様」


軽く言葉をかけて部屋に入ると、久々に見る親友達の姿が目に入る。


「やぁ、久しぶりだねディルアル」


長く淡い水色の髪に、同系色の瞳。女子が好む綺麗な甘い顔立ち。

サンの容姿は、相変わらずブレない王子様っぷりだ。

誰も腹芸の得意なヤツだとは、思わないだろう。


「よっ、久々だな。元気そうでよかったぜ」


軽く手を上げたのは、サンの側近リーフ

・バトル。

適度に揃えられた金髪に、端正な顔立ちであるものの、側近や腹心というよりは騎士に見られがちのヤツだ。


「二人も相変わらずみたいで、安心したよ」


「今日は楽しみにしてたんだよ?ディルの宝物に会わせてくれるって、手紙に書いていたから」


「そうだぜ?なかなか会わせてくれないから、今日を楽しみにしてたんだよな」


「僕の宝物の白魔女さんは、本当はずっと隠しておきたかったんだけどね」


僕は小さく笑いながら、ティアに会った時の二人の反応を想像してしまう。

今まで会わせなかったのは、ティアに自由でいて欲しかったから。

きっと、サンやリーフがティアを知ってしまうと、二人に確実に気に入られてしまう。

ギリギリまでは、ティアの自由を守りたかった。

でも、十五才。婚約者を探さなければならない年齢になった。

それなら…この二人に立候補してもらいたい。

僕の一番の宝物で、彼等は僕の大切な親友達だから。


「じゃ、さっそく行こうか?僕の白魔女さんに会いに」


この時間なら、きっと作業場にいるはずだ。

作業場と言っても、恩師の部屋をちょっと改装しただけの場所。

ティアの個人的な、初めてのおねだり。

それ以外は我が儘らしい我が儘や、おねだりは薬師を続けている事ぐらい。

欲がなくて兄としては、少し甘えて欲しいと思っているんだけど。


「その白魔女さんは、どんな子なんだい?」


「どんな?うーん…見てて面白いし飽きないよ。珍獣姫とか色々言われてるしね」


「色々にしても、酷い言い草だな…」


「まだ珍獣はマシ。ティア様は気にしてない。むしろ、人が寄り付かないから、楽でいい、と言ってた」


「面白い子だね。話すのが楽しみだな」


ネイルが苦笑する。

確かに、ティアは気にしていない。

母に何を言われようと、卑屈にならずに自分を見失わない。

それこそ、大人でも難しいのに。

だから、僕は甘やかしたくなるんだけどね。


話しているうちに、目的の部屋の前。

ノックすると、軽い返事と共に扉が開かれる。


「あら、ディルちゃんじゃない!ティーちゃんに御用かしら?」


迎えてくれたのは、新緑色の髪を軽くリボンで束ねた、魅惑の美貌のハイエルフ。

またの名を、六彩の賢者・ハーツ。

お姉言葉を除けば、サンエーリと張れるぐらいの美貌の持ち主。

中身は、気まぐれで可愛いモノに目がない変人だけど。


「ティアはいるかな?」


「いるわよ。今はちょっと庭で作業中だから、中で待っててくれないかしら?」


「僕のお客さんも一緒だから、お茶の用意をたのめるかな?」


はーい♪と、ご機嫌に案内されたのは、庭に面したテーブル。


「ディルアル様、ご機嫌麗しゅうございます。お客様ですか?お茶をご用意しますね」


「おはようございます。王太子殿下」


庭から現れたのは、ユリエルで軽く一例するとお茶の用意をはじめる。

ネイルと兄弟のユリエルは、繊細そうな中性的な顔立ちで、美丈夫のネイルとは正反対。

似ているのは、真面目な性格だけ。

窓近くに佇むのは、美女と名高いジェニー。

孤児院育ちで、ティアに救われてからは、猛勉強し剣の腕を磨いて、ティアの近衛騎士にまでなった才色兼備。

かって知ったる僕は、サンとリーフを座らせてお茶を来るのを待つ。

不意にサンとリーフが、目を見張ったように動きを止めた、視線を追って納得してしまう。

庭の対面に座った二人が見たのは、魔法を行使しているティアの姿。

粉雪のような淡い光が、ティアを包んでキラキラと刹那の幻想を作り出し綺麗に彩る。

平凡姫なんて、言えないくらいに綺麗なんだよね。

魔力は神からの恩恵。王族ですら稀になってきた力。

神様はティアにそれを与えた。

それも、六彩の賢者を越えるほどの。


綺麗な光景に見入る二人に、僕は小さく笑ってしまう。


「お茶が入りました。もうしばらくお待ちくださいませ」


「ありがとう。ティアは相変わらずかい?」


ユリエルは、困ったように笑いながら頷く。

その横では、ハーツは眉をひそめて口を尖らせる。

尖らせても可愛くない、と言っていいだろうか。


「 もー、ディルちゃんから言ってやって!ティーちゃん、納期が近いって、二時間睡眠二日目なの!お肌も体にも悪いでしょ?」


「それは困ったね。少し言っておこうかな」


プンスカ怒るハーツは、寝ているのか顔色はいい。

ユリエルを見ても、顔色は悪くない。

多分、こっそり寝台から抜け出して、作業をしていたに違いない。

じゃなきゃ、真面目なユリエルやティアにだけ過保護なハーツが、二日も寝不足にさせる訳がない。


「……今のはなんだ?」


「初めて見た……あんなに綺麗な魔力あったんだね」


「僕の自慢の白魔女さんだからね」


淡い光が霧散したのと同じく、驚いた様に口を開いたリーフとサン。

初めて見たら仕方ないよね。

僕も初めて見た時には、驚いたし見入って紅茶を溢した。

クルッと振り向いたティアは、いつものティアで、僕を見ると目を見開いた。


「ティア」


呼ぶと嬉しそうに頬を緩めるティアは、自分の妹ながら可愛いと思う。

父上やローズニアとは違う、ある種ホッとするような愛らしさ。


「兄さ……」


僕に近寄ろうとして、ツーと視線を流してビシッと固まる。石みたいに。

面白いと思いながら手招きすると、少し悩んだ後に寄ってきてくれる。


「こんにちは、ティア。顔色は…ちょっとクマが出来てるよ?」


「いえ、ちょっと納期が…。昨日は寝ましたよ?」


「えっ、ハーツから色々聞いちゃったんだけど」


「あの…まぁ、いや、はい、ごめんなさい」


サッと僕から視線を反らしてしまう。

言い訳しようとして、失敗してしまったと言う様に、小さくなってしまうのが本当に可愛い。


「ダメだよ、ディルアル。可愛い白魔女さんをいじめたら」


「いじめてないよ。僕はティアに体を大切にして欲しいだけだから」


サンの声が楽しげに弾んでいる。面白いモノを見つけた時の癖だ。

心なしか瞳がキラキラしている。


「兄様、あの…御二人は?」


恐る恐る尋ねるティアは、眉を下げて困り顔。


「僕の親友だよ。今回のパーティーにも招待されてる、エメラル国の王子様達なんだ」


「初めまして白魔女さん。第二王子、サンエーリ・エメラルです。サンかエーリと呼んで下さい」


「白魔女姫、お目にかかれて光栄です。サンエーリ殿下の側近、リーフ・バトルです」


優雅に礼をする二人に、ティアは若干なひきつった笑顔のまま、流れる仕草で綺麗な礼をする。


「こちらこそ、長旅でお疲れの中ご挨拶して頂き光栄にございます。ディルアルの妹、ディアティアです」


「ディアティア…うん、じゃ…ティアと呼んでも?」


サンの提案に、ティアは笑顔を張り付けたまま頷く。


「じゃ、俺もティア姫と呼ばせてもらうな。俺はリーフでいいから」


「あの、姫はちょっと…ティアでお願いできますか?」


困惑気味にティアは訂正する。

ティアは゛姫゛と呼ばれるのに、昔から抵抗していた。

私は姫なんて似合わないから、らしい。


立ったままのティアに、更に手招きして隣りをポンポン叩くと、仕方ないですね、という風に隣に座る。


「ティーちゃんは、ハーブティーかミルクティーのどちらかよ?二日も無理しているんですもの!」


「ユーリ、ハーブティーでお願い」


「はい、今から一時間は休憩して下さい。ティアは根を詰めすぎてます。疲労は効率を下げますからね」


「いえ、でも昨日の続きを」


「ダメです。万が一ティアの魔力が暴走したら、ハーツが三人いても無傷ではすみませんよ?」


「うぅ…分かったから、冷気を漂わせないで下さい…」


駄々っ子を嗜める母の構図に、サンとリーフの肩が小刻みに揺れる。


「プッ、ハハッ。ティアは臣下の者と、仲がいいんだね」


「普通、ですよ?臣下と言うよりは、心友や相棒、仲間って感じですから」


「それが稀なんだぜ?臣下を対等に扱うヤツは少ないからな」


「そう、なんですかね?私にとっては、これが日常なので」


さも当然の様に言うティアは、建前でもなく本気なのは、僕が一番知っている。


「うん、ティアは面白いね。見てて飽きないし、気に入っちゃった」


「確かに。俺も興味あるわ。どんな人間なのか、気になるよな」


「いえいえ、普通ですよ?」


慌てて左右に顔を振るティアと、楽しげな親友達。

予想通りの展開に、僕は自然と頬を緩める。

この出逢いに進展にある事を願っている。

僕の大切な妹には、誰よりも幸せになって欲しいから。

三人のやり取りを見ながら、ひっそりとティアの幸せを願った。



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