No.5 白魔女=珍獣姫
先はほどから背中に流れる汗を、止められずにいますよ。
営業スマイルで、乗りきれるかな…不安で仕方ない。
「庭で何をしてたか聞いてもいいかな?」
サンエーリ殿下が頬笑む。
兄様や父様で耐性はあるとはいえ、小説のメインキャラは違うね。
花がぶわっと…無駄にキラキラしていて、目がチカチカするわ。
「庭で薬の最後の仕上げをしていました」
「…薬の仕上げ?」
最後の仕上げとは、そのままの意味。
少量の魔力を薬に馴染ませる。
すると、不思議と薬の効能が効果的に上がるんだよね。
浅い傷なら一日。風邪なら三日適度。
色々と試した結果、私の魔力はどの属性も使えて、薬の生成と相性がいいと分かった。
ハーツには反則技だとも言われ、あまり人目のある場所で使う事を禁止されたけど。
「ティアは、薬師で魔導師なんだよ。だから薬も作るし、魔獣の相手もするんだ。本当に僕の自慢の妹なんだよ」
「兄様、ちょっと過大評価です…」
「そんなことないよ?父上だって、一番自慢なのは、ティアだよ?」
「兄様、お口を閉じて下さい!居たたまれないので」
父様は少し…ものすごく変り者で、国に関わらない事で、自分の楽しみを見つける。
その対象が、だいたいは私。
姫らしくない私は、面白いらしく私が動くと、爆笑するかニヤニヤして見ている。
可愛がってくれているのは分かっているから、怒る訳にもいかず気にしない様にしているけど。
「手放しにディルが誉めるのは珍しいけど…あれを見てしまうと興味深いね」
「いえいえ、私では皆様の期待にそえませんから!それこそ、時間を割くだけ無駄だと思います!」
サンエーリ殿下の笑顔を見て、私なりの精一杯の訂正をしてみる。
何が悲しくて、自分から死亡フラグに飛び込むの!
父様に言われたから最低限の接待はするけど、ベタベタするつもりはない。
私には、ラブよりライフ!
宝石類より現金!
堅実な生活が一番なので。
「プッ、あはははっ!」
「あぁ、マジで…ぷ、あはははっ!」
肩を揺らして笑っていらっしゃいます。
王子様や貴公子の笑いというより、少年のようなほがらかな笑い。
私は何処にツボったのか分からない二人に、兄様を見て目で助けを求める。
兄様は想定済みだったらしく、安心する様にサラサラと髪を撫でてくれる。
「あの二人にはティアが新鮮なだけだから、不安そうな顔をしなくて良いんだよ」
「そ、そうでしょうか?規格外の自覚はありすが…見苦しい場合は、兄様止めて下さいね?」
「分かっているよ。ティアはいつものままで大丈夫。煩いのは、僕と父上がギュッと締めるから、ねぇ?」
兄様の発言に感動しつつも、二人に思考が移ってしまう。
規格外の発言が、更に二人を笑いに誘ったのか…目に涙を浮かべてまだ笑っているよ。
だって日本の記憶があるだけで、規格外中の規格外だもの。
前世では、神様の賭けに巻き込まれた不運。
今世では…王子様と一緒に死亡フラグが。
魔力は神様の恩愛。
有り余る程の恩愛は、はた迷惑だ、と誰か神様に教えてあげて欲しい。
諦めにも似た気持ちで、ユーリが置いてくれたカップに口を付ける。
「あー、久々に笑った!あ、悪い意味じゃないぜ?」
「本当に。こんな子が側にいるなんて、本気で羨ましいよ」
サラッと髪をかきあげたリーフ様は、直視出来ない色気がタダもれしている。
さすが、王家の血筋なだけあって、サンエーリ様と一緒にいると…三割増しでキラキラしている。
そこに月の化身と言われた兄様を入れたら…少女マンガも真っ青。
乙女が卒倒しそうな麗しさだ。
だから、ヒロインは完全無欠の美少女だったんだ!
埋もれてしまわないために。
私には無理。何がどーなっても無理だ。
「ダメだよ。まだあげないから。ティアが嫌がる事はしないのが、僕と父上の意見だし…ティアは、自分の事になると急に疎かになるからね」
心配なんだよ、と微笑まれると、罪悪感が半端ない。
寝不足のこと?
山で魔獣を倒してドジって、ケガしたから?
治癒魔法の使いすぎで、寝込んだこととか?
ヤバイ、心配しかかけてないじゃん!
一応、自分は大切にしているんだよ?
ただ、見捨てられないだけ。後でモヤモヤするのが嫌だから。
髪を触りながら思考に浸っていると、不意に横から指に温かい温度を感じてハッとする。
「ねぇ、私とリーフに君の時間をくれないかな?」
「へ…?」
サンエーリ様との顔の近さからして、膝をついて私を見ているのは分かる。
うわー、イケメンってドアップに耐えられるんだね!
なんて…現実逃避していいよね?
この台詞は、ヒロインが言われる台詞だからね!
現在、妹とは疎遠でストーリーに関わらない位置にいる私に、囁く台詞ではないよ?!
間抜け面の私に、今度は正面からリーフ様が、私の頬に手を伸ばす。
「まずは、手始めは友人から…な?」
スルスル触る二人に、私はその場に固まって狼狽える。
接待は絶対事項で、友人になるのは…きっと大丈夫だと思うけど…。
色香漂う王子様と、色気ダダもれの側近さんに囲まれて、私の心の平和が保たれるのか?
……無理、な気しかしない。
今でさえ心臓が口から出そうだ。色々な意味で。
「えーと…あの…」
「ほら、ティアが困っているだろ?ティアは耐性がないから、お手柔らかに頼むよ?」
二人の手を、ペチッと叩く。
兄様素敵です。
でも、兄様。
こんなイケメンに耐性がある人間は、そうそういないよ。
乙女ならなおのこと。
私も一応、乙女だったんだね!
「フフッ、今日から二週間楽しみになったよ」
「確かに。こんな事なら、もう少し早く会いたかったよな」
「ハハッ…ソウデスカ?」
優雅に足を組変えるサンエーリ様と、瞳を少年の様に煌めかせるリーフ様に、私は愛想笑いを浮かべた。
兄様を見てもどこか満足そうで、私は心の中で呟きます。
心の安念が欲しい…。
神様、本気で平穏な日常を下さい。




