No.17 彼女と王子様と俺~側近の一時
<リーフside>
話し合いの後、俺とサンはティアの作業部屋に案内された。
「こっちにいる時間の方が長くて、私室は落ち着かなくて」
照れ笑いするティアに、サンも俺も小さく笑ってしまう。
「私はティアの私的な部屋にお邪魔出来るのは、嬉しいけどね」
「そうだな。身近な人間になれたみたいでいいよな」
「良かった…お兄様とハーツ達、後例外に一人以外は作業部屋に入らないから。あ、たまに父様は奇襲かけてくるかも」
王様やディルの話をすると楽しげにクスクス笑うティアは、魔法を使っている時と違って年相応に見える。
魔法を使っているティアの近寄りがたい雰囲気を思い出すと、同一人物に思えないほどに落差があった。
鍛練していた時も、無詠唱の魔法を二個・三個繰り出す様は、内心唖然としてでもワクワクもした。
手合わせ出来なかったのが、残念に思えるほど巧みな魔法だった。
まぁ、嫌われるのがイヤですぐに引き下がったけど…何時かは一試合頼みたいと思っている。
ドアを開けると、ハイエルフ殿が立っていた。
「もう!ティーちゃん、また勝手に出歩いて!」
仁王立ちしていたハイエルフ殿に、ティアはごめん、ごめんと軽く謝るとお茶の用意と、朝食の用意を頼む。
「二人は座ってて?私はちょっと精霊に頼んで、激怒してそうな二人に伝言頼むから」
「激怒してるんだ?」
「間違いなく。常習犯だからね、私」
「認めてんのかよ!」
「うん。自他共に認めるお忍び行動派だから」
「ホント怒られるわよ~!」
反省の色が見えない辺り、側近達も慣れているのかもしれない。
ピィーと口笛をふくと、子犬サイズの半透明の精霊が来て、ティアが小さく呟くとすぐにフッと消える。
「今のは?」
サンも驚いたらしいが、驚いたのは俺も一緒。
精霊が見えるのは、精霊視力がある人だけのはず。
俺もサンも精霊視力はない。
他に見える場合、精霊が上級以上であり契約している人間がいる時が多い。
今、見えた精霊は…上級でティアと契約しているのかもしれない。
それは、とてつもなく希少で大変な事だったりする。
「クロの事?契約精霊だけど?」
当たり前に言うティアは、自慢するでもなく通常運転だ。
珍しいことのはずなのに、俺達まで静かに受け入れるしかなくて。
嫌味にならない辺り、ティアの素質なのかなんなのか。
「それはティアの、だよね?」
「契約者は私だけど、精霊は自由を愛するからね。私の、と言うのはちょっと違うかな?」
「なんかティアは、びっくり箱みたいだね」
「納得だな。上級魔法は使えるし、精霊と契約してるし」
次に何がくるか楽しみな位に。
ティアの表情や性格だけなく、行動が面白くて仕方ない。
俺達の反応に、少し目を見開いてから一人で呟きだした。
「平凡陳腐を地で行く私が?うーん…お兄様達の反応は、普通だったよね??もしかして、お二人がちょっと変とか?」
自分の思考に浸ってしまっているのか、本音がだだもれだ。
それでも、笑えるのはティアの人柄だからだ。
その間に、お茶の用意が整ったらしく、優しい香りが鼻をくすぐる。
朝からバタバタしてたから、お茶すらしてなかった事を思い出した。
「朝食はもう少し待っててね~。今日のお茶は、うちの里からの特注品よ」
飴色のお茶は、紅茶のようでちょっと後味は爽やかで初めての味だ。
「エルフの里から届いたんだ?」
「今朝一番でね。ティーちゃん好きだから、持ってきたのに…部屋はも抜けの殻なんだもの!」
「ごめんね。父様に呼ばれちゃってて…もう、今度からは置き手紙するから」
唇を尖らせるハイエルフ殿に、ティアは笑いながら答える。
改める気がないのが、自由なティアらしい。
俺とサンは二人を眺めて、微笑ましく思いながら頬笑む。
朝イチで落ち込んでたのが嘘の様に、俺とサンの心はなぜか落ち着いていた。
指輪を無くした事で、朝から思い当たる所を二人で探して、最終的にフェリオス王に捜索を頼んだ時は喪失感でいっぱいだったのに。
ティアに会った瞬間、その感情が薄れていくのを感じていた。
根拠はないけど、ティアなら手伝ってくれると直感的に思ったから。
「ティアは普段は、なにをして過ごしているの?」
落ち着いた表情で聞くサンの表情は、楽しげで内心安堵する。
あの時のサンより、今の方が精神衛生上いいと思うから。
いくら指輪が無くなっても、サンが王子様なのは変わりないしな。
まぁ、確かに国では指輪を無くした王子様は、伴侶を得られないなんて迷信かあるけど。
それもきっと迷信だろうし、ティアといるサンは楽しそうだし。
かく言う俺も楽しくて仕方ない。
俺が二人を観察していると、ティアの視線が俺を見る。
「私は調合ですけど?二人はこっちに来てから何をか聞いてもいい?」
「あぁ、特に決まった事はないな。昼や晩餐をディルやフェリオス王と一緒にとるぐらいかな」
「ティアは何か予定はある?」
サンの言葉にティアは左右に首を振る。
その答えにサンは俺に視線をよこして、満面の笑顔を見せる。
この笑顔は悪戯を思い付いた時の顔だ。
「じゃ、朝食が終わったら散歩しようか?」
「えっ??」
「三人で庭園に行こう。花の都だからきっと綺麗だろうし」
サンの笑顔に押されているのか、ティアの笑顔がひきつる。
でもサンは撤回する気はないらしい。
笑顔が更に咲き誇っている。
俺も言葉なく頬笑む。
魔力を判別・確定するのに一緒に行動するのは効果的だし、反対する理由がないしな。
「魔力の判別や確定には、一緒にいるのは必要でしょ?」
「えっ、あ、まぁそうなんだけど…」
ダメ押しだ。
最初から離す気がないのが、長い付き合いの俺には分かる。
サンも俺も、ことのほかティアを気に入っている。
性格も行動も。
何より心の在りかたが好ましい。
「じゃ、決まりだな」
「え、はい。私で良ければ」
「ティアが良いんだよ?」
サンの笑顔と言葉に、ティアの顔がみるみる赤くなる。
ポッと赤くなったティアは、誤魔化すようにカップに口をつける。
その様が可愛らしくて、俺もサンも笑ってしまった。




