No.16 事件のようです
朝日が窓から降り注ぐ。
またやってしまった、完徹を。
ハーツが知ったら嘆きそうだから、簡単に顔を洗ってから身なりを整える。
簡素なドレスも違う色にして、早起きしましたアピールも忘れてはダメ。
元より普段の着替えと身だしなみは、自分でしているから、ドレスも自分で着脱可能なのが多い。
侍女がいないのも、前世の庶民感覚が抜けなくて必要ないと判断しているのもある。
舞踏会や茶会などの時は、父様かお兄様の侍女が派遣されてきたりするし、日常には困ってないしね。
紅茶を入れて一息つこうとしている時。
作業場のドアが開いて、私が振り返ると慌てた様子のお兄様が立っていた。
ノックなしのお兄様の様子に、私はためらいがちに声をかける。
「お兄様、どうかなさいましたか?」
「今すぐ、内密に父上の所へ一緒に行って欲しい」
突然のお願いは、切羽詰まっているのか真剣そのもので。
内容を聞くより、まず行動に移した方が良さそうだ。
「分かりました。では私の転移魔法で行きましょう」
「そうだね…ティア、頼むよ」
お兄様の横に立つと、呼吸を整えて小さく呟く。
「転移」
父様の執務室を浮かべていると、ぐにゃっと風景が変わって、次の瞬間視線の集中砲火。
無事に父様の執務室に着いたけど…視線が痛い。
私、何かしましたかね?
「早かったな。ティア、座ってくれるかい?出来るなら防音の結界も張ってくれ」
「分かりました」
私が指を鳴らすとピシッと光が走って、すぐに光は消え失せる。防音完了だ。
私は父様の手招きに、嫌な予感を感じなからも渋々従う。
父様の他に正面には、疲れ気味のサンエーリ様とリーフ様。
そして、何故か漂う甘過ぎる花の香り。
この香りには、覚えがある。
一番最初に先生に教えてもらった、この国だけに自生する花。
フィール。別名・眠りへの誘い。
「父様、何故フィールの花の香りがしているのですか?」
「やはり気のせいではなかったか…」
「間違いないです。睡眠薬としても使いますから」
父様は難しい顔で溜り込んだ後、簡潔に説明してくれた。
昨晩、サンエーリ様の部屋にだけフィールの花が生けられていた事。
そして、知らずに眠りに落ち…大切な銀の鎖についた指輪が紛失していた事。
その指輪の宝石は、王族が産まれながらにして持つ重要な物である事。
それが、昨晩の夜を境に消えてしまったらしい。
「なぜ、指輪が狙われたんですかね…」
「指輪は伴侶になる者に渡すのが、私達の国では流儀となっているんだ」
うわっ、マジで大変な事になっているみたい。
そして、呼ばれた私は確実に巻き込まれる。
まさかのフラグ立ちに、心境としては゛マジで勘弁゛が正直なところ。
でもここまで知って、スルー出来るほど図太くもない。
「ティア、サーチを使ってみてはどうだろう?」
お兄様の言葉に、私は少し考えながらも使ってみます。
集中してみても、持ち主の魔力が分からないと探すのは困難。
馴染みのない魔力やモノを探す場合、草原から針を探すのと同じくらいに難しい。
知り合ったばかりのサンエーリ様の、残留魔力を探りようにも、元となる魔力が分からないとハードルは途方もなく高くなる。
探れど探れど姿なし。
結果として、見える事はなく徒労に終わった。
「……全く分かりません。すみません」
「ティアは悪くないから、気にしないで。…それにしても、どこに消えたのかな」
力なく頬笑むサンエーリ様に、私は思考を巡らせる。
本来のストーリーは、姉が嫉妬から色々と嫌がらせをする。
サンエーリ様達を付け回したり、お茶会に乱入したり。
最終的には、既成事実を作ろうとフィールを使って、王子様の部屋に忍び込んで一波乱起こしてしまうはず。
そのキーポイントになるフィールの花を使われていた。
うーん、と嫌な方向に考え込んでしまう。
姉の私じゃないなら、他に誰が?
チラチラ浮かぶのは、ヒロインになれない妹の姿。
そこまで、腐ってはないと思いたい。
「ティア、サーチ魔法はどのようにすれば、指輪を探せるのかな?」
ふっと視線がサンエーリ様と合う。
若干不安に揺れている彼に、私は意味不明な罪悪感に押されてしまう。
「持ち主の魔力が判別出来るようになれば…でも、多少時間は必要ですよ?」
「判別か…では、判別出来るようになるまで一緒の時間を過ごしてはどうだ?」
父様が爆弾を投下してきやがりましたよ?!
ニヤニヤしてる顔からみても、面白がってるのは丸わかり。
「父様、顔がニヤケてます。遊びじゃないんですよ?」
「ティアなら大丈夫だろう。自慢の娘だからね」
どんな思考思考回路をしているのか…父様は自信満々。
もはや、何処を突っ込めばいいやら。
「今はティアに頼むしかないんだ。僕も必要とあらば、助力は惜しまないよ?」
「お兄様まで…」
呆れ気味の私と、キラキラ笑顔の父様とお兄様。
更に憂い顔も絵になるサンエーリ様とリーフの視線。
私の負けです。最初から勝てる気はしてなかったけどね!
「分かりました。期待に添えられるように、頑張ります!」
後半はヤケです。
死亡フラグが怖いけど、国の問題になるのも怖いと思ったり。
だって、明らかにフィールの花を生けた人間がこの国にいるんだから。
指輪を紛失した責任は、八割近くはうちの国にある。
二割の責任は、サンエーリ様が自身で紛失した可能性だけど…今の様子を見ていると、かなり低いと考えていいはず。
そうなると、必然的に国の内部犯が濃厚になる。
「ごめんねティア。変な事に巻き込んでしまって」
「いえ、サンエーリ様が気にする事ではありませんよ」
「頼りにしてるぜ。他にも何かあれば言ってくれよ。俺達に出来る事があるなら、何でも協力するし」
真剣な顔で言うリーフ様に、私は頷いておきます。
今はまだ何か出来る訳じゃないけど、必要な時は頼らせてもらおう。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
頭を下げようとすると、手を伸ばして額に触れた。
サラサラと撫でられてしまいました。
「またティア、敬語に戻ってるよ?」
「それな!俺も気になってた」
「ヘっ??」
私はすぐには意味が分からずに、頭をフル回転させて意味を理解しましたよ。
昨日は公の場で敬語で、気がつけばそのままで。
「すごく距離を置かれているみたいで、寂しくなるんだよね」
「そんなつもりは…」
「じゃ、また普通に話してくれるよな?」
なんたる連携プレイ。
そう言われたら、イエスしか答えは残されていない。
「頑張る…です」
私の精一杯の言葉に、今日初めての満面の笑みが返ってきました。
こうして、私の内心の気持ちとは裏腹に、サンエーリ様達と行動を共にすることが決まった。




