No.12 アレはなんだ?~仕事馬鹿と珍獣
<イルクside>
揺れるカーテンを見ながら、先程の光景を思い出す。
場違いなドレスを纏った人物を見たとき、あるのは苛立ちだけだった。
そんな彼女を、医局長は孫を見つけた祖父の様な目で見て手招きしていた。
医局の鬼と言われている医局長の姿は微塵も感じられずに、ガッカリしたのは必然的だろう。
その考えはすぐに覆された。
いい意味で斜め上を行く人物だった、と。
「ちょっと違和感があるかもしれませんけど、少しの我慢ですからね?」
その言葉と一緒に漂ったのは、真っ白な粉雪のような光の粒。
患者を包み込む様に、粉雪が辺りを漂う。
息を吸うかの様に、簡単に使って見せる治癒魔法は…昔に滅びたとされている古代魔法だった。
古代魔法の研究をしている俺には、それがどれだけ難解であるか。
そして、貴重であるかが分かる。
火をつける程度の古代魔法なら俺でも使えた。
それまでに、数年を要したのは苦い思い出だが。
だが彼女は、簡単に治癒魔法を使ってみせた。
その時の衝撃は計り知れない。
無性に欲しいと思った。
「研究対象として、だとおもったんだがな…」
ポツリとこぼれた言葉は、自分に問いかけているようで。
実際に実験を手伝ってくれたらと、本気で思ったし、オーラを見ても人柄はうかがえた。
オーラというのは一人一人違っていて、負の感情が強ければ淀む。
昨今では、オーラが見える者は少ない中で自分は見える側の人間。
オーラはその人物を的確に表す。
負が蔓延る城で、意外に便利な能力だと自負している。
そんな俺から見ても、ディアティア姫のオーラは、月の光のように綺麗に澄んでいた。
吸い付けられた様に、彼女と一緒にいられる理由を探す。
「嫁はいい考えだとおもったんだけどな…」
男女でいるなら、夫婦になるのが手っ取り早い。
提案してみるも、あえなくスルーされてしまった。
患者が優先なのは分かるから、黙って見守る事にした。
返事は治療後に、ゆっくり聞き出せばいい。
最後の治療が終わると、医局長から驚愕の事実がもたらされる。
彼女がディアティア姫だと?!
「えぇ、一応…」
聞いていた話と違う事に、驚きで脳内が一瞬停止した。
我が儘な醜女。関わると呪われる。
どれも嘘でしかない噂に、何とも言えない鬱々とした苛立ちが募る。
しかし、本人は平然と受け入れていた。
余計にやり場のない、感情が心をしめる。
「噂とは本当に無責任だな…」
その噂を信じていた俺も変わらないか。
この感情もそこから来ているのかもしれない。
それでも、彼女が欲しかった。
あの魔法を見たから余計に。
風でめくれる本のページを目で追いながら、どうすれば彼女の近くに行けるか考える。
彼女は十五歳で、今日は誕生日パーティーと称して婚約者候補を探す日だ。
俺にも招待状は届いていた。
ただ、面倒で行かないと決めて、研究室に閉じこもって仕事をしていた。
順調に進んでいた研究の途中、怪我人の治療の要請が入る。
そして、ディアティア姫に出会った。
出会ってしまえば、自然と気持ちは彼女に向かっていく。
「…うむ、どうすれば…」
未知の感情が溢れてくる。
分からないから追及したくなる。
研究者の性だろうか。
彼女の性格的に、正攻法で行かなきゃ逃げられてしまう可能性が高い。
じゃ、今何が出来るか?
「まずは…アプローチか?」
アプローチと言っても、誘われた事も誘った事もない。
参考にするモノがない。
考えた結果。
彼女は白魔女と言われていた。
それたら研究に誘えば良いのか?
きっと、彼女も研究は好きだろう。
彼女の研究に付き合うも、面白そうだ。
そうと決まれば、手紙を送ろう。
少しでも印象に残る様に、手紙に魔法を仕込んでみるのもいい。
どんな返事が届くか…。
自然と顔が緩んだのが分かる。
不思議と気分は良かった。