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転生珍獣王女奮闘記  作者: 千里
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No.13 フラグが折れません


ヘロヘロになって作業部屋に戻ると、ポイポイッと踵の高い靴を投げ出す。

王女としてダメだとしても、知ったこっちゃないよ。

私は非常に疲れた!

なぜ、あそこで侯爵家のご子息に会わなくてはいけなかったのか。

イレギュラーにしても、もう少し優しくてもいいはずだ。

ドレスのままソファーにダイブする。


「よりにもよって、嫁発言はなに?!」


寝食忘れる仕事馬鹿の発言に、一瞬耳がおかしくなったかと思ったくらい。

聞かなかった事にしたのに、返答を迫ってくるなんて予想外だったし。

クッションに顔を付けてうーん、と唸っていると呆れた視線が突き刺さる。


「ティア様、だらしないですよ。ドレスも皺がつきますし」


「面倒くさい!ちょっとだけだから」


「仕方のない人ですね。少しだけですよ?」


ユーリの柔らかな注意に耳を傾けつつも、そのままクッションの柔らかさを堪能する。

ストーリーが変化しているのだから、多少のイレギュラーは仕方ない。

でも、今回のはぶっ飛び過ぎている。

一応あの返答で、フラグは折れているはず。

あえて濁したのは、ノーと言って父様に直接打診させないため。

侯爵家の人間は現在お城でも重要人物で、父様は無下に出来ないだろうし。

そうなれば、本格的にヤバイ。

主に私の穏やかな余生が!

もしの話で結婚しなくてはならないのなら、私はこの国以外の小さな国で穏やかに暮らしたい。

ゆっくりとした平凡な時間を過ごしたい。

スローライフ希望!

そのために頑張ってきたんだから。


「ティーちゃん、お茶にしましょう?」


ポンポンと肩を叩かれて顔を上げると、薬を運んでいたハーツが笑顔でいた。

どうやら薬の運搬が終わったらしい。


「ハーツご苦労様。無事に終わった?」


「えぇ、医局長から感謝されちゃったわ~♪」


「そっか。良かった…それにしても、氷上ウルフが出たって話は気になるよね」


座り直しながら頭を抱える。

侯爵家のご子息だけでも悩みの種なのに

、今回騎士達の怪我の原因が生存数の少ないとされている氷上ウルフ。

それが青の草原。街より北側の領地に降りてきたのが問題だ。

北側と言っても、街までそう遠くない。

馬なら半日駆ければ着ける場所だ。

だからこそ、第二騎士が派遣されたんだろうけど。

今はお城にも他国の高貴な方々がいて、それこそ何かあれば大変な事になるしね。


「この時期だと、動きにくわね~?」


「そうですね。だから陛下もティア様に、お知らせしなかったんでしょうし」


お茶を私の前に差し出しながら、ユーリは苦笑します。

受け取ってカップに口をつけながら、唇をとがらせる。


「分かってるけど…私が出ていれば、あんなに怪我する人いなかったはずでしょ?」


「それはそうですが。ティア様は婚約者候補を探すのが、陛下の願いだったのではないのでしょうか?」


「そんな事、どうでも良かったのに」


口から出るのは、子供っぽい言葉。

父様の考えは分からなくもない。

でも、命は天秤にはかけられないし、絶対にかけてはいけないのに。


「そんなティーちゃんだから、幸せになってもらいたかったのよ」


「今で十分に幸せだけどね」


私がこぼすと、苦笑する二人。

死亡フラグはが転がっているけど、側にユーリやハーツ、ジェニーがいてくれて。

なんだかんだで、楽しく過ごしている。

だから、私は婚約者はいなくてもいいかな~と思っていたし、父様には五歳の時に宣言したはずだ。

カップを置いて、ふぅ~と長い息を吐き出す。

そこへジェニーが顔を出します。

一礼して差し出したのは、藍色の封筒。


「途中で受け取りました。魔導師・ナルサス氏からです」


ピシッと固まってしまう。

激しく受けとりたくない。

受け取れば最後、何か大変な事になりそうで怖い。


「本人からです」


「本人から?」


「はい。ここへ来る途中だったらしいです」


終わったー!

私の心を表すならこの一言。

それでも、そのままに出来ずに受け取る選択肢しかないんだよね。

それが、どんなに遠慮したくても。

格闘しつつも、私は受け取った。

封を開けるか迷いながらも、結局仕方なく開ける。

手紙を開くと、一匹の蝶がヒラヒラ舞ってクルクルと私の周囲を回る。

回り終えると便箋に舞い降りて、サラサラと姿を消す。

あっという間で、何があったか分からないまま便箋に視線を移します。


゛一緒に研究でもどうだろうか?

君の研究にも興味がある。

日付は君に合わせよう゛


簡単に略せばこんな感じだ。

どうして、こうなった!?

一応は、サラッと流したはずなのに。

そこは流されてくれてもいいはず、なのに…。

結果は、お誘いのお手紙が届きました。


「どーしてっ!」


空気読んで欲しかった。

それを仕事馬鹿さんに求めるのが、間違えているのでしょうか?

私が何か間違えたのか?

ガックリ肩を落としている私に、ユーリとハーツの視線は同情が漂っている。

同情するなら助けてよ!


「読まなかった事には…」


「出来ませんね。ジェニーが受け取ってますし」


「ティア様、申し訳ありません!」


勢いよく膝まつくジェニーに、私は慌てて立つように指示をする。

悪いのはジェニーではない。

あえて言うのであれば、空気を読まない仕事馬鹿さんだ。


「ジェニーは悪くないから。ちょっと色々驚いただけだから」


「そりゃ、驚くわよね~?あのナルサス家のお坊っちゃまからの手紙ですもの」


「本当に。僕も色々と驚きましたよ」


側にずっと一緒にいたユーリは、苦笑して肩を竦めます。

私は驚きを通り越して、若干怖からね。


「返事どうしよう~!」


「気持ちのままに書いては?」


「絶対に無理。侯爵家とはいい関係でいなきゃ、政のパワーバランスが崩れるから父様に迷惑がかかる」


「じゃ、デートくらい安いもんじゃない♪一回くらい、思い出作りだと思って!」


パチンッとウィンクをするハーツに、私は半眼のじとめを送る。

死亡フラグと隣り合わせな思い出作りは、誰が嬉々として行くだろうか。

そんなマゾッチクな思考は、持ち合わせてない。

それでも、否の返事はしにくい。


「もう、ちょっと位女の子を楽しまなきゃ♪」


「楽しんでるつもりだけど?薬の研究も鍛練も大好きだし」


「じゃ、デートもそこに入れて頂戴な!いいじゃない、ちょっと一緒に研究するだけなんだし?もしかしたら、色々と教えてもらえるかもよ~?」


ハーツがニヤニヤしながら私を見て、心底楽しんでいる。

殴りたい衝動にかられながら、頭をフルフル振ってユーリに向き合う。


「返事を書く!そんで一回で終らせる!」


意気込む私に、ユーリは心配そうにしながらも手紙一式を渡してくれる。

女は度胸!

死亡フラグを折るために、一度会うしかない。

どう考えても不利だけど。

その思いを振りほどいて、便箋に日付と時間。

そして、手紙のお礼をしたためる。

封をする前に魔法を使う。

花を幻覚魔法をかける。

封を開いたのと同時に、花びらが舞い踊る手はずだ。

彼の魔法と似た魔法でありながら、香り付けも忘れない。

お返しには調度いい。

そう思いながら、封をしてジェニーに渡す。


「ナルサス・イルク様に渡してきてくれる?」


「はい。承りました!」


一礼して出ていくジェニーを見送って、知らず知らずのうちに溜め息をつく。

どうして、フラグが折れてなかったのか。

イレギュラーに苛々が募る。

どう考えても、最近はイレギュラーが多すぎる。

王子様の時しかり、今回しかり。

このままどんなストーリーになるのか…考えても仕方ない事を考えて、落ち込みそうなのを堪える。

頑張るしかないのだから。

頑張れ、私!


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