プロローグ 遥かな遠き蒼へ
「航路準備完了、私はここには戻らない」
そう告げると電子機器から、
『ネームはベガとして、宇宙船の常用者登録を完了しました』
感情の起伏を消したような、平坦な響きが耳に伝わった。
それを聞き、ベガは行き場のない不安を閉じ込めた震えた手でレバーに触れた。
そして宇宙船を稼動させた。
「これでいいのかな……、私はもう願いを背負えないの」
そう言うと、宇宙船に金属が摩擦する音が響いた。そして直ちに、遥か上へ飛び立った。
行き先は、遥か遠くにある内太陽系に位置する地球――
『転移ホールを展開します』
すると、瞳のような翡翠色のホールが宇宙船の前に眩く溢れ出した。
宇宙船がホールに入ることを確認したベガは安堵を得て、暗闇に意識を溶かして眠りについた。
♢
ぱちりと目を覚ますと、宇宙船の窓から、宇宙の暗闇を青い大気光が眩く照らしていた。青い星は、息を呑むような存在感をもって、そこにあった。
「これがチキュウ……、青くて綺麗だなぁ」
ベガは口を動かしながら、航路を確認する。
これでいいはずと思った次の瞬間、右端に惑星の欠片かと思わせるような、巨大な岩石が不意に現れた。
まずい── ベガは焦りを胸にしつつ、懸命にレバーを倒し、方向を変えた。
案の定、ぶつかる面積は小さくなったが、勢いよく船体に当たった。巨大な鐘を叩き割ったような鈍い轟音が響き渡った。
船内がドラム式洗濯機のように激しく揺れ、やがてベガは意識が途切れた。
宇宙船は流れに乗り、隕石のように地球に降り注いだ。
これは星の河を越え、歩みを止めなかった、決意の物語。




