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二通の電報

船がテムズに姿を見せるより先に、金はロンドンに着く。


エリアス・ハートは、その速さが好きだった。

港の見張りが「見えた」と叫ぶより早く、沿岸の報せが電線を走り、紙の上で値段が動き、約束が結ばれ、人の手から人の手へ権利が渡っていく。世界が賢くなっていくようで、気分がよかった。


だが、その日の午後、彼は初めて思った。

速いということは、間違いまで早く届くということなのかもしれない、と。


---


ロンバード街は霧で白かった。十一月の湿った光が窓にへばりつき、銀行の事務室の中まで薄暗くしていた。帳簿台の上ではガス灯が昼間から燃え、黒いインクが鈍く光っている。


「ハート君」


呼ばれて顔を上げると、部屋の奥の扉のところにヘンリー・アッシュダウンが立っていた。背の高い、骨ばった老人だった。老人といっても、立ち姿にはまだ硬さがある。彼は年齢のせいで慎重なのではなく、仕事のせいで慎重になった人間だった。


その手には、一枚の電報用紙がある。


「フェンウィックの件だ。見てくれ」


エリアスは立ち上がり、紙を受け取った。


> ハーバリー商会よりアッシュダウン銀行へ

> アンヌ号遅延。黒海小麦二千袋。明日正午待たず売却可。


短い文だった。

だが、それで十分だった。


フェンウィック商会は、黒海から来るアンヌ号の小麦を担保に、アッシュダウン銀行からつなぎ資金を借りている小さな穀物商だ。

返済が済むまで船荷証券は銀行が預かっている。だから、荷を売るにも待つにも、最終的に決めるのは銀行だった。

ハーバリー商会は、その売買を取りまとめる代理商である。バルチック海運取引所で相場を見ながら、フェンウィックに代わって「売れ」「待て」の指図を銀行へ送ってくる。


船が予定どおり着けば、フェンウィックは返済できる。だが、着きが遅れて相場が崩れれば危ない。

この電報が本物なら、銀行は貸した金を守るため、担保の小麦を先に売ってしまうことができる。


「ハーバリー商会からですか」


「そうだ。三十七分前に着いた」


エリアスはもう一度紙を見た。

ハーバリー商会はバルチック海運取引所に出入りするまともな会社だ。軽々しく嘘を打つ相手ではない。


「売ればフェンウィックは助からないかもしれません」


「売らねば、こちらが被るかもしれん」


アッシュダウンはそれだけ言った。

この人は、たいてい必要なことしか言わない。


そのとき、事務室の向こうで扉が開き、濡れた帽子の少年が駆けこんできた。電報の配達係だった。肩で息をしながら、受付机の書記に紙を渡す。書記は目を走らせ、すぐに顔色を変えた。


「ミスター・アッシュダウン。もう一通です」


老人が無言で手を伸ばす。

二通目を受け取った瞬間、その眉がわずかに寄った。


「ハート君」


今度は紙を渡すのではなく、彼は自分の隣へ来るよう顎で示した。

エリアスがのぞき込む。


> ハーバリー商会よりアッシュダウン銀行へ

> 前信取消。アンヌ号黒海小麦売却するな。ロイズの確報あるまで保持。


エリアスは黙った。


部屋の向こうで、誰かが帳簿を閉じる音がした。

その小さな音だけが妙に大きく聞こえた。


「……同じ送り主です」


「見ればわかる」


「内容が逆です」


「それも見ればわかる」


アッシュダウンは二通を机の上に並べた。

紙の大きさも、打たれた文字の並びも、見た目にはほとんど同じだった。だが命じていることは正反対だ。


売れ。

売るな。


それだけで、一つの商会が終わるかもしれない。

一つの銀行の損失になるかもしれない。

あるいは、もっと大きなものに波及するかもしれない。


エリアスは喉の奥が少し乾くのを感じた。


「時刻は」


「最初が二時十三分。次が二時四十一分」


二十八分。

その間に何があったのか。

同じ代理商が、同じ荷について、二十八分で正反対の指図をよこしたことになる。


「ロイズの到着報は」


「まだ来ていない」


「なら、二通目のほうが慎重です」


「慎重であることと、本物であることは別だ」


エリアスは口を閉じた。

たしかにそうだった。


そのとき、受付机の書記が、ためらいがちに言った。


「もう一つ、妙なことがあります」


アッシュダウンが視線だけで続きを促す。


「ヴェイル氏が……」


書記は声をひそめた。


「つい先ほど、黒海小麦の売買契約をかなりの量、売りに回したそうです。取引所の使いから聞きました」


エリアスが顔を上げる。

エドワード・ヴェイル。自分で倉を持つより、値の動きそのもので稼ぐ仲買人だ。悪い報せが広まる前に売り、値が崩れたあとで買い戻して差額を取る。

もしアンヌ号の遅れや、フェンウィックの荷が売りに出される気配を銀行より先に知っていたなら、正式な電報が届く前に動くのがいちばん儲かる。

情報が動く場所にはたいてい顔を出す男で、鼻の利くことで知られていた。だが、鼻が利きすぎることがある。


「いつだ」


とアッシュダウンが聞いた。


「最初の電報がこちらへ届くより、少し前だそうです」


部屋の空気が変わった。


霧のせいでも、寒さのせいでもない。

見えない誰かが、紙より先に内容を知っていた。

そう考えた瞬間、二通の電報はただの紙ではなくなった。


エリアスは二通を見比べた。

どちらが本物なのか。

いや、それだけではない。

なぜヴェイルが先に動けたのか。

もし電報が途中で読まれているのなら、この町では、船が着く前に相場だけでなく嘘まで届くことになる。


「ハート君」


アッシュダウンの声は低かったが、はっきりしていた。


「これは、うちの帳簿の中だけでは片づかん」


彼は一本ずつ指を折るように言った。


「送り手側の文面を知る者がいる。

回線と配達の経路を調べられる者がいる。

そして、こちらでその結果をどう扱うか決める者がいる」


エリアスはうなずいた。


「ハーバリー商会へ使いを。クララ・モーブレイを呼べ。ハーバリーのコード室でこの文面を起こしたのが彼女なら、どちらが商会の手から出たものか分かる」


書記が飛ぶように出ていく。


「それから中央電信局へ。サミュエル・プライスに来てもらえ。経路と扱いを洗いたい」


もう一人の使いも駆け出した。


最後にアッシュダウンは、机の上の二通を指先でそろえた。

その仕草は静かだったが、妙に冷たく見えた。


「担保の船荷証券はまだこちらにある。」

「その間、フェンウィックの荷は動かさん」


エリアスは思わず言った。


「ですが、もし一通目が本物なら——」


「そのときは私が責任を取る」


老人は顔を上げた。

灰色の目は少しも揺れていなかった。


「君は、どちらを信じるべきかではなく、なぜ信じられないのかを調べろ」


エリアスは二通の電報を手に取った。

紙は軽かった。

だが今、ロンドンでこの紙より重いものは、そう多くない気がした。


部屋の外では、霧の中を馬車の音が過ぎていく。

港へ向かうのか、取引所へ向かうのか、それとも誰かの破滅へ向かうのか、エリアスには分からなかった。


分かっているのは一つだけだった。


この町ではもう、船だけが海を渡ってくるのではない。

命令も、噂も、嘘も、金も、みな電線を走ってくる。


そして今日、彼はその速さと戦うことになる。

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