第2話:啓示
「立ち話もなんだ、まずはかけてくれ」
「はい、失礼します」
室内に置かれていたソファを勇魚が指し示した。
冬は頷き応じて、革張りのそれに腰を下ろす。テーブルを挟んだ対面には勇魚が座った。
「それで、僕を呼んだ理由を教えていただけますか?」
「ああ、詳しい話は直に会ってからとしていたな」
向かい合わせで背筋を伸ばし、冬がきりだす。
すると勇魚の表情は柔らかさを忍ばせ、赤い瞳が怜悧な光を瞬時に帯びた。
それだけで本題が軽いものでないと理解し、冬はそっと息を飲む。
「貴君が宿す啓示は、確か『亡獣創出』というものだったな」
「はい、仰る通りです」
「使い魔とでもいうべき獣を生み出し、自由に使役できるとか」
「しがない一兵卒の啓示を調べられたのですか?」
「帝国軍人の能力を把握しておくのも、将軍の務めだからな。誰がどのような仕事に適しているか考慮し、采配する必要もある」
啓示。それは日本の民に生まれながら具わっている超常の異能。
60年以上前、日本統制帝国建国以前に現れた未知なる上位存在『統制者』より与えられた力である。
念じ求めることで個人固有の奇跡を起こし、一つの現象を世界に実態として反映させるのだ。
発現する奇跡は一人一人異なり、似通ったものはあっても完全に同一という力はない。作用や影響、効果や範囲にも幅広く差異がある。
啓示を持つ者は、人が呼吸の仕方を知っているように、あるいは渡り鳥が飛び方を知っているように、自身にどういった力が宿り、どう解き放つかを誰に教えられることもなく理解していた。
それ故に無秩序な乱用が相次ぎ、かつての日本国は激しく荒れた過去を持つ。だがこれを啓示と人間力で束ね上げ、再統一したのが初代帝国皇帝であった。
以来、帝国法は他外に影響及ぼす啓示の使用を制限し、破った者へ厳罰を科している。禁固刑に処されるならマシな方で、場合によっては裁判なしの即時処刑すら断行された。
帝国教育は不用意な啓示の使用を罪であり、恥ずべきこととして国民意識へ刷り込み、新たな常識として認知させている。使用制限の緩和が認められているのは一部警察と、作戦行動中の帝国軍人のみ。
厳しい締め付けこそが力の抑制を促し、秩序と国体の維持を恙なく堅持させてきた。
「して、貴君の啓示効用は先のもので相違ないか?」
「はい。ただ生み出せる獣の数は少なく、知能も強さも知れたものでして。ささやかな雑用ぐらいにはに役立ちますが、戦力と呼ぶには些か以上に心許ない。僕に忠実ではあるものの、それ以外に特筆すべきところはありません」
「ふむ。しかし炎や氷といった現象を顕現できる啓示持ちは多いが、自律して動く生物系を作る啓示は珍しい」
「はぁ、まぁ、あまり聞かないとは思います。だからというわけではないでしょうが、創出系統の啓示持ちが大きな活躍をしたという話もありません」
「生み出せるものには制限があるようだからな。だがどのような啓示も使い方次第で、いかようにも化けるもの。発想力と状況次第で目を瞠る働きもする」
「そういうものですか」
「貴君の生み出す獣に直接的な戦闘力がなくとも、自由に動けるという一点だけでも有用性は高い。斥候として索敵や囮役が担えるし、物資の輸送要員などを個人で賄えるのだから。見方によっては強力な啓示と呼べる」
「なるほど。つまり僕の持つ啓示が最適と判断された任務がある、ということですね?」
「話が早くて助かるな。そういうことだ」
冬の言葉に首肯で応え、勇魚は懐から一枚の写真を取り出した。
それをテーブルの上に置き、指先で冬の前へと押し出してくる。
「貴君には、とある場所へ赴き、この人物の護衛をしてもらいたい」




