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71話 高地の旅路

 国境の町を出発すると、森は無くなり、山が目の前に迫っています。


 隣国に行くにはこの山を登っていかなければならないのです。


 山を登る道は馬車が通る事を考慮して、緩い勾配でジグザクに進む様に道が作られています。


 このジグザグの道を他の通行人の迷惑にならない様に普通の速度で魔動馬を歩かせないといけないのです。



「ちょっと!ずっとこのペースで山を登っていくの?」


「なんとかなんねえのか?これ」



 ・・・当然、例の二人からは苦情が出ます。



「仕方無いです。他の旅人に迷惑をかける訳にはいきません」


 ボクはさっきから何度も二人をなだめています。


「そうだ!いい事思いついた!このジグザクの道通りに進まねえで、真っ直ぐ突っ切っちまえばいいんじゃねえのか?」


「そうね!その方が合理的だわ!」


 レィナちゃんは言うと同時に、道を無視して魔動馬を一直線に走らせ始めていました。


「あっ!汚ねえぞ!オレが思いついたんだ!」


 ソラ君も同じ様に走らせ始めてしまいました。


「二人ともだめですよ!他の人の迷惑になります」


 ・・・ボクの声はすでに二人には届きません。


「・・・仕方ないですね、わたしたちはゆっくり追いかけましょう。彼らもどこかで待っていてくれるでしょう」


「すみません。自分勝手な二人で」


「いえ、あれだけ自分の意志をはっきりと表に出せるのは良い事です」


 キラさんは穏やかに微笑んでそう言いました。


 ・・・少しだけ、優柔不断な自分が対比されている様な気がして落ち込みました。


「ルルさんはルルさんで、真面目なところはとてもいい事ですよ」


 さりげなくボクのフォローをしてくれたのです。


「ありがとうございます。キラさん」


 なんだか、自分の事をちゃんと見てくれている気がして、とても嬉しくなりました。


 キラさんと一緒にいると、自然と穏やかな気持ちになれます。


 それをとても心地よく感じている自分がいました。




 それからしばらく、山道をのぼって、ようやく上まで登りつきました。



 ソラ君とレィナちゃんがどこにいるか、探すまでもなく見つける事が出来ました。



 ・・・二人とも道端で倒れていたのです。




「ソラ君!レィナちゃん!どうしたんですか?二人とも!」


 二人ともぐったりしています。


「・・・ルル・・・気持ち悪くて動けねえ」


「・・・どうしちゃったのかしら?急に力が入らなくなって・・・」



 二人とも黄色い顔をしてかなり具合が悪そうです。



「これは『高山病』ですね」


 二人の様子を見たキラさんが言いました。


「『高山病』?」


「高い山に急激に登ると、急速に空気が薄くなって、体がそれに順応できなくて体調を崩すのです」


「そんな病気があるのですね?」


「はい、高い山の上は空気が薄いのです。ですから、山に登る時はゆっくりと時間をかけて登って、少しずつ体を慣らさないといけないのです」


「だから他の旅人はみんなゆっくり山を登っていたんですね」


「『治癒魔法』で気持ち悪いのは治せますが、力が入らないのは十分に休んで体力を回復する必要があります」



 ・・・ここで少し休まないといけないみたいです。



「もうすぐ日が暮れますし、今夜はここで野宿するしかありませんね」



 山の上の、こんな何も無い場所で野宿というのは大丈夫なのでしょうか?


「山の上は日が沈むと急激に気温が下がります。二人が体を冷やさない様に毛布を掛けて下さい、その上で『結界』を張っておきます」


「キラさんは『結界』が使えるんですね」


 『結界』は『シールド』よりも上位の防御魔法です。


 全周囲からのあらゆる攻撃を遮断します。


「はい、『結界』には多少の断熱効果もありますから、寝ている間に凍える事もありません」



 ボクとキラさんはぐったりしているソラ君とレィナちゃんを並べて寝かせました。


 装備を付けたままだと苦しそうなので着替えさせてあげる事にしました。

 ・・・さすがにこれは、キラさんに手伝わせるわけにはいかないので、二人ともボクが行ないました。


 ソラ君はいつものタンクトップにショートパンツ姿、レィナちゃんはちょっとエッチな下着姿になってしまいました。

 レィナちゃんは寝る時は全裸なので寝巻的な服を持っていないのです。


 そして魔動馬の鞄から取り出した毛布で二人をくるみました。


 それからキラさんが『結界』を作りました。

 二人が寝ているので無手順で魔法を発動します。


 これで二人はもう大丈夫です。




「キラさんはどの魔法も魔法陣無しで発動できるのですか?」


「すべてではありませんが、主だった魔法はほとんどそうですね」


「やはり人前では魔法陣と詠唱を行なうのですよね?」


「はい、そうでないと気味悪がられますから」


 今の時代、魔法陣と詠唱を使わずに魔法を発動できるのは『勇者』だけというのが常識です。


 実際にはお母さんは『勇者』ではなく『魔女』ですが・・・




「キラさんは・・・どうして男性なのに魔女と同じ様に魔法が使えるのですか?」


 ボクはずっと疑問に思っていた事を尋ねました。


「魔女の弟子だから・・・というのは説明になっていないですよね?」


「言えない事であれば無理には聞きません」


「ルルさんになら話してもかまいませんよ・・・そうですね、何から話しましょうか?」


 キラさんは少し考えこんでいました。




「私の師匠は・・・人間を魔女に変える秘術を持っていたのです」


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