41話 三人の旅立ち
お母さんから、装備と魔動馬をもらって、旅の準備は整いました。
学院には休学届を出してあります。
三人とも卒業資格はあるので卒業も出来るのですが、ボクとレィナちゃんはこの一件が解決したら、もう少し学院生活を続けたいと思っているのです。
ソラ君もボクに付き合ってくれているだけなのかと思ったらそれなりに学院での生活は気に入ってたそうで、三人とも卒業はせずに休学にしました。
つまりソラ君も、この一件が片付いたら、またこの国に戻って来てくれるという事です。
『魔女の覚醒』と『念技の習得』についても、この二ヶ月で出来る事はやってみました。
魔女の覚醒に関しては、とにかく魔法への興味を膨らませる事と、習得に向けての努力だけは続けようという事で、お母さんに色々変な魔法を見せて貰ったり、魔法陣を片っ端から覚えたりしました。
一応、ボクの『魔女になりたい』という気持ちは更に高まってきていますので、この調子で続けていけばいつか覚醒するという、お母さんのアドバイスを信じて続けるしかありません。
『念技』の方はソラ君から念技を使った技をたくさん見せてもらいました。
ソラ君の剣を使わせてもらったり、色々試してみたのですが、あれ以来一度も使えませんでした。
ソラ君は一応、『念』を使い始めるためのレッスンとして、ソラ君の国では一般的な精神集中の修行や、肉体のトレーニングなど、色々教えてくれたのですが、どれも今一つピンときません。
ソラ君がどういうきっかけで『念』使える様になったのか尋ねたところ、どうやらソラ君は物心ついた時から自然に使えていたそうで、全然参考になりませんでした。
結局どうすればいいのかわからないまま、それらしい修行だけは続けてみましたが、今のところ特に何も変化は無い様に思えます。
・・・つまり、どちらについてもまだ進展が無いという事です。
お母さんには「旅の中でいろんな経験を重ねていけばきっかけが掴めるよ」と言われましたが、ちょっと心配です。
そしてついに出発の日を迎えました。
「三人とも気を付けてね!」
「はい、がんばります」
「ジオはやっぱり一緒に行けないの?」
レィナちゃんはお父さんに尋ねました。
「ああ、王都を長期間離れる訳にはいかないからな」
お父さんには本業の勇者の仕事があります。
「三人とも見違えるほど強くなったから大丈夫だよ!」
「ああ、山賊や盗賊程度なら全然問題にならねえな!」
「剣術大会に出たら、確実に優勝できたのに残念だわ」
次の剣術大会はもう少し先なので、さすがにそこまで出発を後らせるわけにはいきません。
「帰ってきたら誰が優勝するか勝負だからね!」
「あはは、三人との中級部門でも優勝を狙えるくらいの強さになってるよ!」
「そろそろ出発しねえと、今日中に目的の町までいけねえぞ」
そうでした。一応魔動馬の速度を想定して、ソラ君が旅の予定を考えてくれたのです。
「そうね、出発しましょう」
ボクたちはそれぞれの魔動馬に跨りました。
「ソラ君、レィナちゃん、ルルの事お願いね!」
「ああ、必ず守るから安心してろ」
「まかせといて!」
「じゃあ、行くぞ!」
道案内のソラ君が先頭をきって魔動馬を走らせ、レィナちゃんが続きます。
「お父さん、お母さん、それでは行ってきます」
「がんばってね!ルル!」
「無理はするなよ」
ボクも、二人に続いて魔動馬を走らせました。
ついに長い旅の始まりです。
王都の中は魔動馬を全力疾走させるわけにはいきませんので、はや足程度で進んで行きます。
二人にはすぐに追いつきました。
王都の一番外側の城門をくぐると、その先は真っ直ぐな街道です。
「少しペースを上げるぞ」
ソラ君は魔動馬を普通の馬が走るくらいの速さに加速しました。
魔動馬はその気になれば普通の馬の何倍もの速度が出るそうです。
でも、人目がある時は、普通の馬として見せる様にと、お母さんに言われています。
王都の周辺の街道は、まだ人通りが多いので、最大速度は出せないのです。
それでも普通の馬の全力疾走の速さは、結構気持ちがいいです。
景色がぐんぐん後ろに流れていきます。
乗り心地もそれほど悪くありません。
普通の馬だったら、この激しい蹄の音に合わせて、激しく振動がありそうですが、魔動馬の蹄の音はフェイクで、実際には地面には接触していないのだそうです。
だから、見た目ほどの振動は伝わってこないのです。
「荒地の方も走ってみようぜ!」
ソラ君が街道から外れて、道の無い荒地の方に行ってしまいました。
「待ちなさいよ!どこ行くのよ」
「こいつの能力を知っておきてえんだ」
ソラ君の魔動馬は街道の様に整地されていないデコボコの地面を上手に飛び跳ねながら速度を落とさずにボク達と並走しています。
魔動馬が自分で足場を選んで不整地をものともせずに走り抜けているのです。
「面白そうね!あたしも行くわ!」
レィナちゃんも街道から外れてしまいました。
レィナちゃんの魔動馬も、上手に足場を選んで不整地を走りぬけて行きます。
「あはは!なにこれ!楽しいっ!」
荒れた地面を右へ左へと飛び跳ねながら、ジャンプを繰り返す魔動馬が、レィナちゃんのツボにはまったみたいです。
「面白いわよ!ルルもこっちに来なさいよ!」
ボクはできれば静かに走りたいのですが・・・
「この荒野を抜けると次の町への近道になるはずだ。こっちにから行くぞ!」
ソラ君は、このまま荒野を突っ切るつもりです。
・・・ボクも覚悟を決めて街道から外れ、荒れ地に出る事になりそうです。
 




