36話 念技の訓練
ソラ君がボクに差し出したのは・・・ボクがソラ君のお兄さんの首を切り落とした・・・あの剣でした。
「・・・それに触れる事は・・・できません」
あの剣を手にした時の、いやな記憶が次々とよみがえってきます。
「『念技』を習得するんだろ?やってみねえと何も始まらねえぞ?」
「でも・・・・・もしソラ君の首を切り落としてしまったら・・・」
あの時の・・・・・人間の首を切り落とす時の感触が今でも手に残っています。
「そんときゃ『剣聖』が治してくれんだろ?」
・・・まあ、確かに、お母さんがいるので助けることは出来ると思いますが・・・そういう問題でもありません。
「こういうのは時間がたつほど苦手意識が凝り固まって、克服するのが厄介になるんだ。やるなら早い方がいい」
ソラ君のいう事も、もっともです。
きっと、時間が経つほど、ボクはその剣に触れなくなってしまうと思います。
「・・・・・わかりました。使ってみます」
ボクは・・・恐る恐る、ソラ君の剣の柄に触れました。
・・・指先が触れましたが、何も感じませんでした。
柄をゆっくりと握っていきます。
・・・やはり何も感じません。
「ソラ君・・・何も起こらないです」
剣を受け取りましたが、なぜかとても重く感じます。
「やっぱりな・・・あの時は極限状態で、オレとルルの意志が強く重なったからああなったんだろうな」
ボクは拍子抜けして、少しほっとしました。
でも、『念技』の習得が困難だという事を改めて実感しました。
「じゃあ、練習用の剣でやろうぜ!」
ボクはソラ君の剣を返して、代わりに練習用のレイピアを手にしました。
「行くぜ!」
ソラ君は剣を腰の鞘に納めたまま急接近してきます。
鞘は左の腰に挿しています。
右腕の無いソラ君が左の腰に剣を挿してどうするのかと思ったら、左手で逆手で剣を抜いてきました。
そして、すれ違いざまに逆手で持った剣で切り付けてきたのです。
ボクは寸前でこれをレイピアで躱しつつ、距離を取って振り返ります。
ソラ君は既に剣を鞘に戻していました。
「今のは?」
「オレの剣技には、元々左手で使う技もある。それを使った」
言い終わると同時に再び距離を詰めてきます。
今度も逆手でなでる様に切る付けてくると思いきや、そこから剣の柄を右肩にあてて、突きを繰り出してきました。
この突きはさすがに躱しきれず、かろうじてレイピアの柄で剣先を受け止めましたが、ボクは体ごと後ろに跳ばされました。
すごい威力です。
それからもソラ君はトリッキーな技を次々と繰り出しました。
右手を使わない技のレパートリーがこんなにたくさんある事に驚きました。
そして、どれもこれも、普通の剣技とは異なる変則的な技ばかりでした。
でも、ボクも圧されっぱなしでは意味がありません。
ソラ君はこれらの技を更に鍛え上げたいのです。
そのためには、ボクも最大限応戦しないといけません。
何より、僕自身ももっと強くならないと、いざという時ソラ君を守れないのです。
ボクとソラ君は、夕食の支度が出来るまで、ひたすら打ち合いを続けました。
今日の夕食はレィナちゃんも一緒です。
お母さんのおいしい夕食を食べながら、ボクはソラ君にたずねました。
「ソラ君はお母さんやレィナちゃんと打ち合いをしていた時は、剣を順手でもっていましたよね?どうしてボクの時だけ逆手だったんですか?」
「ああ、あれな。剣聖やレィナとやってた時は、左手で右手の技を使う練習をしてたんだ」
「ボクの時は右手の技の練習をしなくて良かったんですか?」
「ルルにはオレを技を一通り見せておこうと思ってな。左手の技は見せた事が無かったから、使ってみたんだ。それにまだ、左手なら右手の技よりも左手の技の方が『念』が込めやすい」
「さっきの打ち合いは『念』を込めてたんですね」
それで、利き手じゃないのにあの鋭さだったのですね。
「ああ、常に日頃から『念』になれていった方がいいからな。おまえと打ち合う時は出来るだけ『念』を込めた打ち込みにする」
ソラ君、ボクの修行の事を考えていてくれてたんですね。
「ところで、さっきの打ち込みで『念』は感じ取れたか?」
「いえ、普段より鋭い打ち込みかなってくらいしかわかりませんでした」
「最初はそれでいい。違うところが明確に分かる様になってきたらそのうち『念』を感じ取れるようになる。これからは『念』込めた打ち込みと込めない打ち込みを使い分ける。その違いを意識するようにしろ」
「わかりました。よろしくお願いします」
ソラ君がボクの師匠ですね。
「それにしても、左手の技があんなにあるなんて驚きました」
「戦いの最中に利き腕を失う事も想定した剣術だからな」
あっ、そうか!ソラ君の国では片腕が無い剣士もいるって言ってました。
「両腕が無くなった時の技ってのもあるんだぜ!」
「それって・・・どうするんですか?」
「足で剣を持ったり、口で剣をくわえたりする」
「・・・何でもありなんですね・・・」
もう曲芸のレベルです。
「ああ、死なない限り戦う方法はあるからな」
「あんたの国って本当に戦う事しか考えていないのね!」
「戦えなくなった時は死ぬ時だ」
「やっぱり狂ってるわね」
ソラ君は少し真剣な顔になりました。
「そういう意味じゃ、あいつも・・・仕掛けてくる可能性がある」
「あいつって、お兄さんの事ですか?」
「ああ、首が切り離された状態でも生きているからな。あいつが直接攻撃を仕掛けて来てもおかしくない」
「こわっ!首の無い剣士が襲い掛かって来るって事よね?」
それは、かなり怖いです。
・・・・・首を切り落としたのはボクですが・・・
「まあ、実際にどこまで動けるのかわからねえけどな。だが、手下の二人は間違いなく仕掛けてくるだろうな」
「ソラ君はあの二人の事も知ってるんですか?」
「確信はねえが、多分知ってるやつだ」
「・・・どういった方々なのでしょうか?」
「二人とも・・・あいつの婚約者だ」




