34話 念技の習得
翌日、ボクとお母さん、それにお父さんの三人は、ソラ君の部屋に来ました。
ソラ君は傷が落ち着くまで、ボクの家にいてもらう事になったのです。
「おはよう、ソラ君、傷の具合はどう?」
「ああ、血はとっくに止まってるし、痛みもひいてきた。だが傷が治る気配はねえな」
ソラ君は、右腕の他に、全身に無数の傷がありますが、全ての傷が『凍結』の術で固まっているみたいです。
・・・顔にも傷があって痛々しいです。
「それで?どうするか決まったのか?」
ソラ君がお母さんに尋ねました。
「ルルの魔法の取得はこちらで考えますが、ソラ君にはルルに『念技』の指導をお願いしたいのです」
「『念技』の指導か?」
「ええ、術の解析に、『念技』の習得と術式の構造の理解が必要になるので」
「『念技』を使った剣術の指導ならオレにも出来るが、術式の仕組みについてはオレも詳しくはわからねえ。オレはわりと感覚で使ってるからな」
やっぱり術式の指導は出来ないみたいです。
「術式の仕組みを知りたいなら心当たりはあるが・・・オレの国に行く必要がある」
「ソラ君の・・・国? ボクがソラ君の国に行く事になるのでしょうか?」
「ああ、詳しい奴がいるんだが、そいつをここに連れてくるのはまず無理だろうから、こっちが行くしかねえだろう」
「どのような方なんでしょうか?」
「念技の研究に人生の全てをかけてるようなやつだ。俺の剣もそいつが作った」
「ソラ君の国って、ここからどれくらいかかるんですか?」
「普通に歩いていったら半年はかかるな」
「ソラ君はどれくらいで来たのですか?」
「オレは殆ど走って来たが、それでも二ヶ月くらいだ」
「移動時間はもう少し短縮できると思うよ。でも出発前に準備もあるからね」
お母さん的には、既にボクがソラ君の国に行く事が決定みたいです。
「お父さんとお母さんも一緒に来てくれるのでしょうか?」
「・・・私たちは仕事があるから長期間旅に出る事が出来ないんだよ。だから、ルルとソラ君の二人で行く事になるよ」
「そんな・・・」
ボクとソラ君の二人だけで、大丈夫なのでしょうか?
「必要な事は出発前に教えておくからね」
「オレも左手で戦えるように、少し訓練が必要だな」
ソラ君、片手だけでも戦うつもりです。
「ソラ君、そんな無理しなくても・・・」
「ああっ?オレの国には指の無いやつや片手の無いやつなんかゴロゴロいたぜ。それでもみんな剣を振るってた」
なんか・・・豪快な国みたいです。
「・・・それに、ルルを守るのはオレの役目だからな」
ソラ君・・・そんなになってもボクを守るつもりだったなんて・・・
「だから、お前はオレの分まで頑張ろうとか、考えなくていいからな!」
ボクの考えはソラ君に見抜かれていました。
でも、ボクだってソラ君を守るために頑張る事をやめるつもりはありません!
「ところで、一つ聞いていいか?」
ソラ君が真面目な顔になってボクに質問しました。
「何でしょうか?」
「なんでお前はジオの事を『お父さん』って呼んでんだ?」
「えっ!」
あれっ?そういえば・・・ずっとお父さんて呼んでた気がします。
「お前の親父って、ずいぶん前に死んだっていう先代の『勇者』だよな?」
・・・いろんな事がありすぎて、ソラ君に秘密だって事を忘れていました。
「それは・・・ええと・・・」
お父さんはお母さんと顔を見合わせました。
「かまわないだろう?ララ」
「ええ、ソラ君なら話しても大丈夫でしょう」
お父さんはソラ君の方を見て言いました。
「そうだ、俺はルルの父親だ」
「やっぱりな、つまり『本物の勇者』って事だよな?」
「気付いていたか?」
「ああ、お前の方が『剣聖』より強いんじゃないかって感じる事があった。『勇者』より強いやつがこの世界にいるわけないからな」
ソラ君、お父さんの正体に気が付いていたんですね。
「だが、なんで死んだ事になってんだ?子供の体になってる事と関係あるのか?」
「『終焉の魔物』との戦いで死にかけた。だがララのおかげで生きながらえる事が出来た。この体はその代償だ」
「ふうん、まあいいや。でもそうなると『剣聖』の方が腑に落ちねえな。『勇者』でもないのに、『勇者』のふりが出来るほどの力を持ってるって、どういう事だ?」
「剣の練習をいっぱいしたからだけど?」
お母さんはにっこりと返答しました。
「剣の腕前は認めるよ。『剣聖』の実力は伊達じゃねえ!それはオレも身に染みて理解した。だが、魔法はそうじゃねえよな?努力でどうにかなるレベルじゃねえだろ?」
やっぱりそこは気になりますよね?
「『上級の魔物』を一瞬で消滅させたって聞いた事がある。首を切り落とされた人間を治したり、死にかけた勇者を生き返らせたり、そんな事が出来るなんて魔法は聞いた事がねえ」
「それは・・・・」
お母さん・・・魔女の事も打ち明けるのでしょうか?
「・・・秘密です!」
・・・ストレートに秘密って言っちゃいました。
「・・・秘密なら仕方ねえか」
・・・ソラ君も、あっさり引き下がるのですね。
「まあ、オレは剣の事以外は興味がねえんだ。いつか剣でお前を超えられればそれでいい」
こういう割り切りのいい所がソラ君の良い所です。
「うん、いつでも受けて立つよ!」
お母さんも割と同じタイプです。
この二人、案外気が合ってるのかもしれません。




