表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/87

27話 念技の剣

 ボクの目の前に落ちてきたのは、剣を握ったままの、ソラ君の右腕でした。



 ・・・ボクは、背筋が凍りつきました。


 

 剣の切っ先が地面に突き刺さり、それから脱力した指が柄から離れて、腕が地面にどさっと落ちました。



 一瞬、状況が理解できませんでした。




 なぜ・・・ソラ君の腕が・・・ボクの目の前に落ちて来たのでしょうか?


 ソラ君は・・・・・ソラ君は、いったい・・・どうなったのでしょう?




 恐怖を振り絞って、ソラ君の方を見ました・・・


 そして・・・・・状況が、理解できました。




 ソラ君は、右腕をおさえて、ゆっくりと倒れて行くところでした。




 黒い服の人は・・・剣を構え直してソラ君に再び切りかかろうとしています。

 剣の構え方からして、おそらくソラ君の首を切り落とすつもりです。




 それを見たボクは・・・自分が何を為すべきか、迷う事無く行動を起こしていました。




 次の瞬間、ボクは目の前の地面に突き刺さったソラ君の剣を引き抜いていました。




 ソラ君の剣を握ったその時・・・・・何かが剣からボクに流れ込むのを感じました。


 ・・・いえ・・・ボクから剣に流れ込んだのかもしれません。




 それは・・・一瞬の事でした。






 次の瞬間、ボクは黒い服の人のすぐそばに立っていました。




 次の瞬間、ボクは黒い服の人の両腕を切り落としていました。




 次の瞬間、ボクは黒い服の人の首を胴体から切り落としていました。




 次の瞬間、ボクは倒れかかっているソラ君を受け止めました。




 その時、ソラ君を受け止めるために、剣を手から離しました。






 ・・・・・ボクの腕に中には、切断された右腕から血を流しているソラ君が収まっています。


「ソラ君!しっかりして下さい!」


 ソラ君はぐったりしています。

 このままでは血が無くなって死んでしまいます。


 ボクはスカートの裾を細長く引き裂いて、それを使ってソラ君の右腕を縛りました。

 でも、血は完全には止まりません。


 更にスカートを引き裂いて、もう一巻き力一杯締め付けたら、ようやく血の流出が止まりました。


 でも、既にかなりの量の血が流れ出てしまっています。


「ソラ君!しっかりして下さい!目を覚まして!お願いします!」


 ボクは必死にソラ君に叫び続けました。


 すると、ソラ君の瞼が・・・ゆっくりと開きました。


「・・・ルル・・・無事・・・か?・・・」


「ソラ君!ボクは大丈夫です!」


「・・・そう・・か・・・・・良かった・・・・」


 ソラ君はうつろな目で微笑みました。


「ソラ君の方こそ!気をしっかり持って下さい!」


「・・・すまねえ・・・な・・・まきこんじまっ・・・・て・・・・」



 これからどうしたらいいのでしょう?




 今度は次にどうしたらいいのか、分からなくなってしまいました。


 ソラ君は、助かるのでしょうか?


 右腕を失って・・・剣士を目指していたソラ君は、どうなってしまうのでしょうか?


 なぜ、ソラ君が殺されなければいけなっかたのでしょうか?




 ・・・・・あれ?・・・ボクはどうやってソラ君を助けたのでしょうか?




 ・・・・・傍らには首と腕の無くなった黒い服の人の胴体が倒れていました。


 ・・・・・そして・・・その先には、切り落とされた頭が転がっています・・・・



 ・・・記憶がよみがえってきました・・・・



 いえ、忘れていたわけでは無いのです。


 なぜか・・・意識してなかっただけでした。


 日常の、あたりまえの行動の、一部のように認識していました。


 でも、これは・・・・・あたりまえの日常ではありません。






 ・・・・・ボクは・・・・・人を・・・・・殺してしまったのです。






 ・・・ボクは・・・・・どうして・・・・?



 ・・・ソラ君を助けようと思って・・・



 いえ・・・あの時・・・・・何を・・・思っていたのでしょう?



 腕を・・・切り落とした時点で・・・ソラ君を助けられたのでは?



 なぜ?・・・首まで・・・切り落としたのでしょう?・・・





 ボクは、自分が人を殺してしまったという現実を どう受け止めていいか分からなくなっていました。




「ルル!・・・にげ・・・ろ!」


 ソラ君が、必死に声を出しました。




 さっきの二人がこちらに迫って来ています。


 立ち向かわなければ二人とも殺されてしまいます!



 ボクは、再びソラ君の剣を手にしようとしました。



 ・・・・・でも、剣に触れる直前で動けなくなってしまいました・・・



 これを手にしたら・・・・・また、人を殺してしまうのでは?



 ・・・ボクは・・・恐れている?・・・・・


 ・・・何を?・・・・・人を殺すという事を・・・・・




 ・・・迷ってる時間は無いのです!


 迷っていたら、ソラ君もボクも殺されてしまうのです!



 ボクは、恐れを振り払って、剣に手を伸ばそうとしました。



 ・・・でも・・・体が動きません。



 このままでは、ソラ君が殺されてしまいます。



「ごめん・・・ソラ君・・・」


 ボクの目から、涙がこぼれ落ちました。




「・・・ルル・・・・・・ありがとな・・・・」



 ソラ君は意識を失う寸前ですが、優しく微笑みました。


 今までのソラ君でいちばんやさしい笑顔です。


「ソラ君!」


 ボクはソラ君にしがみつきました。




 ・・・ごめんなさい・・・ソラ君・・・ボクが意気地なしだったから・・・


 ソラ君を助けられなかった・・・




 二人の黒い服の人が、ボクとソラ君に同時に切りかかろうとしています。


 ボクは、泣きながら、もう一度、剣に手を伸ばそうとしました。




 あとほんの少しで手が届く・・・でもその手前でボクの手は止まってしまいました。


 ・・・やっぱり・・・剣に触れる事が・・・出来ません。




 ・・・・・ごめんなさい・・・・ソラ君・・・・・




 ・・・・・ごめんなさい・・・・・お父さん・・・・・お母さん・・・・・




 ・・・・・そうです!・・・お父さんも、お母さんも、決してこんなところであきらめたりなんかしません!



 ボクは、最後の力を振り絞って、あと、ほんの少し、手を伸ばしました。


 ・・・必死に伸ばした指が・・・・・剣の柄に触れました。


 再び何かが流れ込んできます。



 ・・・・・そして・・・ボクは・・・そこで意識が途切れたのです。


第一章完結です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ