28話 悪夢のあと
第二章開始します。物語が本格的に動き出します。
目が覚めたら、そこは自分の部屋のベッドでした。
・・・ひどい悪夢を見ていた気がします・・・
・・・ソラ君とボクが黒い服の人たちに襲われて・・・
・・・ソラ君が右腕を切り落とされて・・・
・・・・・・ボクが・・・・・・人を殺したのです・・・・・・
・・・いいえ!・・・夢じゃありません!
「気が付いた?ルル」
ベッドのそばには、お母さんがいました。
いつもの様に笑顔ですが、その笑顔にほんの少しだけ陰りがあります。
「ソラ君は!ソラ君はどうなりました?」
お母さんがボクを抱きしめました!
「ソラ君は生きてるよ。がんばったね!ルル」
良かった!・・・ソラ君が・・・生きてる。
「あれから、どうなったの?」
「私とジオが駆け付けた時には、あなた達が切られる寸前だったの」
あの時お母さんとお父さんが来てくれたんだ。
「あなたが気を失う寸前に剣をひと振りして、二人の黒装束をはらい除けたのよ」
・・・ボクは、最後に剣を振ったんだ・・・
「そこに私とジオが駆け付けたら二人の黒装束は霧の様に消えてしまったの」
・・・霧の様に消えた?
「逃げたのではなくて?消えたのですか?」
「うん、どういう理屈か分からないけど、転移魔法みたいなものかもしれないね」
・・・ボクが、殺した人は・・・どうなったのでしょう?
「もう一人・・・死体が・・・残ってなかったですか?」
お母さんの顔が少し陰りました。
「首と腕の無い人が倒れているのは見たよ」
・・・やっぱり・・・ボクが・・・人を殺したのは現実なのです。
「その死体は・・・どうなりました」
「他の二人と同時に消えたよ・・・・・頭と腕も一緒に」
・・・死体も・・・わざわざ転移したのでしょうか?
・・・でも、そんな事はどうでもいい事です。
「お母さん・・・ボクは・・・・・人を・・・殺してしまいました・・・」
ボクの目から涙がぼろぼろと流れ落ちました。
お母さんはボクをぎゅぅっと強く抱きしめました。
「違うよ!ルルは人を殺したんじゃない!ソラ君の命を救ったんだよ!」
「でも・・・」
「ルルが判断を間違えなかったから、今、ソラ君が生きてるんだよ!」
そうだ、ソラ君は?
「お母さん!ソラ君は?ソラ君はどうなってるの?」
「隣の部屋で眠ってるよ。命に別状は無いから安心して」
「隣の部屋・・・・・行ってもいい?」
「・・・多分、まだ眠ってるけど・・・会ってみる?」
「はい、行きます」
ボクはベッドから出て、お母さんと隣の部屋へ行きました。
隣の部屋では、ベッドの脇にお父さんとメイドさんがいました。
「目を覚ましたのか?ルル」
「お父さん、ご心配をおかけしました」
「ああ、無事でよかった」
「ソラ君は?ソラ君の容体はどうなんですか?」
「今、目を覚ましかけている」
ソラ君はうっすらと目を開きかけていました。
「ソラ君!大丈夫?・・・ソラ君!」
「ルル、まだ傷が治ってないから、もう少し優しく声をかけてあげて」
・・・えっ?・・・傷が、治ってない?
「お母さん、ソラ君の怪我、治してあげてないの?どうして?」
お母さんだったら、骨折や内臓破裂だって一瞬で治せるはずです。
どうしてソラ君の怪我を治していないのでしょう?
「腕は?ソラ君の右腕はどうなったの?」
お母さんなら切断された腕だって治せます。
「ソラ君の右腕はそこにあるよ」
お母さんが指さしたテーブルのトレイの上に、包帯に巻かれた細長いものが置かれていました。
隣にはソラ君の剣もありました。
「お母さん!ソラ君の腕を元に戻してあげて!お母さんならできるでしょう?」
「それは・・・」
「ううっ、いてて・・・ルル?・・・ルルなのか?」
ソラ君が目を覚ましました!
「ソラ君!大丈夫ですか?」
「ああ、全身が痛むが大丈夫だ・・・・・右手の・・・感覚がねえな・・・」
ソラ君は左手をついて上体を起こしました。
包帯が巻かれた右腕は・・・・・肘から先がありませんでした。
「ははっ、そうだったな・・・あいつに持って行かれちまったんだった」
ソラ君は苦笑いをしています。
「大丈夫だよ、ソラ君!お母さんがすぐに治してくれるよ!」
「・・・ルル、ダメなんだよ」
お母さんが少し悲しそうな顔をしました。
「えっ、お母さん!どうしてダメなの?」
「治そうとしたんだけど・・・できなかったの」
「・・・どうして?」
お母さんは『魔女』です。
普通の魔法士よりもはるかに高度な魔法が使えます。
魔法士では簡単に治せない大怪我や、不治の病だって治した事があります。
やろうと思えば部位欠損だって治せると思います。
聞いた事はありませんが・・・死者の蘇生だって出来るのかもしれません。
「お父さんは?お父さんでもダメなの?」
お父さんは『勇者』です。
お父さんも強力な治癒魔法を使えるはずです。
前にレィナちゃんの全身火傷をきれいに治した事がありました。
「・・・俺にも出来なかった」
「どういう事ですか?お母さん」
「魔法が、阻害されてるの」
「魔法が・・・・・阻害?」
「何か『結界』や『封印』に近いものだと思うんだけど、魔法による治癒が妨害されているの」
「結界魔法だったら、お母さんなら解除できるんじゃないですか?」
お母さんは魔法の解析や無効化も出来るはずです。
「『魔法』ではないみたいなの」
魔法ではない?・・・どういう事でしょうか?
「魔法じゃないって?」
「『念技』だ」
ソラ君が答えました。
「オレの国に伝わる技だ。オレも剣術に使ってる」
ソラ君が前に言ってました。
「それって、『魔法』の呼び方が違うだけだと思ってました」
「オレは『魔法』の事は知らねえが、多分、何かが違うんだろうな」
「私も気になって色々調べてみたの。術式の構造まではある程度視認が出来たから、その法則も少しだけ解析が出来たところなの」
さすが、お母さん。
もう調べ始めていたんですね。
「私達の魔法とは全く異なる構造式を持っていて、全く意味不明だったんだけど、現在起きている状況とその効果から逆算して、術式の回路パターンを抽出して並べてみたところ、ある程度の規則制が見えてきてね、回路パターンの効果をいくつか仮定して術式を再構成して検証を繰り返してみたところ、だいぶ正解に近い回路効果が絞り込めて来たんだけど・・・」
お母さんは一体何を言ってるのでしょう?
そして、ものすごい量の計算をしていたみたいなんですが、どれだけの時間をかければそんな事が出来るのでしょうか?
「一つ確実に分かった事は、ソラ君の言う『念技』というのは『魔力』ではなく別の力で発動しているという事ね」
「『魔力』ではない別の何か?それって何ですか?」
「それは『念』だ。オレも詳しくは理解してねえが、人の強い思念や意志、そういった頭で強く思った事を力に変える技だって認識してる」
「確かに『魔力』とはその力の根源が異なるのかもしれないですね。『魔力』はその人の『運命』や『因果』といったものが力となり、それを自分の意志で操るのだけど、その『念技』というのは、『意志』そのものが『魔力』の代わりに力の源になっているのかもしれませんね」
もう、難しくて全然わかりません。
「『念』の正体はとりあえず置いといて、今ソラ君に起こっている事を整理しますね」
「まず、敵は『念技』という技を使ってソラ君に傷を負わせ、右手を切断しました。多分、それだけなら普通の傷なので治癒魔法でも治せるはずです」
「その後、ソラ君に傷を負わせた相手の腕と首を別の『念技』で切断しました」
「あっ!それは・・・ボクがソラ君の剣で・・・ソラ君を殺そうとしていた人を・・・殺したんです」
「使ったのか?オレの剣を?」
「ごめんなさい!勝手に使って!あの時他に武器が無くって・・・」
「いや、使えるはずが・・・ないんだ。あの剣はオレの『念』でしか作用しない様になってる。他の奴が持っても、何も切れない棒っ切れにしかならないはずだ!」
「でも、ボクはソラ君の剣で、あの人の両手と・・・首を・・・切り落としたのです」
「そんな事が・・・あるのか?・・・・いや・・・あったんだよな」
「ソラ君の剣を手にしたあの時、ボクは、ソラ君の剣から、何かが自分の中に流れ込んでくるのを感じたんです。それと同時にボクから剣に何かが流れていくのも感じました」
「それは、おそらくオレの『念』だ。あの剣にはオレの『念』が込めてあった。だが、他人の念が流れ込んだりする事があるのか?」
「『念』というのが人の『想い』だとしたら、二人の気持ちが一つになったからじゃないかな?」
「お母さん?どういう事ですか?」
「『念』の事は良くわからないけど人の想いに由来した力なら、二人が全く同じ事を強く想った時にぴったり重なりあう事があるのかなって」
「ボクは。あの時どうしてもソラ君を助けたいって思っていました」
「オレは、絶対にルルだけは守ってやる、そのためにあいつを殺すって考えてた」
「その、二人の想いが、ソラ君の剣を通じて繋がったんだね」
「だとしたら、あいつを殺したのはルルじゃねえ。オレだ!」
「でも・・・ボクが直接手をかけた事に変わりはありません・・・それに、今の話だとボクにもあの人を殺したいという思いがあった事になります・・・」
そうです。実際に、あったのです。
あの時・・・ソラ君を殺そうとしているあの人に・・・ボクは憎しみを感じていたのです。
そして・・・人の首を切り落とした時の・・・あの感触が、今でも手に残っています。
「その事なんだけど・・・・」
「たぶん・・・死んでないよ」




