24話 二人の時間
「まずはどこに行きたいんだ?今日はルルの好きな事をする日だからな」
まともなデートはこれが初めてなので、ボクも良くわからないのですが・・・
「とりあえず、お店を見て回りましょう」
いつもレィナちゃんたちと回っているコースが無難な気がしました。
お店が並んでいる通りの、入り慣れている洋服店に入ります。
「へえ、こういう店に入ったのは初めてだな。服なんて機能性しか考えないからな」
確かに、ソラ君はいつも機能的な装備の服装で、そのまま、戦闘に入っても問題ない・・・というか、戦闘服が普段着ですよね。
「ルルはどんな服が好きなんだ?」
「ボクは大体、ロングスカートです」
学院の制服はひざ丈のスカートなのですが、ボクは少し長めにしています。
レィナちゃんや他の女の子たちは、短めにしている子が多いです。
「ソラ君はどんな服がボクに似合うと思いますか?」
店に並んでいる服を見てソラ君に聞いてみました。
「そうだな・・・今着てるのが一番似合ってるんじゃねえのか?」
確かに・・・お母さんやメイドさんたちが悩んだ末のコーディネートです。
これ以上のコーディネートはそうそう無いかもしれません。
「でもたまにはこうゆうの着てもいいんじゃねえの?」
ソラ君が指さしたのは、結構露出度の高いミニのワンピースでした。
レィナちゃんが着たらすごく似合いそうです。
「むっ、無理です!」
「そうか?結構似合いそうだが?」
「こういう服は胸が無いと残念な感じになるんです。足もひょろひょろで、見せても仕方ないですし・・・」
「ルルはきれいだから何着ても似合うんじゃねえのか?」
ソラ君、わりと素で言ってるみたいです。
「ソラ君は・・・ボクがこういう服を着たところ見たいんですか?」
ソラ君もついに、ボクを異性として意識するようになったのでしょうか?
「いや、普段着は何でもいいんだが、打ち合いをする時は、動きやすい服がいいよな」
・・・ソラ君はやっぱり剣の事に考えが行ってしまう様でした。
それから、大体いつも女子同士で回るルートをソラ君に付き合ってもらって、やっぱりいつものレストランで昼食をとりました。
「たまには、こういうのんびした日も良いもんだな」
ソラ君は時間さえあれば常に剣ばっかり振ってましたからね。
「ソラ君はどうして強くなりたいんですか?」
「ああ、前にも言っただろ、オレの国では全員が剣士だ。剣で強くなる事以外、考えた事が無かったな」
「でも、今はこういう時間も悪くないって思ってますか?」
「ああ、こうしてルルと一緒にいる時間は、剣を交えている時と同じくらい充実しているな」
ソラ君は自分の右手の手のひらを見つめて言いました。
「以前のオレは、一秒でも無駄にしないで自分を鍛えなきゃいけねえと思ってた。誰よりも強く、一人でどんな強敵でも倒せるくらい強くならなきゃいけねえって思いこんでたんだ。今でもそれは変わらねえんだが・・・」
ソラ君、とても穏やかな顔をしています。
「お前と付き合いたいって思った最初の理由は、お前とやりあっていれば、オレは劇的な早さで強くなれると思ったからだった。だが、一緒に冒険者をやって、魔物と戦っていて思ったんだ。仲間がいるってのも悪くないなってな」
少し顔が険しくなりました。
「オレは自分に国にいた頃は周りに信頼できる人間がいなかった。信じられたのは師匠だけだ。だが、その師匠もいなくなった。だからオレは国を出て、自分を鍛える事にしたんだ」
そうだったんですね。ソラ君は自分に国でどんな生活を送ってたんでしょうか?
「この国に来るまでの旅路でも、だれも信用できなかったな。まわりはみんな敵だと思ってた。この国の連中も全員が敵だと思ってたからな」
「初めてあった頃のソラ君はとても怖かったです」
「だが、お前たちに出会って、そうじゃない奴がいる知ったんだ。レィナは相変わらずいけすかねえし、ジオの奴は何考えてるか分からねえが、あいつらは戦場で絶対に期待を裏切らない。そこだけは信用できる。もちろんお前もな」
「はい!レィナちゃんもジオも信じていいですよ!もちろんボクもソラ君に何かあったら必ず助けます」
「ああ、そうならねえ様に、オレはもっと強くなるつもりだがな」
会話をしながら、ボク達はランチを食べ終わりました。
「ああ、旨かったな。だが、やっぱり『剣聖』の作った料理の方が旨いな」
「はい!お母さんの料理は世界一です」
「『剣聖』も不思議なやつだよな。『勇者』っていや、この世界で圧倒的に一番強い存在だろ?それなのに今でも鍛錬を続けて剣の技を磨いたり、おまけに料理も上手いって、どうなってるんだ?」
「お母さんは何でもやり込むのが好きみたいです。やりたい事は全部やらないと気が済まないらしいですよ」
「いつもにこにこしてるから、毒気を抜かれるっていうか、やりにくくてしょうがねえ!だが、いつか倒してやるからな!」
「お母さんを殺さないで下さいね」
「殺そうと思ったって殺せねえだろ、あいつは」
「ふふふ、確かにそうですね」
「それに、もし『剣聖』を殺そうとしたら、その前にジオに殺される気がする。あいつの方が更に得体が知れねえからな。『勇者』よりも強いんじゃねえかって感じる時がある。そんな存在がこの世界にいるはずねえのにだ。本当にあいつは何者なんだ」
お父さんってば、お母さんに色目を使ったり悪意を向ける人がいると、容赦なく殺気を放つので、敏感なソラ君はそれを感じ取っているんだと思います。
「ごめんなさい。今はまだ話せません」
「まあいいさ、お前らに危害を加えなきゃジオが敵になる事はねえんだろ?」
「はい!もちろんです」
すっかりお母さんとお父さんの話で盛り上がってしまいました。