16話 初めての彼氏
ボクはソラ君の彼女になってしまいました。
ソラ君には、てっきり嫌われてると思っていたのですが・・・剣士講習の模擬戦で対戦したら、なぜかボクの事をすっかり気に入ってしまったみたいなのです。
でも、ボクも・・・あの時のソラ君を一瞬、素敵だなって思ってしまったのも事実で・・・
気がついたらお付き合いの申し込みに「はい」って答えていました。
教室で休み時間に、ソラ君がボクの目の前にいます。
「次の講義まで10分あるぜ!一回やろうぜ!」
「10分休みではちょっと・・・放課後まで待ってもらえないでしょうか?」
「オレ、昨日からおまえとやりたくてうずうずしてんだ、放課後まで我慢できねえよ」
「そこは我慢して下さい」
「おまえ、オレの彼女だろ!オレがやりたい時には黙ってやらせろよ!」
「確かに彼女になりましたけど、ちゃんと節度を持った方がいいと思います」
「なあ、ちょっとだけ!ちょっとだけでいいからさぁ」
「仕方ないですね、じゃあ、昼休みにちょっとだけですよ」
「よっしゃぁ!やっとお前とできるぜ!」
「・・・ちょっと、あなたたち、教室で不謹慎な会話しないで欲しいんだけど」
レィナちゃんが話に入ってきました。
「なんだよ、剣の話してただけだろ」
「言い方が卑猥なのよ」
あれからボクとソラ君は公認のカップルになってしまって、とりあえず彼氏彼女として接しています。
付き合い始めたと言っても、時間さえあれば剣の打ち合いばかりやってるのですが・・・
でも、教室で話をする機会も多くなりました。
付き合い始めて一番良かったと思った事は・・・ソラ君がボクを睨まなくなった事です。
屈託のない笑顔でボクと接してくれる様になったんです。
笑顔のソラ君は結構美少年で・・・・・ちょっとボクの好み?かもしれません。
あの笑顔で話しかけられるとドキっとしてしまう時があります。
ボクの事が大好きって気持ちが、すごく伝わってくるので、それはそれで、ボクも嬉しくなってしまいます。
「でも、どうしてルルなのよ?あんた、ララ先生と戦いたかったんじゃないの?」
「ああ、いつか『剣聖』を倒す!その目標は変わらねえ!・・・だが、今のオレじゃまだ全然届かなかった」
お母さんの強さはボクにも計り知れません。
「あいつと打ち合った時、オレはあいつとの差がどれだけあるのか把握する事さえできなかった。だが、本気を出されたらオレは一瞬で死ぬ・・・それだけは分かった」
ソラ君、お母さんと数回打ち合っただけでそれが分かるなんて、それもすごいです。
「そんで、それは奴も同じだ」
ソラ君は振り向かずに、後ろにいるお父さんを親指で指さしました。
「本気を出さねえのには何か理由があるんだろうが、奴の実力は『剣聖』に匹敵する・・・そうだろ?」
ソラ君は、周りに聞こえない様に小声で尋ねました。
ボクとレィナちゃんは無言でうなずきます。
「やっぱりお前らは知ってたんだな」
「ソラ君、ジオの事は他の人には秘密にしてくれないかな?」
ボクはソラ君にお願いしました。
「ああ、別に言いふらす必要はねえ。それにしてもこの国には何でこんな化け物が集まってんだ?オレの師匠みたいな化け物が他にもいるなんて、実際に会ってみるまで信じられなかったがな」
「へえ、ソラ君の師匠ってそんなに強いんだ?」
「ああ、オレの師匠は世界最強だ!だから噂に聞く『剣聖』が師匠と比べてどれ程のものか知りたくなったんだ」
「それで?どうだったの?」
「・・・わからねえ、どっちもオレには計り知れねえくらい強いって事しか分からなかった」
「ふん!情けないわね!」
「おめえらには、『剣聖』とあいつのどっちが強いか分かるのか?」
ソラ君は再びお父さんを指さしました。
分厚い丸メガネをかけて、きょとんとしているお父さんがちょっと面白いです。
「二人が本気を出したところを見た事無いですから・・・」
本気を出したら王都が壊滅すると言ってたので出されても困りますが・・・
「普通に考えたらジオなんじゃないの?」
「でも、純粋に剣の技だけならお母さんの方が上だって聞いた事があります」
「身体強化や魔法を考えると単純には分からないわね」
魔法も含めて本気を出されると、王都どころでは済まないんじゃないでしょうか?
「だろ?ああいう化け物レベルの連中の強さを知るためには自分も同じくらい強くなるしかねえんだよ」
ソラ君は本気でお母さんたちに追いつくつもりです。
「で、ルル、おまえだよ!」
「ボクですか?」
「お前と剣を交えた時、確信したんだ。おまえと一緒なら、オレはもっと強くなれる!おまえはオレの運命の相手だ!」
「何よそれ!自分が強くなるためにルルを利用したいって事?」
「ちげえよ!それもあるが、それ以上に、オレはこいつと剣を交えると満たされるんだ。こいつと一緒にいたい、こいつと一つになりたいって衝動に逆らえなくなるんだ」
「・・・まあ・・・それは、普通に『恋』ね」
うわぁ!レィナちゃん!はっきり言われるとかなり恥ずかしいです。
「ああそうだ!オレはこいつに『恋』をしてる」
ソラ君もそんなきっぱり肯定しなくても・・・
ボクは顔が熱くなるのを感じます。
「で、ルルはどうなのよ?こいつに振り回されてるだけじゃないの?」
「ボクは・・・ボクもソラ君と戦ってる時、満ち足りた気持ちになって、もっと続けたいって思いました」
「だろ?あん時の顔みりゃわかったよ、こいつもオレに惚れてんなって」
惚れてるって・・・ほんとにあの時、ボクはどんな顔してたんでしょうか?
「恋かどうかはよくわからないですけど・・・ソラ君と一緒にいるのは嫌じゃないです」
「まあ、ルルがそれでいいってんなら別にいいけど?」
レィナちゃんはちょっと呆れてるけど、反対はしないらしいです。
「そういえば、どうしてレィナちゃんじゃダメだったのですか?」
ボクはソラ君に聞いてみました。
「ああ、こいつも確かに強いが、こいつの剣は俺の剣と異質過ぎて理解できねえ!ただ力と力でぶつかり合うだけだ!まあ、腕試しぐらいにはなるがな」
「それはあたしも同感ね、倒すか、倒されるかしかないわ!」
この二人、どうしても相入れないみたいです。
そんな話をしていたら、いつの間にか休み時間が終わってしまいました。