14話 初めての対決
「あなた程度と引き分けなんて、あたしもまだまだね」
「こっちこそ、おまえ程度を倒せない様じゃ『剣聖』は倒せないからな」
この二人、どうしてこんなに険悪なんでしょう。
それにしてもさっきの、ソラ君の剣術・・・鞘に納めたままの独特の構えは別として、その後の対応が、お母さんが得意とする剣の運びにそっくりでした。
先日ソラ君と戦った時はお母さんは、あの動きはしていませんでした。
その後の、ボクとお母さんの模擬戦を見て真似したのかもしれませんが、見たからと言ってすぐに出来るものではありません。
習得するまで長い時間練習が必要です。
ソラ君の国の技で偶然同じ様な技があったのかも知れませんが・・・
その後も先生の指名で、何組かの模擬戦を行いました。
「では次、ルルとソラ、前に出なさい」
ボクとソラ君が指名されてしまいました。
「ソラ君、今日二回目だけど大丈夫?」
「問題ない、ついにお前とやれるんだ。この時を待っていた」
ソラ君、目がギラギラして、ちょっと危なそうですが、嬉しそうな表情をしています。
・・・この前お母さんと戦った時と同じ顔です。
ボクはいつもの、レイピア風の細身のミドルソードを手にしました。
ソラ君は専用のわずかに反りの入った片刃剣です。
さて、どうやって戦いましょう。
ソラ君は、いつもの剣を鞘に納めて、直前で抜きながら切りかかる戦法だと思います。
それを躱せないと一瞬で負けてしまいます。
問題はその後です。
さっき見た、お母さんと同じ様な、連続攻撃が来る可能性があります。
それを考慮して行動しなければなりません。
ソラ君が使うのが、さっきの技だけなのか、お母さんの他の技も使えるのかで対応が変わってきます。
いっその事、聞いてしまいましょうか?
「あの、ソラ君、一つ聞いてもいいでしょうか?」
「なんだ?」
「ソラ君は剣を誰に教わったんですか?」
「幼い頃にオレを育ててくれた師匠だ」
お母さんではなかったみたいです。
・・・まあ当然ですが。
「そんな事より、早くやろうぜ!」
ソラ君、ボクと戦いたくて仕方ないみたいです。
相変わらず目がギラギラして、獲物を見つけた野獣の様です。
「では、始め!」
先生の掛け声と共に、ソラ君が消えました。
ボクは咄嗟に真横に跳びました。
ボクがいた場所をソラ君の剣が切り裂いています。
ソラ君は空を切った剣を即座に鞘に戻し、再び消えました。
ボクは前方に大きくダッシュし、直後に右に直角に曲がりました。
その瞬間、ボクが方向転換した地点の一歩先の空間ががソラ君に切り裂かれていました。
・・・方向を変えていなければソラ君に切られていました。
その後もぎりぎりのタイミングでソラ君の一閃を躱します。
一瞬でも回避行動が遅れるとそれで終わりです。
反撃しないといけないのですが、ソラ君の攻撃と攻撃の間の時間が短すぎて、逃げ続けていないと間に合いません。
「逃げて!」
「ばかり!」
「いないで!」
「オレと!」
「本気で!」
「勝負しろ!」
ソラ君がボクを追撃しながら、一言ずつ話しかけてきました。
そうは言っても、一回でも回避動作を止めたらそれで終わってしまいます。
でも何回も逃げ続けている内に、ソラ君の行動の予測精度が上がって来たと思います。
ボクは回避距離を最小限に減らし、ソラ君の剣の切っ先の軌道を紙一重で躱し、そのままソラ君の懐に踏み込んでソラ君の剣を裏側から跳ね上げました。
ソラ君の動きは、鞘から剣を抜き、目標を最速で切り裂き、そのまま再び鞘に戻すまでが、一連の流れるようなきれいな軌跡で繋がっています。
ですからその流れを乱したのです。
これでソラ君の剣を鞘に戻す動作を封じました。
ボクはそのまま、剣を返して、ソラ君の胴体に切りつけます。
軌道を乱されたソラ君の剣は間に合わないはずです。
ところがソラ君は剣はソラ君の体の周りを一瞬で回り、ボクの背後から迫って来ていました。
ボクは咄嗟にソラ君を切りつけようとしていたミドルソードの軌跡を変更し、ソラ君の剣の軌道にあわせて、それを受け流します。
・・・今のソラ君の動きも、お母さんがよく使う技でした。
今度はボクが同じように自分の体を回転させながら、剣を回し、反対側からソラ君に切りつけます。
ソラ君もそれを予測していたのか、既に剣を回り込ませてボクの打ち込みを受け流しました。
ソラ君はその後も同様に、ボクの剣を受け流しつつ、次の攻撃に繋げ、ボクも同じくソラ君の攻撃を受け流して、次の攻撃に繋げるため、エンドレスで高速の攻防が続いてしまいます。
・・・これは完全に先日のボクとお母さんがやっていた模擬戦の再現になってきています。
ただ、違うのは、お母さんとの戦いは、まだ余裕を残していましたが、ソラ君との戦いは全く余裕のない限界ギリギリの戦いという事です。
ふとソラ君の顔を見たら、さっきよりも強烈な笑顔になっていました。
お母さんの楽しそうな笑顔ではなく、狂喜の中に僅かに恍惚の見える、ちょっと危ない笑顔です。
ボクの方は笑ってる余裕などありません。
一瞬でも気を許したら、その瞬間に終わりの来る、限界すれすれの攻防です。
いつものお母さんは、ボクのレベルに合わせてちょうど良い強さに調整してくれていたんだなっていう事を改めて実感しました。
今のソラ君はそのレベルよりもさらに少し上です。
ただ、普段から自分のレベルの少し上と戦う訓練をしていたおかげで、さらにその少し上と言ってもまだ対応が可能です。
ただ、対応可能というだけで、全くゆとりのない状況なのですが・・・
そして、打ち合っている内に、次第にソラ君のペースが上がって来ました。
ソラ君は今まで本気を出していなかったのでしょうか?
・・・いいえ、これは・・・違います!
ソラ君は・・・この戦いの中で成長を始めたのです。