#06
帰り道。隣には、望月がいた。そんな心地よい感覚に、自然と笑みが溢れてくる。ふと望月を見ると、同じように微笑んでいた。すると、莉乃の視線に気づいた望月が何? と爽やかに訊いてきた。
「……あっ、あのさっ」
その笑顔にドキリとしながら、言おうと思っていた言葉を口にした。
「『英太君』って呼んでも、いいかな……?」
こんなことを言ったのは初めてだ。心臓がバクバクと煩い。望月は、一瞬キョトンとした表情を見せ、次に微笑んだ。
「うん、いいよ。じゃあ僕も、『莉乃』って呼ぼうかな」
望月の口から出る自分の名前に、一気に顔に熱を帯びる。そんな莉乃を心配したのか、望月は手を伸ばしてきた。
「どうしたの? 顔赤いよ? 熱でもあるの?」
「いやっ、違うの……大丈夫だから……」
その手から逃げるように顔を隠す。すると、望月はクスッと笑って変なの、と溢した。
「でも、そんな、変な莉乃も好きだよ」
ポロッと出た望月の言葉に、莉乃の動きは止まる。そんな莉乃を不思議そうに望月は見た。どうかした? と問われる。
「だって、望月君に好きって言われたの初めてだから……」
「あれ、そうだっけ? 結構思っているんだけど、伝えてなかったみたいだね」
あと『望月君』になってるよ、と望月は付け足す。だが、莉乃は反応できなかった。飛鳥が言っていたことは、事実のようだ。先に進む望月の背中を見つめる。
「おいで、莉乃」
伸ばされる望月の手に、吸い込まれるように駆け出す。隣に立つ、望月の顔を見上げた。望月は不思議そうに莉乃の目を見たあと、微笑んだ。
「好きだよ、莉乃」
ボッと、一気に顔が熱くなる。望月はそんなの気にしないかのように、平然としていた。
「なっ、何で、そういうこと簡単に言えるの……」
「あれ? 言ってほしかったんじゃなかったの?」
言ってほしくない訳がない。むしろ、言ってほしい。もっと、もっと。
(……何だろう。英太君って、ちょっと天然なのかな)
そんな望月の手を、ギュッと握る。すると、望月の顔がこちらを向き、ゆっくりと近づいてきた。
――今日もまた、君の色に染められた。
これにて番外編完結です!
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。




