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ちらし寿司

(久し振りの投稿にどきどきです…

 久しぶりの街。

 久しぶりの人混み。

 久しぶりの美味しい食事に風呂……!


 やっと帰ってきたんだなぁ俺。

 東方の山の開拓の任期がようやく終わった俺は、報告がてら久々の街を堪能していた。

 まぁ報告も何も騎士の詰め所に行って挨拶してくるだけなんだが、行ってみたらだーーれも居なかった。

 んでしょうがないからさっさと荷物を置いて一人で街をフラフラしてるんだが、久し振りすぎてもう色々な感情が噴出して来て、えーと何と表現したらいいんだ……うん、まぁあれだ、早い話が泣きそうだ。


 規則的で整った建物を見ては泣きそうになり、道行く人の活気ある顔を見ては泣きそうになり、街に戻って来てすぐに食べたサンドイッチに至っては美味すぎて泣いたし。


 ここだけ見てるとただの変質者じゃねぇか俺……。


 いや、だって考えてもみてくれよ? そりゃ感動だってするさ。

 開拓の指揮をとる騎士は交代制で、任期は大体二週間~一ヶ月って聞いてたのによ? なぜか俺だけ二ヶ月近く向こうに居たんだ。

 まぁ俺の指揮していたチームがなかなかに成績が良くて、担当していた区域が予定より早く開拓出来たかららしいが……。

 だったら早く帰してくれても良いと思うんだろ? 俺もそう思ってたんだよな……まさか居残りだとは思わなかった。


 で、開拓地での生活はどんなだったかと言うとまぁあれだ、想像出来る通りろくな物じゃ無かったな。


 一先ず魔物を制圧して開拓の為の地盤を整える為に行った未開の地。

 先は見えないわ足場は悪いわ魔物は手強いわ……。

 まぁそんな事分かってたんだけど、もっと酷いのは生活面だった。

 家なんかある訳無いから直接地面に寝そべって寝るんだが、いつ魔物に襲われるか分からないからおちおち寝てられない。

 用を足すにも一苦労だったなぁ。

 ってそうそう、それとやっぱり食事だ。

 国から支給された食料があったんだが、やっぱり『戦地』や『開拓先』に届く食料なんかたかが知れてるんだよな。

 基本は水と保存が利く塩と芋。

 もうこの基本が貧相なんだよ。

 勿論肉も魚も届くには届くんだが、全て干した物。

 せめて拠点があれば毎日そこで寝泊りも出来るもんなんだが、今回は開拓の規模が大きいものだったから、進んだ先で寝てまた進んでは寝てって感じだったからな。物資も麓まで届いたものをとりに行く程だったし。

 適当に山に生えてる野草やら山菜やらも摘んで食べては居たが、そんなの開拓者達からしたら全く腹の足しにもならなかったみたいだしな。

 それでも文句を言う奴は居なかったけど。


 そんな生活が訳二ヶ月だ。そりゃ街の生活に戻ってこれたって思っただけでも泣き崩れるだろう?

 ほら、思い出しただけでもう泣きそうだ。


 で、今回の開拓で怪我人やら行方不明者やら続出の中で、俺のチームだけ重大な怪我を負った者が出なかったのは、やっぱりこの『おまもりー』のお陰なんだろうな。

 出かける前にブランさんから貰った竜のお守り。

 こーんな手の平にすっぽりと収まる位の小さな珠なのに、本当に効果があるんだもんな。


 正直開拓中に何度か危ない目にもあった。

 別にお守りを当てにしてた訳でも、失礼な話だが効力があると思ってなかった。ただのブランさんの気持ちだと。

 なのにだ、危ない目にあった時真っ先に思い出したのがお守りだったんだよな。

 しかも俺が思い出したのが分かったように、お守りが光って盾になってくれたんだよ。

 それからは情けない話だけど、何かあったら直ぐにお守りにお願いするようになったんだ。俺とチームのみんなを護って下さいってな。

 さすがに開拓者全員なんて虫が良すぎるお願いだろうし、そんな規模は無理かもしれないから一先ず俺のチームだけでもと思ったんだが、効果覿面だった。

 あまりの効果に感動した俺のチームの奴等が、ブランさんを紹介してくれってうるさかったなぁ。

 さすがに全員に鱗渡してたらブランさんも禿げ上がっちまうだろうし、そもそもブランさんが『世界樹の竜』って説明して良いものかも分からないし。まぁ飯食いに行くだけなら良いか。

 

 ってそうだ、ブランさんに帰還の報告とお礼に行くか!

 ついでに美味い物食わせてもらおう!


 突然思い立ち、近くにあった適当な扉に手を掛け勢い良く開け放つ。


「こんにちわー! ブランさーん!」


 自宅のように思いっきり開け放つと、そこは変わらず懐かしい店構え。

 あぁダメだ、また泣きそうになる。


「って……ブランさーん?」


 いつもなら間の抜けた声で出迎えてくれるはずだけど……? 今日は出迎えなし……? んー……?

 きょろきょろと辺りを確認しつつ、開拓地帰りの癖でブランさんの気配まで探してしまう。

 すると店の奥の小上がりから、何となく見知った気配が一つ。

 まだきょろきょろしつつも小上がりまで歩を進め、小上がりの入り口を仕切っている布をゆっくりと少しだけ捲る。

 とやっぱり居たよ。多分ブランさんと思われる人物が。

 いや、顔を忘れてた訳じゃないぜ? ただ忘れてたのは曜日。今日は星の日だったんだな。


 店の小上がりの中でスヤスヤと気持ち良さそうに寝ているのは、気を抜き過ぎて半竜半人になってるブランさん。

 もう角から耳から手まで竜に戻っちゃってまぁまぁ……。これってもしここで寝ぼけて全部竜に戻ったら店ってどうなるんだ? いやいや、どうなるんだじゃないだろう自分。

 でもさすがにブランさんも慣れてるはずだから大丈夫な……


「んー……」


 ごん


 やっぱダメだ! 尻尾ぶつかったぞ今、いつか店壊すこの人! って言うか寝返り禁止! 一回起きろ!


「ちょっ……! ブランさんっ壊れるから! ってそもそも何でわざわざこんな狭いところで寝てんだよ!?」


 小上がりは靴を脱いで座る席だが、基本的に大人が二人でテーブルを囲ったら窮屈で、多くの人は小上がりの外に足を投げ出して座っている位だ。

 そんな小さな空間で、細身とは言えそれなりに身長もある……って俺と同じか少し高い位か? の男がそんな所で寝たらぶつかりもするわ。

 半分竜になってるせいか揺すっても叩いてもあまり反応がない、効いてるんだかどうだか……。

 それでも意地で起し続け、ようやくブランさんがうっすらと目を開いた。


「おっブランさんようやく起き……」


 ガブッ



「そんなにおもいっきり叩かなくたって良いじゃんかぁ……リックさん」

「寝ぼけて人の腕に噛み付くからだろうが! そりゃぁ起した上に反射的におもいっきり殴っちゃったけど、それでも足りない位だって!」


 目が覚めたと思いきや寝ぼけてたらしく、揺すり起こす俺の腕にゆーーっくりと噛み付きやがって。あまりにも自然な動きだったから全く対応出来なかった……。

 多分人類初じゃないか? 竜に噛み付かれて生きてる人間って。そもそも世界樹の竜に噛み付かれた人間なんて居るのか?

 どっちにしろ何とも無くてよかっ……


「……一つ気になる事があるんだけど、ブランさんって毒持ってる系の竜じゃないよな?」

「たぶん大丈夫だよ。たぶん……?」


 マジかよちょっとしっかりしてくれよブランさん。


「それにしても久し振りだねーリックさん。無事帰って来れたみたいで良かったよ」


 カウンター席でぐったりとする俺の心境を知ってか知らずか、ブランさんはいつも通りの間の抜けた口調で話し出した。

 あぁ懐かしいなこの感じ。でも泣いたらダメだ泣いたら。


「二ヶ月位? になるんだねー。リックさんが何回か危ない思いをしたのは何となく鱗から伝わって来てたよ。ユリカも心配だったみたいでね、何回も『様子見て来てよ』って騒いでたよ」


 泣いたらダメだ、泣いた……ら。


「でね、あまりにもユリカが不安そうだから一回見に行ったんだよねー。そうしたら丁度リックさんのチームが魔物に囲まれててね、ビックリしてとっさに周囲の魔物に雷落としちゃった。余計危ないのにね、ごめんね……って何で泣いてるのリックさん?」


 もう限界でした。

 ブランさんがくれたお守りは、お守りだから当たり前なんだけど、敵の攻撃から護ってくれる事はあっても攻撃はしなかった。

 だが一度だけ、どうにもならなかった時に一度だけ突然不自然な落雷が魔物だけを焼き尽くした事があった。

 あれだけはよく分からなかったけどそう言う事だったのか。


「ブランさん、俺……」

「えっえっ? なんで泣いてるの? あっもしかして僕って毒あった? うわぁごめん……で済むのか分からないけどごめん。それとはいっ、無事帰還したお祝いにこれ食べて」


 あぁこの感じこの感じ。

 このボケた所が無ければ完璧なんだろうけどなぁ、いや、そこが良いのかな? 不思議な人だ。


 そんなボケボケのブランさんがどんっと俺の目の前に置いたのは、木で出来た巨大な皿と言うか器?

 その器の上にコメ……よく見えないがコメが敷き詰められていて、その上に卵と魚と色とりどりの野菜と……魚卵? とふんだんに色々なものが敷き詰められ、器の中は花が咲いたように賑やかだ。

 女性ならこういう見た目の物好きだろうな。いや、別に嫌いって訳じゃ無いけど、鮮やか過ぎて男が一人でこれを頼むのは少し恥ずかしいだろうな。

 それにしても本当に色々乗せてあるんだな。見れば見るほど知らない食材が見つかるな。

 で、この食べ物が何か聞きたいところではあるが、肝心の作った本人がカウンターの端で半分夢の中に帰ってしまってるし、このまま頂くか。


 とりあえずこの器から食べる分だけ小分けにしてっと……おぉっ! 上に色々乗ってるだけかと思ってたけど、コメ自体にも色々混ぜ込んであるし、具も表面だけじゃなく層になっている!

 さっきお祝いだと言って出してくれたし、きっと豪華に材料をふんだんに使ってくれたのだろう。

 開拓地帰りの俺からしたら贅沢過ぎてちょっと信じられないな。


 まぁそんな事より早く食べよう。さっきからこれを見てると腹が鳴って仕方が無いんだよな。

 ではでは一口っと。


 んっ? ほんのちょっと酸っぱいのかこのコメは?

 少し酸味のあるコメの上に甘く煮付けられたキノコに茹でた……なんて言うんだったか……エビ?

 キノコは噛む度に甘い汁が口の中に広がるが、コメの酸味のお陰でくどくなく、更に淡白なエビがその二つの旨みに程よく調和する。

 で、今度は少し違う具の乗ったところを一口……うん! 野菜のサクサクした歯ごたえと、魚卵のプチプチした食感が面白い!

 色々な具が乗ってるから食べる度に違った組み合わせになるのがいいな! これは飽きずに最後まで楽しめそうだ!

 で次はーっと……、あまりこの店以外で生の魚を食べる事は無いが、このねっとりとした食感と口に広がる魚の甘い脂はたまらん!

 んっ? 何かコリコリした赤と白のものが……貝ではないしかと言って魚でも無さそうだし……何か分からんがこれは旨い。これだけで酒が呑めるな! 今度ブランさんに何か聞いてみようかっ!


 くどくなく味気無い訳でもなく、こんなに豪華な料理なのにバクバクと食べれてしまうのは少し危険かもしれない……。

 これを一人で食べるのは少し勿体無いかな……と言うかこれは本来みんなで食べるものなんじゃないか?

 ブランさんも一緒に食べてくれれば良いものを、満足そうに端っこでゴロゴロしてるだけだからな。

 うーん今からでチームのやつらでも呼びに行こうかな? でも星の日だし本来なら店は休みなんだよな……うーん……ええい! この器を俺の家に運ぶか! それでチームのやつらも家に呼ぶ! それで良いな!

 ついでにこの寝ぼすけ竜も持って行って、チームのみんなに紹介するか。

 さて、次ブランさんに噛まれるのは誰だろうな。


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