表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/31

番外編) ノアの茶碗蒸し

少しいつもと違う?番外編です。

だんだん料理の描写が少なくなって来たので、徐々に改善していきます…。

「ユリカお姉ちゃん。ブランお兄ちゃんの好きな食べ物って何?」

「えっ? ブランの好きなもの?」


 お店の裏でお店で使う布巾を干していたら、ふと後ろからノア君が不思議な質問を。

 真っ直ぐに私の顔を見上げながら何故かもじもじしているノア君……物凄く可愛い……!


「リラお姉ちゃんとブランお兄ちゃんにいつものお礼がしたいんだけど……」


 うわぁぁ可愛いよぉぉぉ! 

 そっか、そうだよね。最近やっとリラ以外の人と会話をするようになって来たもんね。

 最初はブランや私の事も怖がってたみたいで、いっつもリラにくっ付いてたもんなー。最近は慣れてきたのか、お店の中や私達が居るところはリラから離れる事も多くなったけど、まさかお礼まで考えてるなんて。


 それでもまだ恥ずかしいからもじもじしてるのかな?


「そう言えばあの二人って何が好きなんだろう? リラは何が好きか知ってる?」

「知らない……」


 あらあら俯いちゃった。

 うーん……。


「ブランはお店が終わったら次の日の仕込みか材料調達でどっか行っちゃうからなぁ。週一回しか寝ないから夜もあっちこっちふらふらしてるし、よく考えたら食べてる所とか見たこと無いかも」

「リラお姉ちゃんも同じ……聞いても『何でも好きよ』って」


 うーーん。

 竜種って皆そうなのかしら?


「ノア君、別に食べ物じゃなくても良いんじゃないの? ノア君のしてくれる事ならきっと喜んで……」

「ううん、駄目なの。だっていつも美味しい物くれるの。あったかいもの。だから……」


 かっ可愛いぃぃ! なんかずるいよ二人共ぉ! 


「よしっ! そうとなったら常連の皆に協力してもらおうか!」


 ノア君のこんな可愛い姿見てたらもう全力で協力するしかないでしょ!





 と言うわけで一人目は傭兵のグレン。

 前に皆でブランと鬼ごっこした時、見事にブランを網で捕まえたグレン! あれから結構な頻度で呑みに来てはブランに良く絡んでるから何か知ってそうだし、こういう事に協力的な気もするしね!

 と言うわけで勧誘したんだけど。


「ブランさんの好きなもの? 何でも呑むし食うからわからねぇなぁ。前聞いたことあるけどよ『何でも好きだよー』ってさ」


 もう……そんな事わかってるわよー。


「んーそれ以外に何か知らない?」

「あー……酒は強いよな」


 ……うん、駄目だったね。



 で二人目は北国の美食家ノルベルトさん。

 私がお店を休んでいる間に、ブランに無茶振りしたって噂の人だけど何か知ってるかしら?


「ブラン殿とリラ殿の好物? やはり竜なのだから肉ではないのか?」

「そんな気もするんですけど……リラは元々海に住んでいるから肉って感じじゃない気がして……」


 みんなやっぱり竜のイメージは『肉、酒』だよね。

 確かにブランもリラもお酒は強いし良く飲んでるのは見るけど、ノア君がしてあげたいことはそうじゃないだろうし……。


「あの二人は世界中を旅したことがあるのだろう? まったく知らない物が好物かも知れぬな」


 世界中どころか異世界の料理にも精通してる二人だよ……忘れてたー。

 結局それ以上ノルベルトさんからは情報は得られなかったし……。




 次は考古学者のミリアさんと、いつの間にかミリアさんにくっついてるバジリスクのクロウ。

 知らない間に人型になったクロウはミリアさんと毎日のように世界樹に登っては調査してるっぽい。


「えーごめん! ぜんっぜん力になれないかも」


 はっきりと言い切るミリアさん、逆に潔くて好きかも。


「あー確かにブランはわからぇよな。俺も昔聞いた事あるんだが『何でも美味しい』しか言わないんだよな」


 もう壊滅的。


「でもブランさんの作る料理って優しい物が多くない? そう言う物が好きって事じゃないのかな?」

「あぁ確かにな。俺が色々味見した……あーこっちから言うと『異世界料理』か? それも全部そんな感じだったわ」


 あぁそっか。

 ミリアさんからこの前聞いた話だと、クロウも転生者だったらしいね!

 ずっと近くに居たのに知らなかったわ。と言うかなんでもっと早く言わないのかしら……。

 にしても優しい料理……ね。


「ノアがブランみたいに優しくてあったかいもの作るなら、二人供喜ぶんじゃないか? 異世界料理の細かい味付けとかをブランに教えたのってリラだろ? ならリラもああいう味が好きなんだろうな」

「ほっほんと? クロウお兄ちゃん!」


 ずっと押し黙っていたノア君が、まだ余り慣れてないはずのクロウに必死に飛びつく姿はそれほど本気って事なんだろうね。

 クロウもあぁ見えて実は面倒見が良いんだろうね。ノア君と一緒にレシピを考えてくれてるようだし。

 うふふっこれはもしかして上手くいくんじゃないかしら?


 あとは当日お店が終わってからブランとリラを他のところに呼び出せれば良いんだもんね! それなら出来る気がする!

 

「クロウ! 当日ノア君と一緒に料理してくれる!? 私二人を外に連れ出すわ!」





 レシピが決まったらそこからの段取りは早い。あっと言う間に作戦が練られ当日を迎えた。

 


「ねぇユリカ? いつまでここに居れば良いの? ここブラン臭くて……」

「えっ? 僕臭い? 加齢臭? えっ……え?」


 今日は早く店仕舞いをすると前もって常連達に伝えておいたお陰で、いつもより一時間近く早く片付けることが出来た。

 で、そのままさっさと二人を連れてお店を出てやって来たのはブランの家。

 家って言うか住処と言うか……人間達が言うには『世界樹の竜の巣』になるのかな?


 無理やり連れ出した挙句竜の巣に押しかけるのってひどいかな? しかもリラは失礼な事さらっと言うし。


「えーもうちょっといいじゃん! ブランっ人間が言う竜の巣の宝ってどれ?」


 もうここまできたら無理やりにでもここから動かないんだから。


「宝なんて無いよー。僕も人間が何を宝って言ってるか分からないんだよね」

「ユリカ、随分直球で聞くのね」


 時間を繋がないといけないんだもん。


 ここ竜の巣は、人間達がどんなに頑張っても登って来られない程世界樹の遥か上の方にある。

 世界の創造から存在するこの大樹は根元やお店がある下層はまだ植物らしさを残してはいるけど、ここまで上ってくると周りはもう寂しさを覚えるほど石化し、灰色の世界が広がっていた。


 その灰色の世界に開いた洞が竜の巣と呼ばれるブランの家。

 ただぽっかりと開いた洞の中には、特に何がある訳でもない。

 ブランが元の竜の大きさでも休めるくらいの広さのある空間なだけで、人間が言う『宝』のような物は一切見当たらない。


「初めてブランの家に来たけど、なんか寂しい所だね……」


 ぽつりと口をついて出た言葉にはっとして顔を上げると、ブランもリラも周りをきょろきょろと見渡していた。


「そうねぇ……私からしたら海の底の方が寂しい所のように感じるけど。ブラン、ここに来るの久し振りなんじゃないの?」

「え?」


 自分の家なのに久し振りなの? 


「うん、久し振りに来たなーって思ってたところ。ここに帰ってくるとまた一人になったみたいで寂しくなるんだもん。だから最近はお店の近くでゴロゴロ寝てるよ」


 いつもと変わらない表情で、口調で『一人は寂しい』って言うブラン。

 何だろう……。


「お待たせ……しました」


 何か言おうとしていた所に丁度良くノア君が料理を抱えて来ました。

 まぁ、正確には料理を抱えたノア君を抱えたクロウが来たんだけどね……。


 ゆっくりと地面に降りたノア君は、ゆっくりゆっくり慎重な足取りで木製のトレイをブランとリラの前に置き、可愛くもじもじと口を開く。


「あっあのね……クロウお兄ちゃんに教えてもらって作ったの……あのっ……上手く出来たか分からないけど……」

「ノアが?」


 もじもじと尻蕾になっていく言葉を聞き、リラが目の前に置かれたトレイの上にかけられた布をそっと外す。

 そこには蓋の付いた小さな器が可愛く二つ置かれ、木製のスプーンが添えられている。

 そう言えば私もノア君が何を作るのか聞いてなかったわ……。


「あったかいうちに食ってやれよ」


 不思議そうに顔を見合わせているリラとブランだったけど、クロウのそのぶっきらぼうな一言で再起動し、器を手に取る。

 ゆっくりと開けられた器の中から出てきたのは……卵? 黄色いぷるぷるしたもの。


「わぁ……茶碗蒸しじゃない。久し振りだわー」


 その食べ物が何なのかすぐ分かったリラは、満面の笑顔をノア君に向けるとそのまま一口頬張る。


「あっふい、はふっはふっ。んーー! 美味しい!」

「うん! 滑らかで美味しい」


 一口食べた二人はノア君をこれでもかって位抱きしめる。

 その笑顔は作り物じゃなくて、本気で美味しいって言ってるのが分かる位満面の笑み。

 ずるいなー私も一口欲しいよぉ。


「あっあのね、一生懸命作ったの! その……いつもノアと一緒に居てくれてありがとう……」


 真っ赤な顔で泣きそうになりながら必死に言葉を伝えるノア君。あぁ駄目、私もう泣きそう。

 でも私が泣くより早く泣く人が居た。


「うっ……わーーノアー! こっちこそ一緒に居てくれてありがとーーーう!! もう離さないんだからー!」


 うっすら分かってたけど、リラの親馬鹿(?)っぷりが凄い……。リラと一緒にノア君を抱き締めてたブランが押し飛ばされる位だもんね。

 で、そのブランはモグモグと茶碗蒸し食べてるし。


「ふふっノア君ありがとう。これすっごく丁寧に作ってあるね。卵もちゃんと漉してあって滑らかだし、具材はちゃんと下処理してあるし……始めて作ってこれは凄いよ。僕も見習わなきゃなー」

「あったりまえよ! うちのノアは天才なんだからぁぁ」


 あぁもう、顔ぐちゃぐちゃだよリラ。

 でもノア君もずっと頑張ってたからか、二人が大絶賛してくれて嬉しかったんだろうね、リラに負けない位大泣きしちゃって。

 良いねこういうのって。





 結局終始リラとノア大号泣だったなー。


 一向に泣き止まない二人と、その場を離れがたいブランを置いて、クロウと先にお店に帰って来ました。

 ノア君は本当に良い子で、初めての料理なんだからぐちゃぐちゃになってると思ってた店内は、二人が食べた食器を洗えば良いだけという状況まで片付けもされていました。

 良い子過ぎてリラに遠慮してるような所があったけど、きっと今日の一件でそれもなくなりそうだし、めでたしめでたしね。


「あ」

「どうしたの?」


 火元のチェックがてら拭き掃除をしてくれていたクロウがカウンターを覗き込みながら小さな声を上げたので、視線の先を追う。

 するとリラとブランが使っていた食器と同じ物が二つトレイの上に置かれ、その上に可愛らしい文字の手紙が。


【ゆりかおねえちゃん、くろうおにいちゃん、いつもありがとう。のあより】


 字なんていつ覚えて……。

 あぁ、今日卵を届けてくれたノルベルトさんに教えてもらったのかな……?

 

 ふとクロウの顔を見上げると同じ事を思ったのか目が合った。


 トレイを持ち、元のバジリスクの姿に戻ったクロウに飛び乗りノア君の元へ!

 あぁもうっ! ノア君可愛いよっ大好き!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ