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ジン(第一部終わり)  作者: 桃巴


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ジン37

「謙遜するな、ジン」


 カッツはアメリの手を取って立ち上がる。

 その手には、神龍の鱗。

 アメリが実体となる依り代だ。


「こんな芸当ができるのだから」


「いや、いやいやいや。上手くいったのはアメリさんのおかげですから!」


 ジンは叫んだ。


「私?」


 アメリが自身の胸に手をあてる。


「そうですそうです、アメリさんのおかげ。依り代にちゃんと移れる条件は、魔の影響を受けていないこと。その御心がほんのちょっとでも魔に染まっていたら、闇を纏っていたら、無理だったんです」


 ジンは続ける。


「傀儡ポーターを討って金糸が全て消えました。長きに魔と繋がっていながらも、アメリさんの御心は砂粒ひとつさえ、魔に侵されていなかったのです。(おうごん)のままだった」


 アメリは誇らしげだ。

 だが、続くジンの言葉で追いつめられる……。悪い意味ではたぶんなく。


「負の感情なるものは、もちろんアメリさんにもお有りでした。ただその感情の先は全部カッツさんでした。魔が入り込む隙がなかったのでしょう」


 まさに玉座の間でアメリがさらけ出した声がそうなのだろう。


「アメリさんの想いの全てがカッツさん、例えるなら果汁100%ならぬカッツ100%!」


 ジンは良い例えだったと自信満々で二人を見る。

 二人は真っ赤に染まっていた。


「あれ? お二人とも大丈夫ですか!?」


「も、問題ない」とカッツ。

「や、やっと体を実感して、血が巡っただけよ」とアメリ。


「依り代に慣れるまで無理しないようにお願いします。無理させないように」


 ジンはアメリに言ってから、カッツに向けても言った。


「ああ、承知した」


 と、カッツが頷く。


「慣れない体で激しい運動は駄目ですから」

「ん、……もちろんだ」


 と、またカッツが答える。

 何やら間があった。


「初めての体ですから、優しく丁寧に」

「わ、わかっている!」


 と、またまたカッツが先走る。

 今度は焦った返答だ。


「そうですよねー。カッツさんに任せておけば安心です。アメリさん、慣れるまではカッツさんに身を委ねてしまいましょう」

「わ、わ、わ、わかったわ。それ以上のご心配は無用よ。わ、私、ちゃんとそういう心積もりでおりましたもの」


 ジンに視線を向けられたアメリが、応えてしまった。

 カッツが……固まる。


「カッツさんに対処できないことがあれば、同じ依り代の体の先輩聖女がルララルーに居りますから、相談してください。もちろん、俺でも大丈夫ですが」


 依頼を受けてあちこちに飛ぶジンよりは、ルララルーのレーリの方が良いだろう、とジンは思ったから。


 ……そう、ジンこそ一点の曇りなき御心なり。

 言葉通りの本心、真心の忠告であるのだ。


「あ、ああ……ははは」と気まずい笑いのカッツ。

「あ、ええ……ほほほ」と恥ずかし笑いのアメリ。


「じゃあ、俺は先に飛びます」


 ジンはチラッとザナギを見る。

 ひとり枠外扱い状態のザナギを。

 いつぞやのバレンスのようだ。


「ザナギさん」


 ジンが声をかける。


「クスン、バカ野郎。ま、俺への放置プレイは、不問に付してやる。そこの二人の羞恥プレイに免じてな」


 ザナギがジンの肩を組む。


「お前、清廉すぎる。見てみろ、この甘い(よこしま)な二人を」


 カッツとアメリが目を泳がした。


「何言ってるんです、ザナギさん。行動さえ同じの繋がっている二人じゃないですか」

「いやいや、いやあ、繋がりはこれからだろうよ。グフフ」


 とまあ、お子様のジンだけ清き思考なのである。それも、聖の力の影響か。


「カッツ、アメリ、俺らは先に王都に飛ぶ。二人はゆっくり帰還しろよ」

「ああ、わかった」


「二階の部屋用意しといていいな?」


 ザナギがカッツに確認した。

 カッツが頷く。


「そうだな。決心がついた」


 サブマス話である。


「コンシェルジュはアメリでいくぞ」

「いいのか!?」


「そりゃあ、ジンが頑張ってくれるさ。神龍の鱗を依り代に実体化させる報告書を書いてもらうからな。不測の事態に備えられるように、近くで見守るため、サブマス付きが妥当って一文いれりゃあいいだけ」

「え、俺?」


 自身を指差すジンの肩を、ザナギがガシッと固定したまま続ける。


「ジン、めっちゃ報告書溜め込んだよな。さ、帰るぞ」

「わかりました、わかりましたから。肩が痛いって、ザナギさん!」


「すまん、ついついな、俺はお前の世話を焼きたくなるわけ。行くぞ」

「はい、了解でーす」


 ザナギとジンは、飛龍を出して空に昇る。

 眼下に金獅子に乗った二人。


 ジンはこれから王都で雑務(あれこれ)をこなす気苦労より、眼下の二人が見れたことの方が心地よかった。


 心置きなく王都に帰還したのである。




「ジーーン」


 ドンドンドンドン


「新しい朝が来たぞおおぉぉーー」


 ドンドンドンドン


「……うるさい」


 ジンは布団に潜り込む。


「希望の朝だああぁぁーー」


 カチャ


「まじかよ……また、ザナギさんが?」


 バレンスに鍵を渡したのだろう。


「ジン、起きろって」


 バレンスが布団を剥ぎ取った。


「最悪の目覚めだ」

「何をいうか。喜びに胸を躍らせる朝だろう!」


「そりゃあ、バレンスにとってだけだろ」

「まさに! ジンの起床係を仰せつかってはや二週間。俺はこの日を待ち望んでいた! 今日がなんの日かわかるか、ジン!」


 わかってるからさっき答えただろうに、とジンはうんざり気味。


「めっちゃ頑張った! 雨の日も風の日も、遅番の日も休日の日も、ジンを起こしてギルドに向かわせること苦節二週間のご褒美!」

「はいはい、シーララス研究所随行許可が取れたんだろ」


 ザナギがジンの報告書を研究所に持っていくのだ。

 その随行というご褒美を貰える条件が、ジンを二週間毎日ギルドに送ることだったわけ。

 ジンは二週間かけて報告書を書き終えた。

 今日、各各方方に送られる。


「やっと、やっと女王様に会える!」

「フルル所長だろ」


「そう、我が愛しのフルル女王様。この胸を焦がす想いを届けなければ! さあ、ジン行くぞ」

「はいはい、ギルドに行くが研究所には同行しないからな」


 そのための報告書なのだから。




 とまあ……

 ジンが同行していないことで、フルルが機嫌を損ない、バレンスに八つ当たりしたのだが、当人は恍惚の表情であった。

 ピンヒールブーツで踏まれ、鞭でビシバシとやられているのにもかかわらず……。


 それでいいのかバレンスよ?

 それがいいのかバレンスよ、しみじみ。





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