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ジン(第一部終わり)  作者: 桃巴


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36/46

ジン36

「……」

「……」


 片膝立ちのジンは聖女アメリを見上げる。

 互いに無言で見つめ合う。


「あの、不具合とかありますか?」


 ジンは未だ無言で立っている聖女アメリに訊いた。

 瞬きひとつ、からーの高速瞬き。

 ハッとしたかと思うと、両手で自身の顔をペチペチと触る。

 信じられないと言わんばかりに小刻みに首を横に振り、ヒュッと息を吸ったかと思うと、バッと振り返り鎮守の大木に触れる。

 触れる感覚にびっくり顔。

 その手の甲を見て、ピタッと止まる。


「神龍の鱗三枚を依り代としました。えーっと、動かない箇所とかありますか? あの、聞こえてます? 声とか出ませんか?」


 聖女アメリが振り返る。


「……私、戻ったの?」

「ですね。傀儡ポーターと同じで、その身は依り代ですが」


「っ!」


 聖女アメリが、崩れ落ちた人形を睨む。

 ツカツカツカと近寄り、思いっきり蹴り上げた。


「ちょ、ちょっと……アメリさん!?」


 ジンは慌てて立ち上がる。


「あんの照れ臭の唐変木(とうへんぼく)にして朴念仁(ぼくねんじん)が、『俺の愛しい人』なんて寒イボものの物言いなんてしないんだから!」


 いや、そこを今突っ込むんかーい!? ってな感じのジンである。もう、呆気にとられて聖女アメリを眺めるしかない。


 長年の鬱憤をはらすかのように、執拗に人形を蹴り蹴り蹴り。


 その間に、待ち人が現れる。

 もう、ジンの出番はない。

 聖女アメリの背を見つめるその者に引き継ぐだけ。


「私が聞きたいのは本物の声なんだからね! 愛の言葉は本物から聞きたいんだもん。耳が腐るじゃんか、先に偽物から聞いたら!」


 蹴り蹴り蹴り。


「しけたツラを毎年晒しちゃってさ、私がどんな気持ちでいたかわからないでしょ!」


 蹴り方止め。


「視えないんなら、本心さらけ出してもいいじゃん。なんで、顔だけしかみせてくれなかったのよ……」


 ポタポタポタ。

 床に落ちる、溢れた想いが。


「声聞きたかったのに……ひどいよ……」


 グスグススンッ。


「カッツに会いたいよ、声が聞きたいよ、一緒にいたいよ……抱きしめてよ、ばかあぁぁ!」


「アメリ」

「っ!」


 聞きたかった声。

 でも、振り向けない。


「……何よ」

「アメリ」


 息ができなくなるほど、嬉しさで苦しくなる。

 こんなときが訪れるなんて思ってもいなかった。


「アメリ」

「聞こえてるわよ! 他に言うことはないの!?」


 でも、振り向く勇気が出てこない。


「俺の……アメリ……」

「ばっかじゃないの……何よ、その臭いセリフ……」


 とまあ、そんな二人を残して、ジンは玉座の間を出た。ジンの出る幕はもうないから。




 第一層まで下り、古代京エリュシュガラの関門を出る。


「……」

「……」

 

 ここでも無言で見つめ合う。


「えっと……ザナギさん、えーっとですね」


 ジンは冷や汗ものだ。

 なんて言い訳しようかと思考を巡らせる。


「修行は済んだか?」

「あ、はい」


 ザナギの顔が神妙に頷く。


「万事滞りなくか?」

「あー、滞り……なく、上手くいっていると予想できます」


 怪訝な顔へと変わる。


「あん?」

「カッツさんの方が劣勢な気もします」


 困惑する。


「は!? 何をさっきから言っているんだ?」

「いや、だからアメリさんが優勢で、たぶんカッツさんはアメリさんの尻に敷かれる系かと」


 ジンは自身の言葉に納得するようにウンウンと頷いた。


「……ちょ、ちょ、ちょっと待て」

「いや、俺動いてませんけど?」


 ザナギの慌てように、ジンは首を傾げる。


「アメリって言ったか?」

「はい、アメリさんとカッツさんは、久々の再会中ですよ」


 ザナギの口がパカーンと開く。

 何度か瞬きも繰り返した。


「ど、ど、ど、ど、どういうこったああぁぁ!?」


 ザナギの大声に、ジンは耳を塞いだ。


「ちゃあぁーんと、説明しやがれっ!」


 ジンはザナギに掴まれ大きく揺すられる。


「残滓の魔核は全て浄化させたんだよな!?」

「はいはいはいはい、離してくださいってザナギさん!」


「アメリも浄化で天に導かれたんじゃないのか!?」

「いやいやいや、その前に傀儡ポーターに取り憑いていた特級主の魔核を討ちましたよ」


「なんじゃそりゃ? 傀儡ポーター? んん……あっ! そういや、当時……そこに居たな。回収……されてなかったか……」

「はい、古代京エリュシュガラで唯一の魔核を持った物体でした。カッツさんに変化して現れたので、サクッと討ちまして、解放を阻止しました」


「そ、そうか。良くやった」

「で、聖女アメリさんの(おもい)に、三玉の光と、供物(よりしろ)として神龍の鱗三枚を三つ葉紋のように並べて祈りました。『今一度姿露わし給うこと』をと」


 ザナギの目が見開かれた。

 ジンの言葉に驚いたからでなく、視界に捉えたからだ。


「カッツ! アメリ!」


 ジンをブオォーンと横に投げ放ち、ザナギが身を乗り出す。

 二人の姿が関門を通った。


 感動のご対面かと思いきや、ザナギに見向きもせず、カッツとアメリはジンに近寄った。


「ジン、お前……とんでもない奴だな」


 カッツが頭を下げた。

 そのまま片膝をつき、剣の柄を持って剣先を地に向ける。

 アメリも両膝をつき、両手を組んで祈りの姿勢をとった。


「いや、そういうの止めてくださいって!」


 ジンはとんでもなく慌てて後退った。






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