ジン36
「……」
「……」
片膝立ちのジンは聖女アメリを見上げる。
互いに無言で見つめ合う。
「あの、不具合とかありますか?」
ジンは未だ無言で立っている聖女アメリに訊いた。
瞬きひとつ、からーの高速瞬き。
ハッとしたかと思うと、両手で自身の顔をペチペチと触る。
信じられないと言わんばかりに小刻みに首を横に振り、ヒュッと息を吸ったかと思うと、バッと振り返り鎮守の大木に触れる。
触れる感覚にびっくり顔。
その手の甲を見て、ピタッと止まる。
「神龍の鱗三枚を依り代としました。えーっと、動かない箇所とかありますか? あの、聞こえてます? 声とか出ませんか?」
聖女アメリが振り返る。
「……私、戻ったの?」
「ですね。傀儡ポーターと同じで、その身は依り代ですが」
「っ!」
聖女アメリが、崩れ落ちた人形を睨む。
ツカツカツカと近寄り、思いっきり蹴り上げた。
「ちょ、ちょっと……アメリさん!?」
ジンは慌てて立ち上がる。
「あんの照れ臭の唐変木にして朴念仁が、『俺の愛しい人』なんて寒イボものの物言いなんてしないんだから!」
いや、そこを今突っ込むんかーい!? ってな感じのジンである。もう、呆気にとられて聖女アメリを眺めるしかない。
長年の鬱憤をはらすかのように、執拗に人形を蹴り蹴り蹴り。
その間に、待ち人が現れる。
もう、ジンの出番はない。
聖女アメリの背を見つめるその者に引き継ぐだけ。
「私が聞きたいのは本物の声なんだからね! 愛の言葉は本物から聞きたいんだもん。耳が腐るじゃんか、先に偽物から聞いたら!」
蹴り蹴り蹴り。
「しけたツラを毎年晒しちゃってさ、私がどんな気持ちでいたかわからないでしょ!」
蹴り方止め。
「視えないんなら、本心さらけ出してもいいじゃん。なんで、顔だけしかみせてくれなかったのよ……」
ポタポタポタ。
床に落ちる、溢れた想いが。
「声聞きたかったのに……ひどいよ……」
グスグススンッ。
「カッツに会いたいよ、声が聞きたいよ、一緒にいたいよ……抱きしめてよ、ばかあぁぁ!」
「アメリ」
「っ!」
聞きたかった声。
でも、振り向けない。
「……何よ」
「アメリ」
息ができなくなるほど、嬉しさで苦しくなる。
こんなときが訪れるなんて思ってもいなかった。
「アメリ」
「聞こえてるわよ! 他に言うことはないの!?」
でも、振り向く勇気が出てこない。
「俺の……アメリ……」
「ばっかじゃないの……何よ、その臭いセリフ……」
とまあ、そんな二人を残して、ジンは玉座の間を出た。ジンの出る幕はもうないから。
第一層まで下り、古代京エリュシュガラの関門を出る。
「……」
「……」
ここでも無言で見つめ合う。
「えっと……ザナギさん、えーっとですね」
ジンは冷や汗ものだ。
なんて言い訳しようかと思考を巡らせる。
「修行は済んだか?」
「あ、はい」
ザナギの顔が神妙に頷く。
「万事滞りなくか?」
「あー、滞り……なく、上手くいっていると予想できます」
怪訝な顔へと変わる。
「あん?」
「カッツさんの方が劣勢な気もします」
困惑する。
「は!? 何をさっきから言っているんだ?」
「いや、だからアメリさんが優勢で、たぶんカッツさんはアメリさんの尻に敷かれる系かと」
ジンは自身の言葉に納得するようにウンウンと頷いた。
「……ちょ、ちょ、ちょっと待て」
「いや、俺動いてませんけど?」
ザナギの慌てように、ジンは首を傾げる。
「アメリって言ったか?」
「はい、アメリさんとカッツさんは、久々の再会中ですよ」
ザナギの口がパカーンと開く。
何度か瞬きも繰り返した。
「ど、ど、ど、ど、どういうこったああぁぁ!?」
ザナギの大声に、ジンは耳を塞いだ。
「ちゃあぁーんと、説明しやがれっ!」
ジンはザナギに掴まれ大きく揺すられる。
「残滓の魔核は全て浄化させたんだよな!?」
「はいはいはいはい、離してくださいってザナギさん!」
「アメリも浄化で天に導かれたんじゃないのか!?」
「いやいやいや、その前に傀儡ポーターに取り憑いていた特級主の魔核を討ちましたよ」
「なんじゃそりゃ? 傀儡ポーター? んん……あっ! そういや、当時……そこに居たな。回収……されてなかったか……」
「はい、古代京エリュシュガラで唯一の魔核を持った物体でした。カッツさんに変化して現れたので、サクッと討ちまして、解放を阻止しました」
「そ、そうか。良くやった」
「で、聖女アメリさんの魂に、三玉の光と、供物として神龍の鱗三枚を三つ葉紋のように並べて祈りました。『今一度姿露わし給うこと』をと」
ザナギの目が見開かれた。
ジンの言葉に驚いたからでなく、視界に捉えたからだ。
「カッツ! アメリ!」
ジンをブオォーンと横に投げ放ち、ザナギが身を乗り出す。
二人の姿が関門を通った。
感動のご対面かと思いきや、ザナギに見向きもせず、カッツとアメリはジンに近寄った。
「ジン、お前……とんでもない奴だな」
カッツが頭を下げた。
そのまま片膝をつき、剣の柄を持って剣先を地に向ける。
アメリも両膝をつき、両手を組んで祈りの姿勢をとった。
「いや、そういうの止めてくださいって!」
ジンはとんでもなく慌てて後退った。




