ジン34
ギルド二階に上がったカッツは、コンシェルジュの案内でザナギの部屋に通される。
「カッツ、どうした?」
カッツはフッと笑ってソファに腰かけた。
同年代の気心知れた間柄の二人である。
ザナギもカッツの対面に座った。
「やっと、サブマスになる決心でもついたか?」
「いや、その気は全くない」
カッツへのサブマス話は幾度とあった。今までもこれからも受ける気はない。
……アメリと今も一緒だったなら、サブマスになっていたかもしれないが、との思いが過る。ギルド診療所でアメリが働き、自身も同じ二階で働くことができるから。
だが……夢のような想像なのに、カッツは苦くも思う。
診療所とサブマス部屋は同じ二階にあるが行き来はできない。
結局、変わらない。
想像でも、同じ世界に居るのでも、アメリには手が届かないのだから。
……アメリはずっとひとり囚われたまま。永遠に、ずっと、ずーっと……、カッツがこの世から去っても、生まれ変わっても、アメリだけが取り残されて。
カッツとアメリの縁が繋がる未来はやってこないのだ。
「カッツ?」
「あ、ああ。すまない。ちょっと考え事をしてた」
「で?」
「……ジンのことだが」
ザナギの眉間にしわが寄る。
「あいつ、雲隠れしやがって。戻ってきたら、おしりペンペンだ」
「クックックッ、子ども扱いか?」
「まあな、あいつは手がかかる。目が離せない感じだ。……心配の方じゃないぞ」
「目が追いかける感じだろ? ワクワク感というか……これから、どんなふうに成していくのか……化けていくのかを、見ていたい」
「そう、それ。何か持ってんだよな、あいつは。惹きつけるなんかを」
ザナギが嬉しそうに口にした。
「ルララルーの聖女ダンジョンだって、あいつのおかげみたいなもんだろ。ま、カッツが諸々をやってくれたのが一番だけど」
「突破口がジンだったのは間違いない。それで……」
カッツは一拍間を置き続ける。
「ジンからランジ伝で連絡があった」
「ほお、散々世話してる俺でなく、カッツに連絡するとは……妬けるねえ」
ちょっと不満げにいじけた様子のザナギに、カッツは苦笑した。
散々世話焼きしたから、逃げられているわけだから。ザナギもそれを自覚しているのだ。
「で、あいつはなんて?」
「俺が迎えに来なきゃ王都には戻らない、だと」
「本当に世話が焼ける。迎えに行ってやってくれ、カッツ」
「それが……できない。居場所を伝えられていないから」
「は!?」
「俺に捜させる、俺なら居場所をつかめると、ジンは思っているんだろう。だから、ヒントが欲しくてここに来た」
「待て待て、ヒントもクソも俺だってわからねえから困ってるんだぞ。賞金つきのお尋ね者にまでしてさ、ヒントが欲しいのは俺だ」
「まあな。そのヒントとなることだが、ランジからジンは秘密の修行とやらをしていると耳にした」
「修行?」
「聖女の力を会得したようだ。治癒回復浄化の恩恵を受けたと、緑青黄金の光を浴びてだ。俺もその光を見た。ジンが纏っているのを、ルララルーでな」
カッツの視線がマジック品の棚に向く。
ジンから一連の記録を報告されているだろ? と視線で訴える。
カッツも記録水晶と映像台座のことは知っている。元々、依頼中の記録を撮る開発は、あの殲滅事件があって始まったことだから。
「……なーるほどねえ」
ザナギが大きく息を吐く。
「確かに、ヒントはここにある」
ザナギがおもむろに記録水晶と映像台座をセットした。
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「ジンは聖の力を、鎮守の大木から三玉として受け取ったようだな」
映像を見終わったカッツは言った。
「ああ、俺もそう思っている。あいつは明言を避けたがな」
ザナギが続ける。
「つまり……修行をしているわけだ。新装こん棒を使いこなす修行を。その修行の場を見つけなきゃいけない。だが、ザッケカラン全域に情報を求めても、あいつの所在はわからない状況だ。どこのダンジョンにもいない」
どこかのダンジョンで修行していたら、誰かしらの目に留まるが、それがいっさいないのだから。
「地方の診療所に潜っていても同じ。聖女でない者が聖の力を駆使していたら、噂が広がり報告があがってくるはず」
たちまち、王都に情報が入ることだろう。それがないのだから、診療所にも潜っていない。
カッツは頷く。
「俺を指名した理由がある……はず」
「ああ、そうだな。まとめると、既存ダンジョンにはいない。診療所にもいない。ヒントはカッツを指名したこと。聖の力……聖女の力。誰にも目撃されない修行場……誰も居ない所?」
カッツ
聖女の力
誰も居ない所
それが繋がる場。
思い起こす場はひとつしかない。
いや、ランジから色々聞いたときから、頭の片隅にはあった。
最近何度も思い浮かべるその場。
「古代京エリュシュガラ」
カッツは俯き呟くように言った。
ザナギがハッとする。
「カッツ、聖女、カッツにしか入れない場」
「ああ。全ての条件が揃う。きっと、ジンは入れたのだ」
「古代京エリュシュガラがあいつを望んだ。あいつは……どんな修行をしているんだ!?」
「願わくば、ジンがアメリを解放してくれていたらと……」
その願いは、つい最近口にした。
ルララルー聖女ダンジョンの管理人聖女レーリに、古代京エリュシュガラの浄化を頼んだから。
だが、そんな化け物級の浄化力は、持ち合わせていないと言われ、何よりもレーリは……アメリ同様に聖女ダンジョンから離れられないのだ。
聖女ダンジョン稼働と同時に繋がった存在だからだと。
「アメリが解放されるには、古代京エリュシュガラの残滓の魔物を、その魔核をひとつ残らず浄化することだ。途方もない数をな。だが、あいつなら、やりかねねえなあ。ランジらのために惜しみなく純聖水を使っちまう奴だし」
「ジンは……アメリを視れるのだろうな、俺と違って」
ザナギがカッツの肩に手を置いた。
「行け、カッツ。アメリの最後を……天に召される瞬間を逃すな。あいつが解放を導くはずだ」




