ジン33
「ランジ、頼みがある」
魔の森でわかれる際に、ジンはランジに言った。
「ジンの頼みなら、もちろん請け負うさ」
「言伝を頼む」
「王都にか?」
「いや」
ジンは小さく息をして、続きを口にする。
「カッツさんに頼みたい」
「……えっ!? まさか殲滅の?」
「ああ」
「俺……俺らには、声かけづらいベテランだよな。恐れ多いって感じ」
ランジが肩を竦めてパーティーを見た。
パーティーも頷く。
「まあ、俺もそうだけどさ。どうしてもカッツさんに伝えてほしいんだ」
「で? なんて伝えればいいんだよ」
「カッツさんが迎えに来なきゃ、王都には戻らないって、さ」
ランジが目を見開く。
可笑しそうな表情で。
「お尋ね者が逆指名するとは驚きだ」
「あ、確かに」
ジンとランジは笑った。
「二週間後にか?」
「ああ」
ジンが手元にあるのは二週間分の食料だから。
「居場所は?」
「……大丈夫」
ジンは微笑む。
「そっか……了解。二週間後に、神獣で王都までひとっ走りして伝える」
「報酬は」
「いらねえって」
ランジがムスッとしながら言った。
「でも、こうして逃がしてくれる面倒事の対価も払いたい」
「俺らが今ここに居られることは、ジンのおかげ。先払いしてもらってる。な?」
ランジがパーティーに顔を向ける。
パーティーもウンウンと頷いている。
「関所に戻った時、ポーターが消えてるのをどう説明するんだ?」
ジンを逃してくれる一番の面倒事だ。
「そこは考えてある」
ランジがジンの背を指差した。
背負っている荷物を。
ジンは大荷物にしては軽いそれを下ろした。
「こいつの中身は人形。これで一人増える」
ランジが荷解きして、人形を見せた。
「自立はしないだろ? どうやって、人にみせるのさ?」
「背負えばいいだけ。気絶したポーターを運んでまーす、ってな感じで。運ばれるポーターって可笑しくない?」
「そんなんで誤魔化せるのかよ?」
ジンは呆れたように言った。
「なんとかなるって。任せろ」
ランジが自身の胸をポンと打った。
その手が傷だらけになっていることにジンは気づく。パーティーの方も、修行のせいか生傷が見て取れた。
「……なら、任せる。その代わりに、ちょっと俺の修行の成果を披露させてくれ」
「お! ジンも秘密の修行してたのか。それは見てみたい」
ランジのパーティーも修行中。
ジンも修行しているのならと、どんなこん棒技を披露してくれるのか興味津々だ。
ジンは、こん棒と同調する。
『治癒回復浄化、付与!』
三玉それぞれがふわりと光り、ジンはその光をランジのパーティーに浴びせる。
注がれた光の効果に、ランジのパーティーは薄く口を開けしばし固まった。
治癒回復浄化が付与され、心身が癒され気力が満ち清々しくなったのを実感しただろう。
診療所で聖女に治療されるような。
「じゃあな」
ジンはニヤリと笑って飛躍した。
「っ、ジン!! これって、この感じって、聖女のちか、」
そこまでしか、ランジの声は聞き取れなかった。
二週間後。
主城玉座の間、その扉前にジンは立っていた。
扉から出る金糸はもうない。
つまり、残るは玉座の間のみ。
(ここの特級主は、自身の消滅を理解している。つまり)
「もう、残滓の魔物はいないはず……ってことだよな」
玉座の間で特級主は戦っていたわけだから、カッツの殲滅剣を認識していないはずはない。
つまり、残るのは……遺ってしまったのは、聖女アメリだけのはず。その残滓だけ。想いだけ。
(ジン、行くぞ)
「ああ」
ジンは、玉座の間の扉を開いた。
所変わって王都。
「……ジンが?」
ランジから言伝を聞いたカッツが、困惑げに返した。
「で、どこに迎えに行けばいいのだ?」
ランジが首を横に振る。
「ただ、カッツさんが迎えに来なきゃ王都には戻らない、とだけ。だから、伝えればカッツさんがわかると思ってましたが……」
カッツはさらに戸惑った。
「どういうことだ? なぜ、私を……」
「何かジンから聞いていないんですか? てっきり、カッツさんはジンの修行を知っているかと」
「修行?」
「はい。確か……途中で投げ出して王都に戻れない。やるべきことだって言ってて。それで、修行の成果も披露してくれて」
「どんな成果を?」
「……こん棒の」
ランジがそこで周囲に注意を払う。
「どうした?」
ランジの様子に、カッツが問う。
『聖女の……』
ランジが声を潜めた。
「は?」
カッツが首を傾げる。
『たぶん、聖女の修行?』
「はあっ!?」
『シッ』
ランジが口元に人差し指をあてる。
『声を抑えてください』
『あ、ああ、わかった』
カッツとランジは顔を近づけ、コソコソと話し出す。
『ジンは女性じゃないだろ?』
『はい。もちろん男っすよ』
『意味がわからないぞ。ん? 聖女の修行……ルララルーの聖女ダンジョンで修行しているのか? 待て待て、あそこは聖女しか入れない仕様のはず』
カッツが口にしながら否定する。
『なんか……聖女の力みたいなものを会得した感じですかね。こん棒からフワッと緑青黄金の光が放たれ、治癒回復浄化の恩恵をジンから受けたんですよ。まさに、診療所で治療されているみたいな感覚でした』
カッツは絶句した。
と同時にルララルーでのことを思い出す。
ジンが光を纏っていたことを。鎮守に大木の力を受けて、こん棒がレベルアップしたと口にしていた。
「……同じ大木でも、もたらされることが違うんだな」
カッツが呟く。
アメリは古代京エリュシュガラの鎮守の大木に絡め取られ、覚醒した聖なる力で魔封じの楔にされた。
ジンはルララルーの鎮守の大木からーー力を与えられた。
「カッツさん?」
ランジが少し悲しげで苦しげなカッツを窺う。
「あ、ああ。なんでもない。言伝は受けた。私がジンを捜してみよう。ちょうど、パーティーは個人活動中だしな」
パーティーの聖女がルララルーの聖女ダンジョンで修行している間、個々で活動することにしたからだ。
同じようなパーティーは多い。
ランジはネバランへ。
カッツは……ギルド二階へ。




