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ジン(第一部終わり)  作者: 桃巴


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ジン32

 ジンは体をバタバタさせて抵抗しようとするが、その手足さえも押さえられる。

 複数人でジンを拘束しているようだ。


『ジン、俺だ、俺。ランジ!』


 耳元で囁かれる。

 ジンは横目で確認した。

 ジンの口を押さえていたランジの手が離され、体が安堵で弛緩する。それで、ランジのパーティーも、ジンに黙礼で謝り拘束を解いた。


「ラン! ウグッ……」

『声を潜めろって』


『な、なんで?』

『お前……』


 ランジが一層声を潜める。


『賞金首になってるぞ』

『っ!』


 思わず声を上げそうになるが抑え込む。


『いや、ちょっと言い過ぎか……WANTED、お尋ね者、行方不明者、こいつ捜してまーす、ってやつに』

『はあっ!?』


 その時、バタバタと関門へ駆けていく小隊。関門周辺が慌ただしくなる。


「飛龍紋の一匹狼が入領したのか!?」


 聞いたことのある声だ。


「俺が絶対捕まえてやる! これで汚名返上できる!」


 ゲオルグだ。


「飛龍紋の一匹狼は(ジン)しかいない!」


『……な?』


 ランジが言った。


『なんでさ?』

『そりゃあ、聖女ダンジョンの報告(あれこれ)から出奔(トンズラ)しちゃってるからじゃないか?』


『あー、まじか……』

『ほとぼりが冷めるどころか、(ねっ)せられてるんじゃね? アッツアツに』


『面白がるなよ、ランジ』


 ジンは脱力した。

 ザナギが便利(マジック)便をザッケカラン全領に飛ばしたそうだ。見つけた奴に金一封ってな感じで。


『とりあえず、俺らと一緒に行動して魔の森に行くってのはどう?』

『うん、それは、ありがたい』


 そこから、飛んでしまえばいいからだ。


『あー、でも冒険食が買えていない』

『おいおい、王都に戻らねえの?』


『ああ、まだやることが……やるべきことが残ってる』

『……そっか』


 ランジが弓士に目配せした。


『ジン、弓士の手袋しておけ』


 勇者紋を見られないようにだ。


『助かる、ありがとう』

『いえ、こちらこそ』


 弓士が笑った。

 聖女ダンジョンのことで、助けてもらったのはランジのパーティーの方だから。


『じゃあ、まずは冒険食調達か。どのくらい要るんだ?』


 ランジが訊いた。

 ジンは考える。全領に便利便が飛んでいるなら、以降の冒険食調達は難しいだろう。

 今回の調達分で、古代京エリュシュガラを攻略し、聖女アメリを解放しなければいけない。

 一カ月弱で町は浄化した。

 本番の主城はどうだろうか?


(ジン、二週間分でいい。いや、二週間でやり遂げろ。それ以上かかれば、居場所を突き止められる)


『二週間分で』


 そう返答したジンの表情がいつになく真剣で、ランジが目を細める。


『何か事情があるのか?』

『ああ。俺にしかできないこと。まだ途中だから、投げ出してまで王都には戻れない』


 残滓の魔核の浄化なら、黄金紋浄化の聖女でも可能だろう。

 だが、幾万という魔核を浄化する力を、今の聖女は持ち合わせていないはず。

 ダンジョンの(いち)階層を領域浄化できる力など。それを階層毎に繰り返す力など。

 ジンのように魔核を突くことも不可能。ある意味、攻撃の手法を聖女は会得していないから。


 だからこそ、聖女ダンジョンが必要なのだ。

 ルララルーのレーリが示した氷柱のような攻撃、ジンが会得した氷柱槍はその例である。


 今、ジンにしかできないことなのだ、古代京エリュシュガラの止まったままの時を進めることは。


『冒険食は俺が買ってくるよ、変装服もさ。皆、ここで待っててくれ』


 弓士がそう言って出ていこうとする。


『待て。今ひとり歩きは、ジンだと疑われてつけられる』


 ランジがそう言って止めた。


『じゃあ、俺も行こう』


 槍士が手を上げる。


『お前の槍、こん棒に似通ってるからもっと(わり)ぃって』


 ランジが慌てて言った。

 そこで、剣士二人が顔を見合わせスッと立ち上がる。

 弓士と剣士二人なら問題ないだろう。


『よし、じゃあ頼んだ』

『任せてくれ。三人は魔の森関所へ先に向かってくれ』




 で、落ち合っての魔の森関所。

 ランジのパーティーとジンの六人で、関所通過に挑む。


「今日も修行か?」


 関所兵がランジに訊いた。


「ああ、毎日鍛錬さ」


 気軽にランジは答え、関所を通過する。


「おや、新入りか?」


 関所兵が大荷物を背負い、杖をつくジンに気づいて訊いた。


「いや、サポート含むポーターを雇っただけ。今回は野営する予定だから。諸々のサポートをしてもらうんだ」


 ジンは、目深に被ったフードのまま関所兵に頭を下げた。背中には大きなリュック。

 本来なら、腰鞄のなんでも入る冒険専用鞄を使うのだが、そうなると魔物討伐後でしか野営準備ができない。


 パーティーが目的(魔物討伐)を果たしている最中に、野営地を準備したりするサポートを依頼することがある。

 さらに、パーティーに随行し魔物討伐サポート依頼もこなす者もいる。

 魔物図鑑で魔物情報を伝えたり、魔核を回収したり、負傷者を回収介抱したり、みたいなサポートだ。


 そう……聖女アメリとカッツが受けたサポート依頼と同じようなこと。


 戦士ばかりのランジのパーティーに、本来は必要な者といっていいだろう。

 だから、疑われずにジンを魔の森へと逃がせるわけ。


「そうか、気をつけろよ」


 関所兵が、ジンの肩をバンと叩いた。

 ジンは首を竦めて反応しておく。


「あー、そうそう。もう知ってると思うが、お尋ね者見つけたら一報を頼む。……威張り(もん)がうるせぇったらなくてさ」


 関所兵が顔をしかめて言った。

 要するにゲオルグのことだ。


「ハハッ、あの老兵は前時代に時が止まったままっすね」


 ランジが苦笑いする。

 それを聞きながら、ジンは前時代に時が止まったままの古代京エリュシュガラを思っていた。





 

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