ジン31
翌日。
ジンは町に向かう。
第二層噴水広場町にではない。
「食料二週間分しか用意してなかったんだよな」
ブツブツと言って、古代京エリュシュガラの関門を出た。
(ジン、どこに飛ぶ?)
ジンはこん棒を地に突き立て思案した。
「王都は避けたい。ルララルーも。今まで依頼を受けてきた町村で、王都から一番遠いのは」
(ネバラン自治領だろうな)
「だよなあ」
国境領だから。
「こっそり行って、また二週間分の冒険食を調達して帰ってこよう」
ジンは飛躍した。
今回の入領はすんなりだった。
特に訝しげに見られることもなく、鼻で笑われることもなく。丁寧な態度だったわけ。
辺境伯までご案内致しましょうか? などと平身低頭に言われ、ジンの方が訝しんだほどだ。
足早にジンは進む。
用事は冒険食の購入だけ。
サッと終わらせて、古代京エリュシュガラに戻り修行を再開したいから。
「あれ、ジンか?」
背後から呼ばれて振り返る。
「ランジ!」
まさかの場所での再会に、ジンとランジは互いに驚いた。
ランジのパーティーも一緒だ。
「なんでここに?」
ジンはランジに訊いた。
「王都研修の者を送り届ける依頼でさ。さっき、完遂したとこ」
あのゲオルグたちだろうか。いや、そうに違いない。
「ジンは?」
「あー、その……ほとぼりが冷めるまで王都は避けたくてさ」
「聖女ダンジョンのことは耳にしたぞ。アーッハッハ。俺らも同じなんだ。あれこれ絡まれたくなくて。王都から一番遠く離れられる依頼を受けたってわけ」
ジンはルララルー聖女ダンジョン一連のあれこれ。
ランジらは奇跡の復活のあれこれ。
ランジは特に、先陣を強制したパーティーが王都に戻ってきたら、間違いなく絡まれるから。
ジンの方はきっと二階行き間違いなしである。
「元を辿れば同じ理由ってことだな」
ジンはウンウンと頷きながら言った。
「じゃあ、ジンの所在は訊かないでおくぜ」
ランジがフッと笑う。
「ああ、そうしてもらうと助かる」
「ま、俺らはしばらくネバランにいるから、暇つぶしがてら訪ねてくれよ」
ランジがギルドを指差した。
地方ギルドは宿屋酒場食堂兼業だから、滞在するのだろう。
「了解。ランジは依頼を?」
地方ギルドの依頼をこなすのか、とジンは訊く。
「魔の森修行も。緊急召集で当初の予定の修行ができなくなってたから。ここで、……ここから始めてみようって、皆で決めたんだ。王都の雑念はここにまでこないだろうし、集中できると思ってさ」
ランジのパーティーが顔を見合わせて、ニッと笑い合っている。
パーティーの剣士槍士弓士らが武器をポンポンと叩いてみせた。
辺境領ネバランは隣国との間に魔の森が広がる。
森には幾つかの小さなダンジョンもあるし、森自体が魔物の住処だ。
何より、あのゲオルグが出した依頼のせいで、勇者パーティーはネバランを避けている。集中して修行できることだろう。
「無理すんなよ」
純聖水で回復したとはいえ大怪我後の修行だから。
「ああ、もちろん。森の入り口付近で体力づくりの気持ちで修行する」
「そっか、頑張れよ」
ジンは冒険食購入後、ランジのパーティーとわかれ古代京エリュシュガラへと戻った。
二週間後にまた再会するのだが……とんでもない事態になっているとは、このときのジンは知る由もない。
で、二週間後。
主城門前にジンは到達していた。
魔核数六の主城門前主を討伐し、一段落したジンは三叉の氷柱槍を三玉に戻す。
領域浄化してから、こん棒を縮めて腰にさした。
「さてと……」
ジンは主城を見上げた。
(ここからが本番だ。中央が三階建て、地下一階。左右の別館が二階建て、地下一階有り。町よりも入り組んだ造りをしているぞ。見逃すなよ)
「金糸があるから見逃すことはないし、領域感知でわかるから大丈夫さ」
ジンは振り返る。
金糸が消えた古代京エリュシュガラの町が眼下に広がっている。
荒廃した都市は変わらずそこに在るのだが、積年の穢れがなくなって穏やかな雰囲気が漂っていた。
心地よい微風がジンの頬を撫でる。
「……腹減った」
(ネバランに食料調達に行くか?)
「ああ、そうだな。ランジたちにも会いたいし」
互いに修行の身。
色々と話せるかもしれない。
「本番前の骨休めに行ってくるか」
(主城攻略前に十分に英気を養っておけ)
というわけで、ジンはネバランに飛んだ。
……関門を通過できたが、前回とは違い何やらジロジロと見られる。いつものことか、程度に感じたがどうも様子がおかしく、ジンは首を傾げる。
「なんか……ちょっと……」
振り返って関門兵を見ると、何やら話している。
チラッとジンを見て愛想笑い。
「さっさと退散した方がいい気がする」
ジンはこん棒に手をかけた……が、その手を押さえられーーグイッと物陰へと引き込まれた。




