ジン21
「映像で見たまんまだ」
ジンは神龍でルララルー上空を旋回している。
ララ村の真正面の渓谷にどでかい物体がはまっている。
ダイヤモンドがそのままはまったような感じだ。いや、上下が逆だから雫が落ちたようなと言ったほうが正しいかもしれない。
つまり、先端が上。底面を渓谷にはめた多角錐。
キラキラと半透明の虹色に光っている。
吊り橋は問題がないようだ。補強しておいたおかげだろう。
勇者パーティーらは、ルラ村とラルー村にわかれている。
ジンは高度を下げて旋回しながら、虹色物体を観察した。ザナギの映像は渓谷にはまった状態しか記録していなかったから、細部を撮影しようと試みる。それが、ザナギからの指示だ。
ランジらは入り口を破ろうとして、氷柱のような突起物に何十本と突き刺されたという。ランジが仲間を庇って多くを喰らったらしい。
それ以降は、勇者パーティーが近づこうとすると突起物が出て侵攻を阻むという。
慎重に近寄る。
それに合わせたように、吊り橋を駆ける金獅子。
「気をつけろよーー、ジーーン!」
カッツだ。
ルラ村からララ村へと繋がる吊り橋から、金獅子に乗ったカッツが叫んでいた。
ジンは軽く手を上げて応えておく。
「……本当にダンジョンなのか?」
あまりにも綺麗すぎる。吸い込まれそうなほどに。
入り口がどこにあるのかと、物体をゆっくり旋回した。
「あれか」
吊り橋の主塔がたつ中洲地、ララ村に接する位置に入り口らしき門が見える。
……都合よくそこに入り口があるわけ。
ララ村に接していない渓谷側なら、勇者パーティーらの侵入は難航するはずなのに。入り口から入られないように阻んでおきながら、ララ村から入りやすいように入り口があるわけ。
ジンはもう一度、上空に昇り物体を見下ろす。
「綺麗すぎて、ダンジョンには到底見えない。どっちかというと聖木の前に鎮座する虹色神殿って言ったほうがあっているんじゃないか。……それでいて、禁足地のよう」
限られた者しか入れない聖地のように。
そう思ったのには理由がある。つい最近、マジックアイテム研究所を上空から見た。あそこも限られた者しかたどり着けない場所だった。
と、そのとき淡い光がララ村を包み出す。
虹色物体の方ではない。鎮守の大木の方だ。
ジンはすぐに鎮守の大木へと移動する。
鎮守の大木の幹、真ん中あたりが木漏れ日のように光っている。
ジンには見慣れた光景だった。
大木の根元で野宿していたジンが、早朝に見上げていた光だったから。その光から『朝露』がポタポタと零れていたのを、小瓶に採取していたのだ。
「なんで、今?」
早朝でなく、昼間に光っている。
その光が上昇を始める。
ジンの神龍はそれを追うように、大木の頂へと一緒に昇る。
上昇光は頂で集まって形を変えていく。
一つ、二つ、三つと三輪が出来上がる。そして、三輪から三つの玉へ。それは、三つ紋のように寄り添って光っていた。
カタカタカタカタ
腰ベルトにさしているこん棒が振動する。
(小僧、こん棒を引き抜け!)
ジンは咄嗟にこん棒を引き抜く。
(装填じゃ!)
『装填!』
ジンはこん棒じじいに言われるがまま、念じた。
カランッ コロンッ カチャン
昨日装填したばかりの崑具の片方に、三玉が収まっていた。
「……どういうこと?」
こん棒の先端、片方の崑具にはまっている。見慣れた色合いで。
緑、青、黄金の玉だ。
聖女の証である三つ葉紋のように。
(チャララララン、こん棒がレベルアップしたぞい!)
「じじい、わかるように説明してくれよ。ってか、チャラララランって何?」
(レベルアップ効果音でも出しておこうかとな)
「で?」
ジンは綺麗な三玉入りのこん棒を眺める。
(見ての通り、聖女の証じゃろうて)
「だーかーらー、どういうことだよ!?」
(はあぁ……本当に小僧は頭が足りんのお。小僧は聖の証を手に入れたってことじゃ。聖女と同じでな)
「つまり……治癒回復浄化?」
ジンの発言と同時に三玉が光る。
昨日口にしたひと雫のように、清らかな力が身体中にみなぎった。
「うわっ、マジかよ……」
ジンの身体は緑青黄金に淡く発光している。全身を縁取りの如く纏う光。
(小僧、ダンジョンが起動し始めたぞ)
ジンはハッとして、ダンジョンへ視線を向ける。
また浮遊し移動を始めたのかと思ったが、ダンジョンはその場に留まったまま。
ただ、上部が回転を始め、階層が目に見えて出来上がっていく。角々した渦巻き貝のような形状へと変容していった。要塞のように。
ジンはその様子を、記録水晶に収める。
上部から下部へと階層ができ、最後に入り口でピタリと止まった。