最終話、そして転生
空が青かった。
学園の草地が広がる真ん中に
大きな木がある。
その根元で、本を開いた。
──魂は空に開放される。
やっぱり旅立ちは外じゃなきゃ!
本から、調子の良い声が聞こえる。
「うん、良い所ね」
ふさわしい。
旅立ちにも、最期にも。
私は本の紙面に両手を付いた。
ジワと黒い染みが心に広がった。
「あー! アスナー! いたぁー!」
聞きなれた声がして、
渦巻き始めた黒い霧が中断される。
ラウルがその青い髪を弾ませて
走ってくる。
「ら、ラウル?!」
「探したんだ。お昼、持ってきたよ」
にっこり笑って、紙袋を差し出す。
いつものように。当然のように。
「あ……今日は、いりません、わ」
「え? そうなの?」
「だから、それ片づけてきて、
今すぐに。ラウル食べていいから」
「え? 今すぐ?」
「あと、私、すっごく眠いの、
ここで少し寝てるわ」
「え? 昼寝するの?
でも、午後から
グリフォンの試験だよ」
「時間になったら、起こして」
「へ?」
一度、ラウルが目をしばたく。
「起こして、くださいまし」
あぁ、ラウルにこうやって、
何か頼むのは久々だ。
「うん、分かったよ!」
ラウルが、にっこりと
嬉しそうに笑う。
「じゃ、これ片づけてくる」
走り出すラウルに、
「あ、ラウル!」
と、思わず声をかける。
「え? なに?」
振り返った、その姿に、
何も言えなくなる。
「な……なんでもない。
気を付けて」
「え? うん……わかった。じゃ」
ラウルが走っていく。
いつも、ありがとう。
その言葉をかける権利は、
私にはない。
──決意は決まったかい?
本の声に、頷く。
「いつでもいいわ」
──じゃあ、始めよう!
出たとこ勝負のお祭りだ!
鬼が出るか蛇が出るか! さぁ
私は本に両手をつく。
大きく息を吸い込んだ。
ブワと私の周りを黒い霧が渦巻いた。
眼球が黒く染まって、
心臓ががんじがらめのまま、
止まった。
私は、本当は、
この世界が嫌いじゃなかった。
みんな、良い人だった。
頭の中に、出会った人達の顔が浮かぶ。
みんな大好き。
「ジル……」
あなたに会えて良かった。
でも、もう良い。もう決めた。
私は、自分の手で、行くんだ!
どこだろうと、行ってみせる!
覚悟を胸に、口にする
その言葉、呪言。
「×××××」
──レッツ! スクランブル!
本の声を最後に、
私の魂は肉体から離れ、
抜け殻となった体は、
その場にドサリと、倒れた。
風が吹いて、私の顔を撫でた。
動かなくなった体の足元で、
本が一冊、パラパラと風で動いていた。
◇◇◇◇
「あああああああああー!
なんて事だ!」
魂の抜けたアスナの前で、
カルアは膝をついた。
「魂が逃げるとかありえない!
ご主人様の復活が! 生贄が!」
カルアは、震える手で頭を抱えた。
魂が無い肉体は腐る。
この体はご主人様の生贄なのだ。
復活に必要不可欠。
なんとしても、魂を、用意しないと。
──やぁ! 魂を求めるそこの君!
その声に、顔を上げる。
失われた禁書のその本が、
そこに落ちていた。
反射的に、本を拾い上げる。
そうだ、魂を、召喚しなくては
──僕と出会えるなんて運が良いね!
魂を呼び出したいんだろう?
「出来るんですか?」
──リスクと、代償を払えばね。
「えぇ。私の心でよければ、
いくらでも!」
──いいね! 魂だけの体で、
言える事じゃない。
失敗して別世界に
投げ出されないと良いね!
「リスクは承知です!
ご主人様のためなら、
なんでも払います」
──どの世界とつなげようか?
「どこでも良いです。そんなのは」
適当な魂さえあればそれで。
──じゃあ、つなげやすい所に。
さぁ、始めよう、レッツ!
黒い霧が噴き出して、
カルアの目が黒く染まる。
口にする。その呪言。
「×××××」
──スクランブル!
◇◇◇◇
「あれ? アスナ、もう寝たの?」
戻ってきたラウルは、
木の根元で眠る、幼馴染の姿を見た。
気持ちよさそうな顔で、笑って。
「もう。午後から試験だからねー」
弾んだ声で言って、
ラウルも、その隣に横になった。
心地よい風が吹いて、
2人の顔を、撫でていく。
どこからか、魔獣の声が聞こえた。
木々がさわさわと揺れて、
木漏れ日が、動く。
真っ青な空の向こうで、
スカイドラゴンが、
ゆうゆうと、横切って行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
最後まで読了ありがとうございます。
この話はこのまま、作中ノータイムで
【完結】社畜独女、モフモフしたいビーストテイナー養成学園転生生活、ケモ耳、有翼人男子に愛され過ぎて眠れない!
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に続きます。(完結済み)
そちらも、ぜひお楽しみ下さい。
※ジルもラウルもココもカルアもお兄様も
活躍するよ。
少しでも楽しんでいただけましたら、
下の☆☆☆☆☆で評価を下さるか、
『一言感想』してお伝え下さると、
大変嬉しいです。
続編、関連作、望む声お待ちしています
これからもよろしくお願いします。
では、次回予告です
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『次回予告』
働きすぎて死ぬなんて、思ってなかった
「ねぇ、私の名前って?」
「え? アスナ・クラウジットだけど」
「ここは? どこ」
「セルディア魔獣学園。
ビーストテイナーの養成学校」
「つまり……モフモフし放題!」
※この次回予告は
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の第1話です。
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皆さま、お疲れ様!
皆さまに幸せが訪れますように
モフモフー