幕開け
Twitterでもお話しした通り、今年一杯は更新が限りなく遅くなります。
待ってくださっている方、申し訳ないです。
更新できるときは精一杯頑張るのでよろしくお願いします!
「マジなんだな...マジなんだな!!」
生徒会の呼び掛けで全校集会が開かれたその最中。
俺は田中の嬉しそうな声をBGMに生徒会長の話を聞いていた。
「...では、企画立案担当の桜井さん、お願いします。」
壇上の生徒会長が一歩引いて桜井さんが一歩前に出た。
マイクを通して息を吸う音が微かに場の空気を揺らして、桜井さんは口を開いた。
「おはようございます、今回の企画立案担当の桜井です。」
澄んだ、流れるような声が響いた。
「ずばり!文化祭をしようというお話です。」
楽しそうに口角が上がった口の動きと、一瞬遅れてその声をスピーカーが届ける。
「とあるクラスからの提案を私が全校でしようと思ったのが今回の企画の始まりです。...とは言ってもそんな堅苦しいお話じゃなくてみんなで文化祭やろー!ってことです!!以上!!...って話を切りたかったんだけど、カイチョーに怒られそうなのでもうちょっと堅苦しいお話ししまーす。えっと、まず日時ですが...」
桜井さんはクルクルと表情を変えながら、さも話すことが楽しくてしょうがないといった風にマイクを握る。
俺はそのマイク特有のノイズですら煩わしく感じながらじっと桜井さんの声を聞いていた。
文化祭の説明がされる中、みんな企画への反対はないようで、既に何をしようか話している人もいるようだった。
全体的に気色だっていて、盛り上がりそうな気がする。
段々と体育館が騒がしくなってきた頃、ちょうど桜井さんの『堅苦しい話』が終わったようだ。
「...で、以上です!!えーっともう授業もないし、今日から開始しても~...」
桜井さんが一瞬チラリと後ろの生徒会長を振り返った。
「大丈夫みたいです!それではみなさん、節度を守ってはっちゃけて、最高の文化祭にしましょう!!以上です!!」
話が終わったとたんざわつきが一気に爆発した。
大音量の声で埋め尽くされて体育館の中を反響している。みんな文化祭が楽しみで仕方がないのだろう。
俺たちのクラスは早々に体育館を出始めていたので、俺もそのあとに続いた。教室に戻る間も俺と田中は興奮ぎみに文化祭について話した。
..........................
「はいはーい、楽しみなのはわかるけどまず順番に決めてくよー!」
クラス委員が手を叩いて話始めた。
「まず、なにをするかだけど...」
「お店!」
「劇!」
すかさずあの二人が同時に手をあげた。
またいがみ合いが始まりそうな雰囲気だったが、
「はいはい、夫婦喧嘩はおいといて、他に何か意見が無かったらこれで決めようと思うんだけど?」
さすがのクラス委員の采配で途端に二人は真っ赤になって黙ってしまった。
そんな様子に関係のない俺たちはひとしきり笑ったあと、特に意見もなかったのでその二つで多数決を取ることになった。
結果は店の圧勝。
早速次は何をするかなどの話し合いが始まる。
ここら辺の団結力は流石の物だと俺は思う。
みんなの話し合いを眺めるだけのモブに俺がなっているうちにどうやら内容は定番のメイド喫茶で落ち着いたようだ。
「男子も!やるんだからね!!」
なんだか楽しそうな女子達。
「えー、女子がやるもんじゃねぇのー。」
満更でもない男子達。
...の中に俺も入っているんだけど。
次に決まった班で俺は料理ができないので衣装班に。
田中はああ見えて何かと器用だから料理班。
そうやって全員で決めないといけないことが決め終わると次は班毎に集まっての話し合いになった。
「えっと、じゃあ私たちは衣装担当な訳だけど...何系でいく?」
「はいはーい、質問!何系ってどんなのがあるんですかー?」
女子達はなんとなく分かってそうだが、俺たち男子はさっぱりわからない。
「んー、例えば女子の衣装ならフリッフリの可愛い系とか、シックなゴシック系とか、かなぁ?」
あーそういう感じね、とでもいうように俺たち男子は頷く。
フリッフリの可愛い系は本物のメイド喫茶のあれのことだろう。...いったことはないのだが。
「じゃあフリッフリのでいこうぜ!」
鼻の下を伸ばして明らかに下心満載な感じで一人が言ったが、
...ん、でも待てよ?それだと...
「あ、ちょっといい?可愛い系でもいいんだけどさ、その場合の男子の衣装は?...まさか男子もフリッフリ?」
途端に笑い声が弾ける。
「た、確かにそうね。三島くんの言うとおりよね。...あ、それでもフリッフリ着たい男子いる?」
その言葉にいつも騒いでる男子が
「ち、ちょっとだけネタで着てみたいかも...」
と、少しだけ残念そうだったが、
「まぁでも!やっぱカッコいい...こう、タキシードっていうの?みたいな奴も着たい!」
と納得しているようだ。
「そうね、じゃあ自ずと女子もそっち路線ね。」
「メイドさん系だよねー。でもあれ一から作るの大変...っていうか無理よね。」
「確かに。でもお店にそうそう売ってるとも思えないし...。」
どうやら女子同士の相談タイムになったようなので暇になった俺たち男子はそっと教室を抜け出した。
............
中庭のベンチに衣装班男子で座る。
回りをみると他の学年か他のクラスか、文化祭の準備に早速取りかかっていた。
「次俺たちが呼ばれるのって作業から始まってからだよな。」
みんなして頷く。
「手伝いてぇけど、俺たちに服のセンスはねぇしな。」
またもみんなで頷く。
心地よい風が回りの喧騒を運んでくる。
「あ、お前ら文化祭誰かとまわんの?...衣装だし当日はなんもないやろ。」
一人が空を見上げて言う。
「いや衣装着て時間交代で接客するだろ。」
「それもそうかー。...でも大抵暇だろ?もう決めたの?」
誰となく話を振っているようだ。
「俺は...回りたいところ回る予定。主に食い物系。」
左隣のやつが話始める。
「お前は?」
「俺は....2組の山口と。っていうなサッカー部の連中と。」
そのまた左隣のやつが話す。
「俺は未定。...たぶん教室にいる。」
「えーそれつまんなくね?行きたいとこないん?」
「んー、っていうかまだ何があるかわからんからなぁ。」
「お、じゃあ俺と回ろうや。」
時計回りに話が振られてきて次は俺。
「お前は?悠。」
「いやー悠は決まってるだろ~。桜井さんじゃね?」
と、冷やかし半分の目を向けられるが
「どうだろ、向こうから誘ってくれたらかなぁ。」
軽く流して答える。
「またまたぁ。みんなエンリョしてんだぜ?俺だって桜井さんと...」
体をクネクネさせながら正面のやつが言う。
「お前それキモいって...。でも実際あんなラブラブな姿見せられたら誰も近づけねぇって。」
そう言われてもなぁ。自分からはなんとも言い難いのがもどかしい。
「じゃあ気が向いたら誘ってみるよ。」
「おうおう!じゃあフラれたら俺に教えてくれよな!誘ってみっからさ。」
フラれる、という言葉に一瞬反応しそうになるのを堪えて
「そのときはな!...さ、教室戻ろうぜ、そろそろ手伝えることがあるかも。」
俺達は立ち上がった。




