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スケープゴート  作者: 山本正純
解決編
36/36

最終話

 平成二十年四月九日。合田が刑事部長室の椅子に座る千間刑事部長の前に立つ。

「郷里忠吾という裁判官が殺害された事件の犯人を見つけたそうだな」

 千間が合田に尋ねる。すると合田は首を縦に振った。

「真犯人の柳楽新太郎は郷里の胸倉を掴んだという犯人しか知りえない事実を知っている。だから捜査一課では柳楽を犯人とみて事件の裏付け捜査を進める予定だ」

「そのことだが、北川律と瀬戸内平蔵検事は証拠不十分で釈放されることになった。まだ北川は入院中だから手続きは退院後になる」

 予想外の言葉に合田が驚く。

「なぜだ」

「先日逮捕した戸谷信助は過失致死罪で送検する。柳楽新太郎は殺人容疑で送検されるだろう。だが北川律と瀬戸内検事は法で裁けない」

「北川律は郷里と取引をしようとしていた。これは犯罪行為ではないのか。瀬戸内検事は柳楽の犯行を黙認したし、北川と柳楽の二人に違法行為をするよう強要した。これも犯罪行為になる」

「北川と郷里の取引。瀬戸内検事の犯罪行為。それに関わる物的証拠がないから、送検も難しい。いいじゃないか。殺人犯が逮捕されたんだから」

 千間の言葉に合田は反論できない。だが合田には切り札があった。

「佐藤高久裁判長が関わったとされる東京地方検察庁の天下り先の裏金造りという不祥事はどうなる」

「証拠品がハッキングという違法行為で発見された物だからこちらも送検は難しいだろう。そのデータがいつハッキングされたものかは分からないが、佐藤高久の息がかかった人間がいずれ証拠データを削除する。そうなれば証拠がない。分かったな。送検するのは柳楽新太郎と戸谷信助。この二人を逮捕すれば事件は解決する」

 合田は苦渋を味わう。いくら不祥事を暴いたところで、警察組織上層部の人間が相手になると合田達は無力になる。

 合田は千間刑事部長の指示に従い、二人の送検の手配を進める。


 警察庁の官房室長室のソファーに瀬戸内検事が座る。机を挟んだ先には倉崎和仁官房室長が座っている。

 瀬戸内検事は机の上にUSBメモリを置く。

「これは佐藤高久が隠蔽した不祥事の証拠です」

「それは警視庁に押収されたと聞いたが」

「あれはフェイクです。こちらは合法的な方法で東京地方検察庁のコンピュータにアクセスしてコピーした物。このデータがあれば確実に佐藤高久は失脚します」

 倉崎和仁官房室長はUSBメモリを手にして、それをスーツのポケットに仕舞った。

「今回の事件で獄中死した岸野を不祥事隠蔽のためスケープゴートへ仕立て上げたという事実が判明。これで獄中死した岸野もあの世で救われるだろう。ただ田中冨喜子の自殺は想定外だった。それだけ贖罪に苦しんでいたということだろうね」

 数秒間の沈黙が官房室長室に流れ、瀬戸内が口を開く。

「ところでなぜ倉崎官房室長は佐藤高久の失脚を狙っているのですか。捜査一課三係の刑事たちを利用した目的は何でしょう」

「佐藤高久が裁判を私物化しているのは知っているな。そんな風習が根付けば裁判不審が強まってしまう。その前に彼を排除して、法務省に恩を売ろうとした。ただそれだけさ」

 倉崎はポケットに仕舞ったUSBメモリを握りしめ、頬を緩ませた。その直後倉崎は疑問を口にする。

「ところでなぜ被害者遺族の柳楽と加害者遺族の北川を会わせた。二人が出会ったらどうなるのか。分かりきったことだろう」

 その倉崎の問いを聞き瀬戸内は白い歯を見せる。

「関係ないでしょう。私はただ真実が告発されれば良かった。そのためには犠牲は必要でしょう。田中冨喜子の自殺も真実を告発する犠牲と考えていますから」

 瀬戸内が不敵に笑い、二人の密会は終わりを迎える。


 事件解決から一か月後。世間を震撼とさせるニュースが届いた。

『佐藤高久裁判長。裁判を私物化して辞職へ』

 新聞の一面に掲載された衝撃的な見出し。新聞記事によれば警察庁幹部の告発により佐藤高久の不祥事が告発され、そのまま裁判官の仕事を辞職したらしい。

 古い日本家屋の和室に立っている佐藤高久は新聞を破る。バラバラに破られた新聞紙が空中を舞う。

 

 平成二十五年七月一日。白いヤンボルギーニ・ガヤンドが都内の道路を走る。

 運転席に座っているのは愛澤春樹。その隣の席には同居人の日向沙織が座っていた。

 神奈川県横浜市へと向かう車内のラジオでニュースが流れ、自動車が時速60キロで進む。

『柳楽新太郎被告の初公判が東京地方裁判所で行われ……』


その裁判のニュースが伝えられる中、突然愛澤のスマートフォンにメールが届く。

 偶然信号が赤信号へ変わり、自動車が停まる。

 それから彼は、ポケットからスマートフォンを取り出し、メールの文面を読む。そのメールの差出人はテロ組織『退屈な天使たち』のボス。

『ガブリエルの復讐が始まる』

 そのメールを読み、愛澤は頬を緩ませる。

「そろそろ偽りの同居生活を終わらせましょうか」

 愛澤が呟くと信号が青に変わり、彼は自動車のアクセルを踏んだ。



山本正純執筆生活4年目突入記念作品。

混沌とした世界の中でシリーズ第20弾。


同時多発広域連続殺人事件発生。

現場から発見されたのは、盗まれたはずの宝石。

山本正純が中二時代に書いた作品が遂に蘇る。


『罪と罰』


4月12日午前7時から連載開始。

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― 新着の感想 ―
[一言]  罪と罰 読んで、そこから来ました いろいろ裏も裏裏も癖も事情もある御方々様達、 面白いです、ありがとうございます(〃∇〃) \(^o^)/! 応援!|ू•ω•)っ☆☆☆☆☆!☆!
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