勇者のお忍び①
この教会本部に来てから、皆んなが私の世話を焼いてくれる。
もともと、世話係であるミーナとイレーネは、何かある度、私を可愛がってくれているのが伝わってくるのだが、エリオット様、レオン様に至っては、可愛がっているというより、それを通り越して、過保護が過ぎるくらいだ。
私たちの訓練の内容が変わる度に、甲斐甲斐しく問題がないか、上手くやれるか、その剣の一振り、魔法の一発を試す度、逐一確認してくるのだ。
きっと、私のことを5歳児のままにみているのだろう。この場所に来た時より、だいぶ筋肉も付いて、歳の頃よりもしっかりとした骨格が出来上がっているというのに、2人にとっては以前のままの、痩せっぽちのイリスのままなんだと思う。
だからこそ、他の皆んなにとってもそう見えているのではないだろうか。10歳にもなったというのに、心配症な人たちに愛されていることは幸せだと思う。
なんだったら、最近はセシルやガレス、そしてラウルが私の住環境をしっかり管理してくれている。。
ああ。何ゆえ、こうなったのか、、、
「イリス様。。また、なんだね。。」
「うぅ、、、、いや。片付けようとは、思ってました。けど、ほら。ここにあると、直ぐ、読めるでしょう??」コテリ、首を傾げながら言い訳をしてみる。だけど、彼にはこの攻撃は意味がない。。ラウルが厳しい顔をして、私は小言をもらうのだ。
可笑しい。
ラウルを攻略してしまったと思っていたが、勘違いだったのだろうか??
などと、現実逃避に勤しむが、攻略をしてしまったといっても、まだまだ私に対して意見を言うくらいには盲目的なものではないし、常識的だ。
むしろ、最近はお兄さん的立ち位置で世話を焼いてくれている。フランクになったのだ。それだけである。
だから、部屋の片付けをしない私に、説教を垂れてくれる、、、12歳となった彼は、身長がグンと伸びて、まるでゲームが始まる頃の銀髪で青眼の爽やかイケメンの姿に近づいている。そして、ゲーム以上に、頼りになるお兄さんだ。いや、皆んなのお母さんである。そう、豪語したくなるくらい、彼は、しっかり者に成長している。お調子モノの設定は、どこにいったのだろうか、、、??……私の性格が、本来と違うせいなのだろうか、、、?こんなにキッチリとした彼となった理由。
これがセシルとガレスなら、然もありなん、私が望むことだから、と納得をしだすのだが。。。なんなら、そんなところに口は挟まない。
言葉のとおり単純な過保護で、食事を摂らないと痩せてしまうと、山盛りのお米を盛り付けてきたり、クシュンとしただけで、厚手の洋服を持ってくる。。。
いや、まぁ。。。彼らが私室の本棚を見た時は、泥棒でも入ったかと、騒ぎにされてしまったが、、、、
閑話休題。
ラウルとは、世話を焼く内容がとても違いすぎるようだ、、、
ラウルはまだまだ、しっかりと私の成長を手助けするお兄さんキャラのままではあるのだ。そこはまぁ、良かった、、、?のか??
「はぁ。以前もその様に言って、片付けていなかったね。……流石に、これは積みすぎだよ。貴重な本も傷んでしまう。ちゃんと、片付けよう?難しいなら、ミーナさんやイレーネさんに、相談してもいいし、俺も手伝うから。。。」
いや、待ってほしい。言い訳をしたい。私の部屋は、基本的にミーナやイレーネが片付けをしてくれる。なんなら、寝室まで起こしに来てくれるし、その後の身なりの管理もしてくれている。
だけど、私室の中でも読書スペースにしている一室にある私のパーソナルスペースまでは、手をつけない。私一人で寛げる空間を残してくれている。
やはり、気の利く大人だからか、私の成長を妨げないためか、自由にするところはさせてくれているのだろう。その部分があの本たちを置いているところだ。
だから、という言い訳をしてしまうが、彼女たちから注意は受けたりしていないし、強制のお片付けには至っていない。ましてや、私にとっては意味のある配置なのだ。
ああ、しかし。
『イリス様。そろそろこちらのお部屋。お片付けを一緒にしませんか??』
苦笑しながら、ミーナが進言をしてくれることは、あった。。。イレーネに至っては、これが、勇者である私が望む部屋の配置なのだと、わかっているためか、、、
『イリス様。貴女様がされたいことを手助けするのが、私の役目です。そうされたいのならば、止めることは出来ません。。。』
少し、寂しそうに眉尻を下げているところに申し訳なさが募るけれど、できれば、ここだけは死守したい。
だって、本が好きな時に、読めるのだ。ここにある本は、全部いつでも読める私だけの本。私の欲しい情報を仕入れられる貴重な情報源。いつでも、読みたいと思うだろう?
……。前世からオタクであった私の趣味なのだ。それに、本が積んであること自体が、安心するのだ。
今世での私は、生みの親から、ぞんざいな扱いを受けていた。ましてや、本などの知識を得られる手段も与えられていなかった。
……拗れたのだ。元々のオタクの気質が、知識を得られないという恐怖に。。。何時でもそこに、手に取ることができる位置に知識を置いていたい。そんな、焦燥に。。。
だから、許してほしい。
そう、ラウルにも言えるなら良かったのだけど。流石に心配をさせるので、片付けが苦手と周りに認識させているのだ。
ゆえに、周りの呆れ具合に申し訳なさを感じている。
いつか、この感情までも伝えられる日がきたらいい。そう、思っている。
「まだ、読んでる途中のものもあるから。。。もう少ししたら、ちゃんと、片付けるので。待って??」
「…もう。前も、そう言って片付けていなかったよ。。。?この山が崩れる前に、ちゃんと、片付けるんだよ??」
やれやれ、そう言うかのように首を振りながら、私を嗜めるラウル。本当に、しっかり者のお兄さんに成長していて、嬉しい限りだ、、、
そう、心の中で現実逃避を試みることにした。。。
世話を焼いてくれる。。。これは、ラウルたちだけではない。
先ほど、皆んなが世話を焼いてくれると話したが、これは街中の人たちもそうである。
たまに、ラウルやガレスと外出をすることがある。そんな時、街の人たちが私に声をかけてくれる。
「勇者様、串焼き一本どうだい?栄養つけなきゃ、魔王も逃げてくれないよ?」
串焼き屋のお兄さんが、差し出してくれるのだ。それだけではない、果実水を売るお婆さんからも、、、
「イリス様。今日は暑いから、水分をお取りなさい。ほら、うちの果実水は絶品だよ?」そう、タダで渡そうとしてくれる。そして、屋台屋を通ると色んな店の人が差し出してくれるものだから、手でも抱えきれなくなるのだ。
街の人々が、私を心配して構ってくれるのだろう。見た目がまだまだ小さいからか、細く見えるからなのか、弱々しく感じるのか、構ってくれる。
幼子の役得か、勇者の役得か、ラッキーな気持ちでいたのだけど、流石に一緒に出掛けるラウルが私に。
「イリス様。流石に毎回は貰いすぎだよ?教会の方で支払い用の金銭を幾分か準備してもらっているから、その硬貨を使って買うんだ。」と嗜められてしまった。
ガレスについては反対に、私が勇者であることから、周りが施すことを是としている節があり、受け取ることを拒否する事こそが、施す民の気持ちを否定することになると、主張していた。
まぁ。経済を回すならお金を使わなくてはならないから。。だけど、それよりも。
日頃施しを受けている教会に属するラウルが経済を考えて、騎士である王国側のガレスが、施しを是としていることに、少し驚いたが、まぁ。
ガレスだからな、なんて思ってしまうのだ。
ガレスは勇者である私を盲目的にみているし、ラウルは少し周りと違うくらいの子どもとしてみているのだろう。だから、勇者が施されるのは、当たり前。子どもに物に価値があることを教えることは当たり前。そう、2人の中で違いがあるんだろうと思う。
まぁ、それはそれとして。。。
皆んな、私に世話を焼いてくれるから、感謝しても仕切れないくらいに、恩が出来たと思う。
だから、ということもないけれど、せっかくお金もあることだから、日頃の感謝を込めた買い物に、バレないように出掛けようと考えていた、、、




