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第1章第9話・粘り憑く『東京襲撃事件・5』


「尽守坊ちゃんは自害! 一番強い奴は神閃隊に敗走したそうです! それと――」


 社員の声が機械を通して耳に入り、勝守は思わず立ち止まった。


 先導していた愛依はそれに気づいて止まり、浮遊移動を止めて勝守に歩み寄った。


「…………。兄さん……。自害したそうです……」


「そうですか」


「区内の粘魔の全滅を確認……。会社敷地内に移動せよ。とのことです……」


「そうですか。では、御言葉に甘えましょう。冷器を振り回すだけの贋作とはいえ、頑丈でしたからね。私も疲れました」


「……はい……」


 2人が踵を返すと、勝守の耳に再度通信が入った。内容は、


「敗走した首魁の1人を第1粘魔防衛班が深追いした為、防衛班の担当区域へ帰還するまでに時間が掛るのは否めない。また、深追いは想定外なので、担当区域の残存戦力も心許無いと言わざるを得ない。弾童カンパニー担当区域内の粘魔の全滅は、こちらも確認済みである。よって、弾童カンパニー所属の両名は、直ちに第1粘魔防衛班の担当区域へと急行するように」


 との事だった。


 勝守はすぐに了承し、2人で担当区域へと向かった。




 対粘魔用の小銃を構えて対粘魔軍の歩兵たちが発砲するが、神閃と瓜二つの粘魔は籠手を肥大化させて、強引に近づいた。


 神閃には、籠手に魔力を集めることで、籠手を基点して半透明の円形大盾を形成することができる機能が備わっている。


 籠手も粘魔なので対粘魔小銃で壊せるのだが、肥大化した籠手だけを壊しても粘魔は止まらない。


 神閃型粘魔は両手に持つ2つの剣で歩兵たちを殺害すると、剣や胴体に付いた血を吸収した。


 そして次の獲物を探そうとしたのだが、その前に、黒い蝶の大群が自身に向かって飛んできた。


 この蝶はただの蝶ではなく、愛依が闇属性魔法『群蝶・死突(ぐんちょう・しとつ)』によって形作られた蝶である。


 神閃型粘魔は籠手で防ごうとしたのだが、蝶に触れた部分は簡単に消滅していき、瞬く間にこの個体は消滅してしまった。


 愛依と、遅れて到着した勝守が戦死した歩兵を一瞥すると、2人の耳に通信が入った。


「初めまして、弾童カンパニーの方々。私は防衛区域の担当指揮官です。現在、動ける歩兵たちを千鳥ヶ淵公園に集結させています。そこに粘魔が集まれば、諷上愛依さんのチューリップキャノンで一網打尽にしてください」


「諷上愛依、了解しました。闇属性魔法『群蝶・押歩(ぐんちょう・おうほ)』」


 空中に顕現した黒い蝶の大群に自分たちを押させて、2人は千鳥ヶ淵公園へと飛び立った。


 無駄口を叩けるのであれば、


「さすが軍隊ですね。恐らく少なくない死傷者が出ているにも関わらず、公園に粘魔を集めるほどの統率力がまだあるとは……」


 と愛依が称賛したり、


「私は千鳥ヶ淵公園に行ったことが無いんですよ。愛依さんは?」


 と勝守が聞いたりしただろう。


 しかし2人は事態の深刻さが分かっているので、そのようなことは言わず、現在いる港区から更に北へと向かって行った。


 千鳥ヶ淵公園が目視できる距離まで近づくと、魔力重戦車型の粘魔が公園の中央で機銃を乱射していた。時々皇居へ向けて砲撃しており、それは皇居防衛隊の魔力障壁で防いでいた。


「こちら誘導班。千鳥ヶ淵公園へ誘き出す作戦は成功したのだけれど、誘き出された粘魔の1体が大破した魔力重戦車を吸収して、それに変形したの。アレを最優先で倒して頂戴」


「了解です。勝守さん。アレを倒すには四四連鬱金香筒が最も確実だと思いますが、急発進されたら範囲外に逃げる可能性がありますよね?」


「そうですね。魔力重戦車型と同じ急発進ができるのなら。ですがね」


「なので、私が撃つ準備を整えている間に、勝守さんは『アースン・ファング』で粘魔の履帯を止めてください」


「なるほど。さすが愛依さん」


 勝守は地面に着地すると足から地面に魔力を送り込み、魔力重戦車型の足下に広い魔法陣を描いた。


 魔法陣からは牙が突き出て、魔力重戦車型の履帯や転輪を噛んだ。


 魔力重戦車型は逃げようとするが、蒼天騎鎧によって強化されたアースン・ファングから逃れることはできなかった。


 しかし、転輪と牙が擦れる音が思っていたより煩く、そのせいで自分に近づく神閃型粘魔に気づけなかった。


 歩兵たちは気づけたので、勝守を守る為に発砲して消滅させた。


「音声入力。四四連鬱金香筒。発射します」


 浮遊剣身を組んで作った筒から黒色の爆風が噴き出すと、爆風に飲み込まれた魔力重戦車型は消滅した。


「続きまして、闇属性魔法『群蝶・獄風(ぐんちょう・ごくふう)』」


 愛依を中心に広い範囲の地面が黒く染まると、そこから無数の黒い蝶が螺旋を描きながら飛び上がって来た。


 いつまでも黒い蝶が飛び上がり、帰還途中で現在杉並区に入ったばかりの第1粘魔防衛班から見れば、まるで漆黒の竜巻に見えた。


 公園内外にいた粘魔が全て消滅すると、滞空時間が過ぎて地面に着地していた愛依は、長い溜息を吐いた。


「ご苦労様です、諷上愛依さん。御協力に感謝します。第1粘魔防衛班が杉並区に入ったと連絡を受けましたので、後は私たちにお任せくださって大丈夫です。直ちに弾童カンパニーへ帰還してください」


「分かりました」


 愛依の返事の直後に勝守が歩み寄り、もう一度『群蝶・押歩』を用いて空を飛んだ。


 飛んでいる時、愛依は勝守に声を掛けた。


「勝守さん。あなたには感謝しています」


「感謝……ですか? 命を賭けて戦っているのに、ですか?」


「私は元々対粘魔軍人になる事を目標にしていました。それは負の結果ではありません」


「なるほど」


「ですが、この蒼天騎鎧を身に着けられなければ、私は満足に戦えませんでした。いま使っている押歩は、生身のままでは10メートル弱しか飛べません。千代田区から大田区まで飛べるだなんて、夢にも思いませんでした」


「わ、私だって……。生身の私のアースン・ファングじゃあ、戦車なんて止められませんよ」


「死突は3匹しか出せませんでした。獄風は発動すら出来ませんでした。そんな私が、ここまで役に立てるのは、あなたが私に声をかけてくださったからです」


「作ったのは皆で、私はデザインとコンセプトだけですけど……。まあ、発端はそれですね。確かに」


「まだ改良の余地はありますか?」


「そりゃあ、ありますよ! 科学技術が常に進化し続ければ、蒼天騎鎧も進化し続けることができるんです! 兄さんの双魚宮を見て、私の両肩に小筒を乗せる案を頭の中で精査しているところですよ!」


「私の浮遊剣身を増やすことは出来ますか?」


「そうですねぇ……。愛依さんは16本全てを完璧に操れているので、増やしても良いかもしれませんね!」


「では、数はお任せしますので、それを並行してお願いします」


「任せてください! この調子で、ドンドン要望を出してください! この弾童勝守! 愛依さんの為ならば、粉骨砕身の努力を欠かさずに研鑽を重ねてみせましょう!」


「ありがとうございます。……では、1つ。要望ではなく、疑問点なのですが……」


「何でしょう?」


「どうして『勝守』さんは『ショウマ』さんなんですか? お兄さんと弟さんの名前から考えて、マサルとか、カツルの名前の方が統一性はあると思うのですが……」


「それは……ですね?」


 そもそも、次に生まれてくる子の名前は、護守にしようとしたのだ。


 しかし、時が経って胎内には双子が宿っていることが判明した。


 双子だとは思ってなくて、尽守や護守の名付け親である会長は喜ぶばかりで、他に考えていた名前の案を忘れてしまった。


 紙に書いていたのだが、その紙も紛失してしまい、探せども見つからなかった。


 そこで会長は名付けの権利を息子の先守にではなく、お腹を痛める房子に譲ったのである。


 突然のことなので房子も戸惑ったのだが、窓を見て『龍田寺勝魔(りゅうでんじしょうま)』という名の美形俳優の名前を思い浮かべた。


 そこから勝守を提案し、マサルとマモルでは紛らわしいということで、マサルではなくショウマになった。


「……意外な理由ですね…………」


「は、母は美形俳優を見る為にドラマを見るような人でしたから……」


「そうですか……」


「び、美形俳優が出てくるまではそうではなかったんですよ!? それまでは筋肉が好きな母だったんです! 父と結婚したのも、父の逞しい筋肉が好きだったからで……!」


「……その割には……。勝守さんの筋肉はそれほどでもないですよね」


「これからですよ!! ちゃんとやってるんですよ! 途中で椅子に座って考えた案を書きまくってしまうだけで!」


「じゃあ、無理ですね。諦めましょう」


「……。綺麗に一刀両断された気分です……」


「大丈夫です。私はあなたの事が好きですよ?」


「本当ですか!?」


「はい。なので、これからも私を含めた人たちの役に立とうと精進し続けてください。その姿が1番好きですから」


「任せてください! その努力には自信があります!」


 喜ぶ勝守の顔を見て、愛依は考えた。


 もしかして、私の顔が好みだったから、私に声を掛けたのだろうか。と。


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