表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/186

95話 王都脱出①~女子率が高いと、女子会みたいだ。




   ──サラ──



 大魔導士マラヴィータは、外見だけでは実力は判断しがたかった。くたびれた老人にしか見えない、というのが正直なところだ。

 いまもソファに腰かけ、深々と溜息をついている。よほど長旅が堪えたらしい。


 しかし、どこから来たのだろう、とサラは疑問に思った。

 ラプソディの危機に駆け付けたのだとしたら、魔王城から半日で移動してきたことになる。馬などでは不可能だ。

 ということは、ワープ系の魔法を使えるのだろうか。


 ハニは、マラヴィータが来たのでもう安心、という様子だ。


「マラヴィータ様なら、ボクたちをラプソディ様のところへ、連れて行ってくださるよ。そうですよね、マラヴィータ様?」


 マラヴィータは煙草をくわえ、魔法で火を点ける。紫煙を吐き出してから、言った。


「ハニ、よく聞け。お前さんがこれから仕えるのは、アデリナ様だ」


 ハニは信じられないという顔をした。


「アデリナ? どうして、魔王さまに勘当された奴が出てくるのさ」


「魔王サイラスは崩御された。そしてアデリナ様が、魔王を継がれたのだ」


 ハニは敵意の眼差しを、マラヴィータへ向ける。

 サラは、ハラハラしながら会話を見守っていた。

 マラヴィータは、ハニが望んだような援軍ではないようだ。だとすると、この状況をどう解釈するべきなのか。敵を招き入れてしまったことになるのか。


 マラヴィータからは、敵意は感じられない。激しい戦闘を終えたばかりのように、疲れて見えるだけだ。


 ヒーラーであるサラは、ハッとした。

 実際に、マラヴィータは激しい戦闘を終えたばかりなのかもしれない。回復魔法で負傷は癒せても、削り取られた体力は、なかなか戻らないものだ。


 そんなマラヴィータは、灰皿を探していた。だが、もとの家主であった男爵に喫煙の習慣はなかったようだ。仕方なさそうに、煙草の灰をテーブルに落とした。

 それから、諭すように言う。


「ハニよ。新たな時代を切り開くには、若い血が必要ということだ」


 ハニが声を荒げる。


「それなら、ラプゾティ様こそが、魔王を継がれるべきじゃないか。アデリナは、ただの王位簒奪者だ!」


 階段を軽やかに駆けあがって来る者がいた。


「食糧を買うのに苦労したよ! こんな時間じゃ、どこのお店も閉まっているのよね!」


 夕飯の買い出しに出たという、ローラの友人だ。

 サラは初めて会う冒険者だった。

 意外なことに、ハニとは知り合いのようだ。


「げっ、冒険者ルーシー。ラプソディ様から、レイを寝取ろうと企んだ悪魔」


 ルーシーは唖然とした様子。


「それ、冤罪もいいところ!」


 マラヴィータが立ち上がった。


「さて、儂には与えられた仕事がある。新しい魔王は、この老体にも容赦せんからな」


 ルーシーが、夕飯の材料を床に置いた。


「あなた、大魔導士マラヴィータね。ところで、邪神官ハーンは元気?」


「今頃は黄泉の国だろう」


「そう、死んだの。残念。あたしが、この手で倒したかったのに。以前、魔王討伐パーティの仲間のほとんどを、ハーンに殺されたから」


 サラは右手を伸ばした。部屋の隅に置かれていた〈天使の杖〉が飛び、サラの右手に納まる。


「大魔導士マラヴィータ。あなたは、アデリナに言われて、わたしから〈聖白石〉を奪いに来たのですね?」


 マラヴィータは、サラを見やった。黄色い歯をむき出しにして、笑う。


「賢い娘だ。では、〈聖白石〉を渡してもらえるのかね?」


「お断りします」


「そうであろうな」


 マラヴィータが片手を振ると、影が蛇のように伸びて、ハニの首に巻き付いた。


「うがっ!」


 サラは声を上げた。


「ハニさん!」


 ハニの首を絞めつける影は、マラヴィータが操っている。


「儂が、もう少し力を入れるだけで、ハニの首はへし折れてしまうぞ。さぁ、取引といこうか。ハニの命と、〈聖白石〉を交換だ」


 ハニが、首を絞めつけられながらも、声を絞り出す。


「……バカに……するな」


 刹那、ハニを包むようにして、〈ゴッド・フレイム〉が発動。塔のような火柱によって、空き家はあっという間に猛火に包まれた。


 サラが駆けだし、ハニを抱き上げて、空き家の外へジャンプする。路地に転がるようにして、着地した。

 ハニは、自らに〈ゴッド・フレイム〉を使い、首に巻き付いていた影を焼き払ったのだ。

 そのためハニ自身も、全身に重度の火傷を負っていた。


 サラは〈ゴッド・ヒーリング〉を発動し、ハニの傷を癒す。


 サラの傍に、ローラとルーシーが着地した。ローラが尋ねる。


「サラさん、状況を教えてください」


「マラヴィータの狙いは、わたしが所持している〈聖白石〉です。これは〈聖なる乙女〉として守護する、魔石なのです」


「でしたら、魔族に渡すわけにはいきませんね。一人の冒険者として、力をお貸ししましょう」


 ローラの背後に、複数の剣が出現。その中から、ローラは大剣〈竜殺し〉を選んだ。

 ローラの業物の中では、最強の攻撃力を誇るという剣だ。


 燃え盛る邸より、マラヴィータがゆったりとした歩みで、現れる。


「魔王陛下より、こやつをお預かりしたのは正解だったようだ」


 この場合の『魔王陛下』とは、アデリナのことだろう。

 そしてマラヴィータの懐から、突如として現れたものがあった。


 モフモフした小型犬だ。

 犬派のサラは、キュンとした。


 一方、ローラは猫派のようだ。冷ややかに、小型犬を見る。


「皆さん、戦略的撤退を提案しても、よろしいでしょうか?」


 ルーシーがからかうように言う。


「剣聖ともあろう者が、弱気だね」


「マラヴィータだけでしたら、この即席パーティでも対処できると思ったのです。ですが新手のワンコも、マラヴィータ並みの難敵のようですので──少し厳しいかと」


「本当に? ただのワンコにしか見えないけど」


「では確かめてみましょうか」


 ローラは、〈竜殺し〉の大剣を振るった。必殺技スキル〈山斬り〉の発動だ。

 特大の斬撃が、小型犬めがけて放たれる。


 サラは、小型犬の身を案じた。しかし、杞憂だった。

 小型犬が跳び上がり、あろうことか後ろ脚で、巨大斬撃を蹴飛ばしてしまったのだ。そのため巨大斬撃の軌道は反転し、ローラたちへと飛来する。


 ローラが〈竜殺し〉を振るって、斬撃にぶち当て、霧散させる。


 ルーシーは腕組みした。


「いまのワンコの蹴りは──ただの蹴りだよね? 必殺技スキルとかではなく。それが、ローラの〈山斬り〉を蹴飛ばしたの?」


 驚いたことに、小型犬が話し出した。


「マラヴィータお爺ちゃん。コイツら、アデちゃんの敵? 食べていい? 食べてもいいよね?」


 サラは思った。


(お喋りできるワンコですか。愛くるしいですね。ただ喋っている内容は、物騒ですが)


 マラヴィータが、小型犬に言う。


「よかろう、エトセラよ。だが白いローブの娘だけは、食ってはならんぞ。魔王陛下がお求めの〈聖白石〉を所持しておるからな」


 ハニが怒鳴る。


「ペット如きが、生意気だよ!」


 次に起きたことは、サラも予想できなかった。


 ローラがハニの背後へと移動。〈竜殺し〉の柄頭で、ハニの後頭部を打ったのだ。

 ハニは気絶して、倒れた。


「ローラさん、一体なにを──」


 ローラは、ハニを抱え上げる。


「何をするのかと問われれば、王都脱出と答えましょうか。ルーシー、お願いします!」


 ルーシーはすでに魔法詠唱を終えていた。


「〈祈りの85番:灰の演舞〉!」


 瞬時に、灰色の煙霧が発生。

 この煙霧によって、サラ・ローラ・ルーシー・ハニと、マラヴィータ・エトセラが分断された。


 煙霧の向こうから、マラヴィータの声が聞こえる。


「小癪なことを──」


 マラヴィータが風の魔法で、煙霧を払おうとした。

 それに対して、ルーシーが言う。


「無駄よ。たとえ竜巻が来ても、〈灰の演舞〉の煙霧は、払われることがないから」


 ローラが指示を出す。この即席パーティならば、リーダーはローラだろう。


「皆さん、いまのうちに逃走しますよ!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ