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85話 討伐対象『魔王の娘』⑰~クルニアvsGODランク。




 王都ルクセン内では、多数の戦闘が起きていた。

 クルニアは、探索魔法は使えない。だが戦士としての感覚が、それらを察知していた。


 そして、リガロンを殺した下手人を追跡しながらも、クルニアは焦ってもいた。

 リガロンが狙われたのは、ラプソディと無関係ではないだろう。つまり、ラプソディもまた標的にされている。

 親衛隊員としては、一刻も早く駆け付けたい。だが、リガロンの遺体に約束した身だ。まずは、この敵討ちを果たさねば。


 やがてクルニアは、にやりと笑うことになる。

 下手人が、待ち構えていると分かったからだ。


 下手人は、閉鎖された劇場の中にいる。どうやらクルニアの追跡には、早い段階で気づいていたようだ。


 クルニアは、上空を旋回しているテグスに、合図を送った。ひとまず、王都の外にいるよう指示したのだ。

 テグスは強力な〈竜の息吹〉を使えるが、必ずしも地上戦が得意ではない。そこでいったん戦線から離すことした。


 クルニアは単身、戦闘槌を片手にして、劇場へ入る。

 下手人は伏兵を用意することなく、一人で待ち構えていた。この点だけは、クルニアは戦士として評価した。


 下手人の男は、ハーフ・エルフのようだ。姿は若いが、長命な種族のため、実際の年齢は不明。

 武器は装備していないが、リガロンは鋭利な刃で斬られていた。魔法攻撃によるものか、生成魔法で剣類を造るのか。


 下手人は言った。


「討伐対象から来てくれるのは、楽で助かる。しかし、意外でもある。魔族である君が、リザードマンの敵討ちに来ようとは」


「種族は関係あるまい。パーティ・メンバーを殺されて、黙っているわけにはいかない。それに魔族は義理堅いものだ。貴様らエルフとは違って」


 下手人は、愉快そうに笑った。


「確かに、エルフは冷淡な種族かもしれない。ところで、名乗っておこう。私の名は、バラス。GODランクの冒険者だ」


 クルニアは、内心で舌打ちした。

 先ほどバラスは、クルニアを魔族といった。すなわち、偽身分は暴かれているわけだ。それはラプソディも同じことだろう。


 そこから、さらに思考する。

 クルニア達の正体を知った冒険者ギルドは、討伐パーティを組んだ。しかも討伐対象は、魔族のクルニア達だけではない。リガロンまで含まれていた。

 おそらく、レイとサラも含まれているのだろう。

 またGODランクとは初耳だが、SSSランクの上と見て、間違いなさそうだ。


(時間を無駄にしている場合ではないな)


「私の名は──知っているのだろうな。クルニアだ」


 バラスがうなずき、


「先に教えておこう。君では、私には勝てない。レベル測定法で、君のことは測れるだろう。だが、私は測定不能だ。この事実だけを見ても、力の差は明らかではないか?」


 クルニアは、他者のレベルを数値化する術を持たない。よってバラスの申告の真偽は不明だ。

 そもそもクルニアには、どうでも良いことだった。敵の戦闘力などは、関係がない。戦うからには、叩きのめすだけのことだ。


 クルニアは戦闘槌を、バラスへ差し向けた。


「御託はいい。とっとと始めよう」


 バラスの右手に閃光の刃が生まれる。


「〈閃剣〉という。君の仲間のリザードマンを殺したのは、この魔法でね」


「ご丁寧なことだな!」


 クルニアは跳躍し、バラスに肉薄した。戦闘槌を振るい、必殺技スキル〈破城槌〉を発動。

 バラスの〈閃剣〉がそれを弾く。


 クルニアは納得した。〈破城槌〉は、それなりの威力を持つ必殺技だ。

 それを軽々と弾き返すとは、バラスの実力は本物のようだ。


 続いてクルニアは、必殺技スキル〈五月雨〉を発動。戦闘槌の目にも留まらぬ連打が売りだ。


 対してバラスは、〈五月雨〉の攻撃を、紙一重で回避していく。だが反撃はして来ない。

 バラスは、クルニアの大技を誘っているようだ。


(ならば、乗ってやろうか)


 クルニアは、必殺技スキル〈閃打牙〉を発動。攻撃力は、〈破城槌〉の5倍にも及ぶ。

 高出力エネルギーを纏った戦闘槌が、バラスへと放たれる。


 バラスは防御せずに、〈閃打牙〉の直撃を受けた。瞬間、必殺技スキルを発動。


「〈反転〉!」


 刹那、クルニアが〈閃打牙〉の『攻撃』を受けて、後退した。


「なるほど。〈反転〉とは、敵から受けた攻撃を、敵へとダイレクトに弾き返すスキルか」


 バラスは残念そうに言う。


「〈閃打牙〉とやらの攻撃力が、君自身の防御力を上回っていたら、勝負は決まっていたというのに」


「あいにくだったな」


 クルニアは、自身の必殺技スキルを検索する。


 クルニア自身の防御力を上回る物理攻撃スキルなら、〈崇爆斬〉だ。

 さらに、特異系スキルの〈天落〉もある。これは最強の技であり、取り扱いも難しい。


〈天落〉とは、闇を拡散するスキルだ。

 その闇に接触すれば、どんな物体も塵となる。

 

 バラスの〈反転〉が、物理攻撃のみに発動するならば、頭を悩ます必要はない。

 しかし、〈天落〉のような特異系スキルさえも、敵へと弾き返せるとしたら? 

 バラスのかわりに塵になるのは、クルニアということになる。


(〈反転〉か。厄介な必殺技スキルだな。だが、まてよ──)


 ある可能性が浮かんだ。確かめるためには、リスクを冒すしかない。

 クルニアは再度、バラスに接近した。


「これなら、どうだ? 〈崇爆斬〉!」


〈崇爆斬〉の攻撃力は、〈閃打牙〉の20倍だ。

 圧倒的な分、スキル発動時に、大量のMPを消費する弱点はある。


〈崇爆斬〉による超高密度エネルギーを纏った戦闘槌が、バラスへと襲いかかる。


 瞬間、バラスの姿が消えた。


 クルニアは〈崇爆斬〉を解除した。敵に当たらないのなら、発動は途中で切るに限る。


 それからクルニアは、周囲へと視線を走らせる。

 5メートルほど離れた先に、バラスを見つけた。


(いまバラスは、ワープ系の魔法を使ったのか? だが、それよりも重要なことが判明したな)


「バラス。なぜ、〈反転〉を使わなかった? せっかく〈崇爆斬〉という、私の防御力を上回る攻撃を発動してやったのに」


 バラスは、答えない

 クルニアは続ける。


「ならば、私が話してやろう。〈反転〉は、全ての攻撃を敵へと弾き返せるわけでは、ない。一定の攻撃力を上回った場合、〈反転〉は失敗するのだ。貴様は、私の〈崇爆斬〉の攻撃力を、超高密度のエネルギーから見極めた。そして、〈反転〉が弾き返せる攻撃力を上回っている、と判断したのだ。そこで、貴様は逃げた。腰抜けのように」


「腰抜けか。安い挑発だが、乗ってあげよう」


 瞬間、バラスが消える。やはり、ワープ系魔法だ。

 クルニアは、ほとんど野生の勘で、戦闘槌を振るった。

 死角から斬りつけてきたバラスと、火花を散らす。


 バラスは後ろに跳んで、クルニアとの距離を取った。

 クルニアは内心で舌打ちした。

 ラプソディと同じ〈ワープ〉か、〈無限梟〉が使ったという〈トランジション〉か。いずれにせよ、ワープ系魔法を、バラスに使われると面倒だ。


(奴の〈反転〉では、私の〈天落〉は弾き返せまい。ならば、ここでケリを付けるか)


 クルニアは、最強の必殺技スキルを発動。


「〈天落〉!」


 戦闘槌で叩いた虚空から、闇が噴出する。接触した物体を塵にする闇だ。

 劇場内の観客席などが、闇に接触して、消滅していく。


 しかし、バラスは嘲笑う。


「恐ろしい闇だ。しかし、拡散ペースは遅い。回避するのは、容易い」


「そう思うか? だがな、〈天落〉には次の段階があるぞ。〈天落中心〉!」


 クルニアが突き上げた戦闘槌へと、〈天落〉の闇が集まる。

 通常の状態ならば、闇は戦闘槌を塵にしてしまうだろう。しかし、〈天落中心〉スキル発動時の今だけは、違う。


 戦闘槌は消滅することなく、闇を纏うのだ。

 ついに、戦闘槌への闇のコーティングが終了した。


 それから、クルニアは壮絶に笑ってみせる。


「いまだけは、私の戦闘槌は〈天落槌〉という、新たな武器となる。バラス。一撃たりとも〈天落槌〉を食らうなよ。塵になりたくなければな」




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