86話 討伐対象『魔王の娘』⑱~蜥蜴のひと噛み。
──クルニア──
〈天落槌〉。
クルニアの戦闘槌に、物体を塵にする闇をコーティングした代物だ。
〈天落槌〉で打撃された敵は、塵となる。
つまり、〈天落〉の弱点である闇拡散の遅さを克服し、一撃必殺の攻撃としたのが、〈天落槌〉だ。
よって〈天落槌〉は、特異系スキルであると同時に、装備した武器でもある。〈天落槌〉を維持したまま、別の必殺技スキルの発動も可能だ。
クルニアは跳躍し、バラスへと肉薄。
「〈五月雨〉!」
必殺技スキル〈五月雨〉は、戦闘槌による連続攻撃。これを〈天落槌〉で行う。敵は、掠るだけでも塵と化す。
しかし、そこはGODランクだ。バラスは、〈天落槌〉の嵐を、紙一重で回避する。
「手数が多くとも、当たらなければ意味がないだろう!」
バラスの姿が消える。ワープ系魔法だ。
クルニアは振り向きざま、〈天落槌〉を投擲した。
「くっ!」
背後に出現したバラスが、横っ飛びで〈天落槌〉を躱す。
〈天落槌〉はブーメランのようにして、クルニアの右手に戻った。
ちなみに、〈天落槌〉の柄には闇は纏っていないため、クルニアは安心して持てる。
「バラス。貴様のワープ系魔法だが、どうやら〈ジャンプ〉のようだな」
ラプソディの〈ワープ〉だと、世界のどこへでも空間転移ができる。最高位魔法の一つだ。よって〈ワープ〉を使える魔導士は、限られている。
一方、バラスの〈ジャンプ〉は、視界の中でしか空間転移はできない。
つまり、バラスが見ている所までが、空間転移の限界なのだ。
バラスは不敵に笑う。
「私の魔法を一つ暴いただけで、得意になるか。君は〈天落槌〉という、切り札の技を出した。すなわち、底を見せてしまったのだ。だが、私はまだこれからだ」
「減らず口を叩いていないで、とっとと塵となるがいい」
クルニアは突進し、バラスへと〈天落槌〉を振り下ろす。
バラスは再度、〈ジャンプ〉を発動。姿が消える。
クルニアはそれを想定していた。
「何度も同じ手で逃がすと思ったか!」
ここでクルニアは、必殺技スキル〈魔月壊叩〉を発動。
まず、禍々しい球体が生まれる。この球体をクルニアが叩き割ることで、衝撃波が発生。
劇場が、〈魔月壊叩〉の衝撃波によって、内側から吹き飛んだ。
その中、クルニアは降り注ぐ瓦礫をものともせず、バラス目がけて突っ込む。
バラスは〈魔月壊叩〉の衝撃波を受け、バランスを崩していた。
何より、降り注ぐ瓦礫によって視界を妨げられている。よって、〈ジャンプ〉は発動できない。
「勝負あったな!」
クルニアの〈天落槌〉が、バラスへと叩き込まれようとする──。
※※※
──バラス──
〈完全反転〉。
このスキルこそが、バラスの切り札だ。
〈完全反転〉は、〈反転〉の上位スキルである。
〈反転〉とは、敵から受けた攻撃を、ダイレクトに敵へと弾き返す技だ。
たとえば、敵が〈ファイヤ・ブラスト〉を撃ってきたとする。それをバラスが、〈反転〉を発動してから、受ける。
するとバラスは無傷であり、敵こそが〈ファイヤ・ブラスト〉のダメージを受ける。
しかし、〈反転〉にも弱点はあった。
一定の攻撃力を上回った攻撃だと、〈反転〉では弾き返せないのだ。
また、特異な攻撃も弾き返せない。たとえば、クルニアの〈天落槌〉などがそうだ。
接触したものを塵にする闇。そんな闇を纏った〈天落槌〉の一撃。
〈反転〉では対処できない。
だが、〈完全反転〉ならば別だ。
〈完全反転〉には制限がない。
どれほど攻撃力が高かろうとも、どれほど特異な攻撃だろうとも、すべてを敵へと弾き返すことが可能だ。
ただし、〈完全反転〉には発動条件があった。
弾き返したい敵の攻撃を、何回か見る必要があるのだ。
そして、バラスは見た。
クルニアの〈天落槌〉の攻撃を、複数回にわたって。
ついに〈完全反転〉の発動条件は満たされた。
次だ。
次にクルニアが〈天落槌〉で襲いかかってきた時が、勝負が決するときだ。
バラスは〈完全反転〉を使う。その上で、〈天落槌〉を受けるつもりだ。
そうすれば、塵になるのはバラスではない。クルニア自身だ。
そして、その時が来た。
クルニアの〈魔月壊叩〉によって、劇場が崩れる。
その中でクルニアは、バラスを追いつめたつもりだろう。
しかし、真実はその逆だ。
バラスこそが、クルニアを追いつめたのだ。
クルニアがバラスに迫る。〈天落槌〉を、バラスへと叩き込もうとする。
バラスは、勝利を確信した。
(私の勝ちだ、汚らわしい魔族が! 自分の技で、塵になるがいい!)
〈完全反転〉を発動──されない。
刹那、バラスはパニックに陥った。
どういうわけか、〈完全反転〉を発動できないのだ。発動条件は満たしたというのに。
(な、なぜだ!)
混乱するバラスの脳裏に、ある光景が蘇った。
リガロンを討伐したときの光景だ。
リガロンは死ぬ間際、〈封殺〉というスキルを発動した。
しかし、バラスは気にも留めなかった。
発動者が死ねば、発動したスキルも消えるものだからだ。
だが例外はある。発動したスキルが、代償スキルだったならば別だ。死んだ後も、効果は続く。
(まさか、〈封殺〉は、代償スキルだったというのか──)
バラスのこの推測は正しい。
〈封殺〉は、リガロンの代償スキルだった。
そして、〈封殺〉の効果とは、バラスの『あるスキル』を封じ込めるものだ。
『あるスキル』とは、バラスが有する中で、最強のスキルのこと。
〈封殺〉は、自動で最強スキルを見出し、発動できないように封じ込める。
すなわち、〈完全反転〉を封じることに繋がった。
バラスは焦る。
(〈完全反転〉が使えぬ以上、〈天落槌〉を、回避せねば──)
しかし、遅かった。
クルニアの〈天落槌〉が、バラスに直撃する。
バラスは、悟った。
負けたのは、この魔族にではない。
たかがDランクの、取るに足りないリザードマンに、負けたのだ。
「蜥蜴がぁぁ!」
次の瞬間、バラスの肉体は、塵へと消えた。
※※※
──クルニア──
クルニアは着地する。
〈天落槌〉を解除し、ただの戦闘槌へと戻す。
バラスだった者の塵が、舞っている。
なぜ、バラスは最期に、『蜥蜴』などと叫んだのか。蜥蜴のスラングには、リザードマンという意味もあるが。
クルニアには解けぬ謎だ。
だが、一つだけ確実なことがある。
「リガロン、貴様の仇は討ったぞ」
※※※
──ルーシー──
ルーシーは、ローラと共に、王都内を移動していた。
ふいにローラが、立ち止まる。
ルーシーも止まり、小首を傾げた。
「どうかしたの、ローラ?」
「いま、バラスというGODランクの方が、亡くなりました。討伐クエスト中に、返り討ちにあったのでしょう」
「どうして分かったの?」
ローラは説明した。
GODランク同士には、通知魔法がかけられている。〈テレパス〉のように連絡はできないが、生死確認は可能だ。
ルーシーは考えを口にする。
「GODランクを倒したのだから、やっぱりラプソディさんかな?」
ローラは笑みをこぼした。GODランクが倒されたことが、嬉しいようだ。
「さすが、レイさんのパーティですね。やはり、侮れません」
冒険者ギルド側で、ラプソディ一派を『レイのパーティ』と考えているのは、ローラくらいだ。
他の者たちは、『魔王の娘のパーティ』と解釈している。
それはルーシーも含めてのことだ。
ルーシーは、レイの人柄は好きだ。だが、冒険者としてのレベルは、『並み』だと考えている。
だからルーシーには、不思議に思う。
なぜ親友のローラは、レイをそこまで高く買うのか。
「どうしてローラは、レイ君のことを、そこまで高く評価しているの?」
「反対に尋ねますが、レイさんと同じパーティだったとき、気づきませんでしたか?」
ルーシーは尋ねた。
「何に気づくべきだったの?」
ローラは肩をすくめた。
「いつか、教えてあげますよ」
「ローラって、秘密主義だよね。GODランクであることも、まわりに隠しているし」
「いえ、それはギルド・マスターからの命令ですから……いえ、もう過去形ですね。ギルド・マスターは死に、冒険者ギルドは壊滅したのも同然なのですから」
ギルド・マスターを含め、幹部たちが皆殺しにされてしまった。冒険者ギルドの立て直しは、困難を極めるだろう。
だがルーシーは、ローラほどには悲観していなかった。
ギルド・マスターが殺されたのなら、新たなギルド・マスターが就任するだけのこと。
人格、能力、経験値。
全てにおいて、新たなギルド・マスターに相応しい人材も、ここにいる。
ルーシーはローラを見つめながら、そんなことを考えていた。




