73話 討伐対象『魔王の娘』⑤~レイvsルードリッヒ。
【運命の日】──18時30分。
レイは、ルードリッヒを恨んではいない。
だが、レイもパーティ・リーダーを務めるようになって、一つ確信したことがある。
パーティの仲間を見捨てるような奴は、リーダー以前に冒険者失格だ。
レイは、両手剣を構えた。
(お前にだけは負けないぞ、ルードリッヒ)
ルードリッヒは、呪文詠唱を行う。
「〈ハイ・ガード〉!」
ルードリッヒの身体が、青く輝く。
「よく聞けよ、レイ。〈ハイ・ガード〉によって、俺の防御力は、いま格段に上がった。お前の刃では、ダメージは与えられないぜ」
「前から思っていたが、あんたは話が長い」
レイは手刀を一閃させ、〈風殺剣〉の斬撃を放った。
しかしルードリッヒは、右腕を払うだけで、〈風殺剣〉の斬撃を弾く。
「こんな攻撃、効くか! 次はこっちから行くぞ、〈コンファイン〉!」
瞬間、レイは巨大な立方体の中に閉じ込められた。
立方体の材質は、鋼鉄のようだ。
レイは〈茨道改〉を発動。
しかし、刃は鋼鉄の壁に弾かれる。
(変だな。〈茨道改〉の破壊力ならば、鋼鉄などは、バターを切るように裂けるはずだが?)
鋼鉄の立方体の外から、ルードリッヒの声がする。どうやらルードリッヒには、立方体の中の様子が分かるようだ。
「無駄だ。その鋼鉄は、魔法でコーティングされている。お前の攻撃力程度では、破壊はできん」
立方体の中からでも声は届くようなので、レイは返答した。
「すると、ルードリッヒ。お前からも、おれには攻撃ができないんじゃないか?」
「馬鹿め。攻撃する必要などない。〈コンファイン〉に閉じ込められた時点で、お前の敗北は決定したのだからな」
「なんだって?」
〈コンファイン〉立方体の中で、シューという音がしてきた。
レイは、ハッとした。
「この音は──立方体内の空気を抜いているのか」
〈コンファイン〉立方体の外から、ルードリッヒの高笑いが聞こえた。
「その通りだ、レイ! お前はそこで、窒息死する運命だ!」
レイは呟いた。
「卑怯な攻撃だな」
立方体内の声は、ダイレクトにルードリッヒへと届くようだ。
立方体の外から、レイの呟きに対して、ルードリッヒの返答があったので。
「卑怯だと? 甘っちょろいことを言うなよ、レイ。俺たち冒険者は、結果が全てだ。勝つためには、どんな手段も取る」
「どんな手段もというのは、仲間を魔王城で見捨てることも、か?」
「そうだ。足手まといは見捨てるしかないだろう?」
レイは、確信した。
ルードリッヒを、これ以上、冒険者にさせておいてはいけない。
これからもルードリッヒは、パーティ・メンバーを切り捨てていくだろうからだ。
(ならば、ここでおれが討伐する)
レイの視界がぐらついた。閉じ込められている立方体の中で、レイは片膝を突く。
立方体内の様子は、ルードリッヒには見えているらしい。
ルードリッヒが勝ち誇る。
「そろそろ、酸素が足らなくなってきたんじゃないか、レイ?」
ルードリッヒの言う通りらしい。レイは眩暈を覚え始めていた。
再度、〈茨道改〉を放つ。だが、やはり魔法コーティングの鋼鉄には、傷一つ付けられない。
(確かに、硬いな)
「諦めろ、レイ。お前は、そこまでの冒険者だった、というだけの話だ」
レイは考える。
ルードリッヒの言うことにも、一理ある。MPを温存して勝利できるほどには、自分はまだ強くはなかった。
レイは言った。
「いいだろう、ルードリッヒ。本気を出してやる」
「本気だと? 現実逃避もたいがいにしろよ、レイ!」
レイは、特殊スキルを発動した。
「〈魔装〉発動!」
基本、特殊スキルは生来のものだ。
だが時おり、突然変異のようにして、発現することがある。たとえば、特殊な状況下で経験値を稼いだとき、などだ。
レイも、特殊な状況を経験していた。
魔王城で4000回以上も殺されかける、という経験を。
レイが〈魔装〉を獲得したのは、魔王ブート・キャンプの50日目。
かの魔王に、頭部を引き抜かれる瞬間に会得したのだ。
そして今──特殊スキル〈魔装〉の発動によって、漆黒の鎧が出現した。
漆黒鎧は自動的に、レイの身体に装着される。
漆黒鎧に身を包んだとき、レイは第2職業:闇黒騎士となった。攻撃力は、100倍にまで跳ね上がる。
そして攻撃力とは、装備する武器の強度にも、影響を与えるものだ。
レイが両手剣を振ると、〈コンファイン〉立方体は切り裂かれた。バターを切るように。
レイは、〈コンファイン〉立方体の裂け目から、外へと出る。
ルードリッヒが、驚愕の表情を浮かべる。
「そ、そんなはずが──俺の〈コンファイン〉が破られるなど、あってなるものかぁ! 〈ファイヤ・ブラスト〉!」
防御力に難ありのレイだったが、特殊スキル〈魔装〉を得たことで、ようやく克服した。
〈魔装〉の漆黒鎧は、〈ファイヤ・ブラスト〉程度の攻撃は、跳ね返す。
「悪いが、ルードリッヒ。痛くも痒くもないぞ」
ルードリッヒが怒鳴る。
「ふざけるなよ! お前は雑魚だろうが! 雑魚は雑魚らしく、俺にやられていればいいんだ!」
レイはダッシュして、ルードリッヒの間合いに飛び込む。
「悪いが、あんたの相手をしているヒマはない」
レイが両手剣を振り上げると、ルードリッヒが嘲笑った。
「無駄だぁ! 俺の〈ハイ・ガード〉は、鉄壁──」
レイは両手剣を振り下ろす。
その刃は、ルードリッヒを脳天から股まで、一刀両断にした。
ルードリッヒの死に顔は、信じられないという表情で凍り付いていた。
レイは〈魔装〉を解除した。
〈魔装〉のMP消費ペースは、リリアスの〈タイム〉クラスだ。MPが回復するまで、当分は〈魔装〉を使えないだろう。
それどころか、残っているMPでは、〈翔炎斬〉も放てそうにない。
(GODランクとの戦いのために、温存したかったんだが──仕方なかったな)
レイはその場を立ち去ろうとして、ふと思い出した。収納ボックスから、あるアイテムを取り出す。
薬草(小)が5個だ。
魔王城で追放されたとき、ルードリッヒに渡された薬草(小)だった。
掠り傷を治すくらいしか効果のない薬草(小)なので、使うこともなく、収納ボックスに入っていたのだ。
レイは、薬草(小)5個を、ルードリッヒの死体に放った。
「返したぜ」
【討伐パーティ 残り6人】
※※※
ローラの必殺技スキル〈山斬り〉の破壊力は、凄まじかった。
放たれた斬撃は、山をも切り崩せそうなほどの大きさ。
あまりの威力に、斬撃の放たれた地点では、大地が割れるほど。
そんな巨大斬撃が、真っすぐ飛んで来る。
ローラの〈スキル殺し〉は、今も効果は続いている。
つまり、サラ先輩の〈純白ラ界〉は使えない。
「〈ホーリー・シールド〉!」
『5年後のサラ』ことサラ先輩は、〈ホーリー・シールド〉を発動。〈ホーリー・シールド〉の聖なる盾で、巨大斬撃をいなした。
巨大斬撃は軌道を外れ、市街地へ飛んで行く。200メートルほど進み、建物群を破壊していった。
ローラが呟く。
「市民は避難されていますよね?」
サラが、サラ先輩に言う。
「〈ホーリー・シールド〉でさえ、いなすのが精一杯だったのですか?」
サラ先輩はうなずく。
「ええ。ですが、悲観することはありません。ローラさんを倒せば良いだけの話です」
サラ先輩が、〈ホーリー・クロス〉を発動。
巨大な聖なる十字架が、ローラを貫く。
ローラの身体は、十字架によって遥か高みまで、掲げられた。
しかし、ローラは大剣〈竜殺し〉を一閃させて、〈ホーリー・クロス〉を破壊。
そのまま落下して着地するも、バランスを崩した。
さすがのローラも、〈ホーリー・クロス〉によるダメージが効いているようだ。
だが、サラは愕然としていた。
黒龍ムシャムシャにさえ、致命傷を与えた〈ホーリー・クロス〉。
それがローラに対しては、少しのダメージを与えただけとは。
(剣聖とは、これほどの実力者なのですね)
ローラは大剣〈竜殺し〉を手放し、宙に浮いている剣の中から、一つの短剣を取った。
その短剣で、自らの胸部を刺す。
サラは驚愕した。
「何を──」
ローラの身体において、〈ホーリー・クロス〉によるダメージが回復されていく。
ローラは短剣を、胸部から抜き、手放す。刺した箇所にも、傷はない。
「こちらは、〈治癒の女神〉という短剣です。自らに刺すことで、回復が発動されます」
サラ先輩が嘆いた。
「〈ゴッド・ヒーリング〉並みの回復力ですか──このままだと、ジリ貧ですかね」
刹那、時の流れが止まった。




