46話 魔王の誕生日会に行こう!④~乾杯の音頭をとる。
レイは、ようやくラプソディを見つけた。
ワープ魔法で両親を連れてくることを頼むと、ラプソディは快諾してくれた。
ラプソディがワープ魔法で出発するのを見届けてから、レイは「あっ」と思った。
(おれも付いて行けば良かった)
ソワソワしながら待っていると、ようやくラプソディが両親を連れて、戻って来た。
「やぁ、母さん、父さん。半日ぶり。ここが魔王城だ。で、彼女がおれの妻で──」
ラプソディを正式に紹介する前に、両親ともに泣き出した。
「こんな素敵なお嫁さんをもらえるなんて、お前は神様に感謝しないといけないよ」と母。
「まったくだ。うちの子にはもったいないほど、気立ての良いお嫁さんだ」と父。
「……」
レイはラプソディを隅に引っ張って行った。
「おれの両親に、変な魔法を使ってないだろうな」
「まさか。あたしはただ妻の立場から、レイの素晴らしさを話しただけよ」
「……まぁ、いいか。喜んでもらえたようだし」
誕生日会が行われる大広間へと、さっそく移動。
レイとラプソディの結婚式も、華やかで大規模なものだった。だが、今回は魔王の誕生日会だけあって、それに匹敵している。
親衛隊員たちが、ラプソディに挨拶に来た。
ラプソディは、気さくに答える。
「はい、ハニちゃん、クルニアちゃん。あら、バルバ、久しぶりね。人肉を食べるのも、程々にしておきなさいよ。ローペン、元気にしている? あなたは、ちょっと真面目すぎるわよ」
バルバが人肉を食べている事実を、レイはとりあえずスルー。
レイは、誕生日会の出席者たちを見回す。
やはりアデリナの姿はなかった。
勘当された身なのだから、アデリナがいないのは当然だ、が。
先ほど魔王城の中で、レイはアデリナに助けられているのだ。しかも、魔王への言伝を頼まれている。誕生日おめでとう、と。
(……言えるわけがないな。アデリナと会った話をしたら、助けられたことまで明かさねばならなくなる。そんなことを聞いたら、ラプソディがどう思うか。命の恩人のアデリナには悪いが、言伝はおれのところで止めておこう)
魔王が、上座の席に付く。
レイは下座に移動しようとしたが、魔王が呼んで来た。
「レイ君、わしの隣の席に座りなさい」
魔王の隣の席とは、実に目立つ。すでに魔族たちの視線を一心に浴びているというのに。
というのも、ラプソディがレイのことを、「あたしの素敵な旦那様」と紹介して回っているためだ。
もちろん、そんなふうに紹介されて、嬉しくないわけではない。が、冒険者としては、できるだけ魔族に注目されたくないのも、本音だった。
とはいえ、義父に言われては仕方ない。
レイは、早足で移動した。
「ありがとうございます、陛下」
「レイ君。わしのことは、お義父さんと呼んでくれて良いのだぞ。わしは、そちらのほうが嬉しいのだがな」
「……お義父さん」
魔王は破顔した。
「おお、息子よ!」
「お義父さん」
「おお、息子よ!」
「お義父さん」
「おお、息子よ!」
(……これ、いつまで続くんだ)
ラプソディが、レイに声をかけてくれたので、魔王とのエンドレスは終わった。
ラプソディは、何やら思いつめている様子だ。
「どうした、ラプソディ?」
「レイ。やっぱり、友達は公平に扱わないとダメよね?」
魔王の席から少し離れてから、レイは問い直した。
「どういうことだ?」
「友達をパパの誕生日会に招待するのなら、全員を招待するのが正しいわよね?」
「まぁ、友達を差別するのは良くないからな」
ラプソディの悩みが晴れたらしい。ワープ魔法で、姿を消した。
まだ招待していなかった友達を、連れに行ったのだろう。
ラプソディの友達なら、魔族だ。
という、レイの予想は見事に外れた。
ラプソディがパッと現れる。リガロンと共に。
リガロンが、トカゲの口をあんぐりと開けた。
「レ、レイ。ここは、どこだ?」
「……魔王城だ、リガロン。これから魔王の誕生日会が行われる」
(……そうか。ラプソディの言う友達は、冒険者のパーティ・メンバーのことだったのか)
「……オレ、場違いじゃねぇか?」
レイは首を横に振った。
「いや、意外と馴染んでいるぞ」
ここには異形の者も多い。リザードマンがいても、変ではない。
このとき、ラプソディはまたも消えていた。次の友達を、ワープ魔法で連れに行ったようだ。レイはハッとした。
(リガロンを連れて来たということは、次に来るのは──)
ラプソディが、サラと共に現れた。
サラは周囲を見回し、いまにも卒倒しそうだ。
「レ、レイさん。こ、ここは、ど、どこなのでしょうか?」
「……魔王城だ、サラ。これから魔王の誕生日会が行われる」
サラは、ガタガタ震えだしながらも、言った。
「た、誕生日、プ、プレゼントを、忘れて、しまいました」
「……大丈夫だから。リガロンと一緒に、隅のほうにいるといい」
しかし、それをラプソディが邪魔した。
「一緒に来て。パパに、あたしの友達を紹介したいわ」
リガロンは唖然とした様子。
「パパ、というのは、つまり?」
「魔王よ」
「……」
リザードマンという種族も、顔面蒼白になるようだ。リガロンがそうなったので。
レイは思い出した。リガロンはまだ、ラプソディが魔王の娘であることを知らないのだ。いま、知ったが。
サラのほうは、ついに卒倒した。
ラプソディが魔王の娘であることは、受け入れたサラ。しかし、魔王と対面するのは、さすがに厳しかったか。
ラプソディは不思議そうな顔だ。
「あら、サラちゃん。どうしたの?」
何はともあれ、誕生日会は始まった。
すでにレイは、両親を魔王に紹介し終えている。
ちなみに、レイの両親は魔王の人柄を褒めていた。
(魔王の人柄を褒める人間とは……我が両親ながら、凄いな)
とにかく、これで難しいことは終わった。
あとは食事をして、帰るだけだ。
しかし、レイのこの読みは間違っていたのだ。
誕生日会に集まった家臣たちに、魔王が挨拶する。
それから、レイの肩をポンと叩いた。
「では、諸君。乾杯の音頭は、わしの息子に頼みたいと思う。レイ君、やってくれるかね?」
レイはうなずいた。
「も、もちろんです、お義父さん」
断れるはずもない。
レイは、乾杯の音頭をとるため、立ち上がった。
(まさか、こんな大役が回ってくるとは……)
視線を巡らすと、ハニとクルニアが隣り合って、座っていた。
その近くには、ローペンとバルバもいる。
さらに下座のほうへ視線を向けると、リガロンとサラがいた。
最後にレイは、隣にいるラプソディへ、視線を向ける。
ラプソディは、励ますようにうなずく。
レイは、覚悟を決めた。
「ご指名をいただきました、レイと申します。ラプソディの夫です。僭越ですが、乾杯の音頭をとらせていただきます。魔王陛下、お義父さん、お誕生日おめでとうございます。これからも魔王陛下が、冒険者たちを血祭りに上げ、魔族国家を繁栄させ続けることができますよう、乾杯しましょう」
これは冒険者の言葉ではないなぁ、とレイは思った。
とはいえ、いまのレイは、リウ国の冒険者ではない。
魔王の息子だ。
「皆さま、ご唱和お願いします────乾杯!」
かくして、誕生日会は無事に終了した。




