34話 闘技大会⑦~ここぞという場面で、レベルUPするのだ!
2回戦7試合目。ついにレイの出番が来た。
2回戦の対戦相手は、職業:剣士だ。
ところで、戦士と剣士の違いは、けっこう曖昧。レイの武器は両手剣なので、剣士でも通せる。ただ冒険者ギルドの精霊玉は、レイの職業を戦士とした。
「剣士は、剣技のレベルが高い。斬撃戦となると、おれが不利か」
ラプソディが応援する。
「レイ、ファイトよ。スキャンしたところ、対戦相手はBランク剣士といったところ。今のレイなら余裕よ」
「余裕って、おれはEランク戦士なんだが……とにかく、行ってくる」
レイは控室から出て、戦闘フィールドに立った。
向かい合った対戦相手の剣士を、観察する。
剣士の名は、ハモンド。20代の男だ。長剣と短剣の二刀流。
レイは両手剣を構えた。
(剣技では負けるが、そこはパワーで押し切る)
試合開始の銅鑼が鳴った。
さっそくレイは突撃する。速攻を仕掛けるのだ。
(長期戦になると、技量の差が出る。なんといっても、敵はBランクだ。ならば、一気に決めてくれる!)
レイはまず、必殺技スキル〈爆裂斬〉を発動した。
攻撃力は高いが、剣速は遅い。よって剣士ハモンドに、直接は攻撃しない。どうせ回避されるからだ。
レイが狙ったのは、フィールドそのもの。
〈爆裂斬〉を叩き込むことで、フィールドの一部が爆裂。
それによって、フィールドの破片が、あたりへ飛び散った。その一つは、レイの脇腹に当たる。
「うげっ」
肋骨が折れたらしい。防御力が低いのは考えものだ。
しかし、ここで立ち止まっては、意味がない。
ハモンドは、飛んで来た破片を、長剣で弾いている。このチャンスを逃せない。
レイは、破片を追うようにして、ダッシュ。ハモンドの懐内へと飛び込む。
飛び散る破片を煙幕がわりに使う策だったのだ。
ここで、次なる必殺技スキルを発動。
必殺の斬撃〈茨道改〉だ。
攻撃力は〈爆裂斬〉を上回り、さらに剣速も速い。レイの手持ちの必殺技の中では、紛れもなく最強。
ハモンドは、飛んで来る破片への対処に、気を取られていた。
そのため、〈茨道改〉への反応が遅れた。
(よし、決まった!)
〈茨道改〉の斬撃が、ハモンドに叩き込まれようとした。
その刹那。
キーン、と甲高い金属音と共に、レイは後方へ弾き飛ばされた。
「なんだ、と」
レイの〈茨道改〉の斬撃が、ハモンドによって防御されたのだ。
しかし、〈茨道改〉の攻撃力は、Aランクの必殺技に匹敵する。そう易々と、防御できるものではないが。
ハモンドは、レイに向かって、短剣の切っ先を向けた。
レイの〈茨道改〉を弾いたのが、あの短剣だ。
レイは、その短剣の刃を凝視した。それから、あることに気づいた。
(刃が光っている。あれは、太陽の反射ではない。刃自体が、底光りしているのか)
「まさか、その刃はオリハルコン製か?」
ハモンドは笑った。
「いいや、ミスリル製だ」
「……そうだったのか」
オリハルコンとミスリルは、魔法金属だ。価値は、オリハルコンのほうが高い。しかし、ミスリルでも、かなり稀少だ。
何よりも、魔法金属には特殊な力がある。
(ミスリルの刃なら、おれの〈茨道改〉の斬撃も、弾き返せるだろうな)
ミスリルには、敵の攻撃力を減少させる力があるのだ。
「なるほど。あんたの戦法が分かった。長剣で攻撃しつつ、ミスリルの短剣で防御するわけか」
ハモンドはうなずいた。
「ご名答。キサマも、それなりにやるようだ。が、オレには勝てんよ。行くぞ!」
(ハモンドがミスリルの短剣を持っていなければ、おれの勝ちだったんだが)
装備の格差を、不公平に思うレイだった。
「まぁ、いいか。仕切り直しだ」
と言いつつも、レイはまず後退した。
脇腹がズキズキ痛む。先ほどの破片で、肋骨が折れているためだ。
(あまり激しく動くと、内臓を傷つけかねないな)
レイが負傷したことを、ハモンドは知ったようだ。
積極的に距離を詰め、攻撃して来る。
ハモンドの長剣による斬撃を、レイは両手剣で受ける。
しかし、そこは剣士のハモンドだ。
レイの剣技を上回る、連続攻撃を仕掛けてきた。
「しまった!」
レイの手から、両手剣が弾き飛ばされる。
ハモンドの斬撃の重さに、レイの脇腹の痛みが合わさった。そのため、一瞬だけ握力が緩くなったのだ。その結果が、これだ。
ハモンドは、長剣の切っ先を、レイに向ける。
「キサマは、剣を無くした。もう勝ち目はないぞ。10秒やる。そのあいだに、降参しろ」
「降参しなかったら?」
「キサマの首を刎ねるまでだ」
「なるほど」
レイは、弾き飛ばされた両手剣を、見やった。両手剣が落ちている場所は、8メートルは離れている。
今ばかりは、この8メートルが遠い。
取りに動けば、すぐさまハモンドに斬られるだろう。
ハモンドが、数え始める。
「1、2、3、4……」
(降参するなら、今のうちか。だいたい、ここでおれが殺されたら、ラプソディが悲しむ。悲しみながら、〈アステロイド〉でリウ国を滅ぼしかねない。しかし──魔王の娘の夫が、こんなところで敗北していいのか?)
レイの脳裏を、次の考えが過った。
勝たねばならない。
少なくとも、Bランク剣士ごときに、負けてはいけない。
刹那、レイは新たな必殺技スキルを、会得していた。
レイは、右手を振り上げる。
8まで数えたハモンドが、首を捻った。
「なんのつもりだ?」
レイは右手を振り下ろす。
「〈風殺剣〉!」
手刀から、斬撃が放たれる。
発射された斬撃は、ハモンドの胸部を抉った。
「ぐあっ!」
思いもしなかった攻撃に、短剣での防御もできなかったようだ。
ハモンドは、斬撃による傷口から出血しながら、後退。
「……キサマ、殺す!」
ハモンドが長剣を突き出して来る。鋭い突きだ。
レイは、再度〈風殺剣〉の斬撃を放った。長剣を弾く。
ハモンドのバランスが崩れた。
この隙にレイは駆け出し、両手剣を拾い上げる。
改めて、ハモンドと向き直った。
ハモンドは追って来て、長剣での斬撃を放って来た。
レイは斬撃を回避してから、〈茨道改〉を放つ。
「〈茨道改〉!」
「馬鹿め、食らうか!」
ミスリル製の短剣が、〈茨道改〉の斬撃を弾いた。
しかし、これでいい。
〈茨道改〉で決めるつもりはなかった。〈茨道改〉を、ミスリル製の短剣で防御させる。これがレイの狙いだった。
「おれの勝ちだ、ハモンド! 〈風殺剣〉!」
左手を柄から離し、横に一閃。
至近距離からの、手刀による斬撃が、ハモンドの首を裂く。
「…………!!!」
ハモンドは首の傷から出血しながら、仰向けに倒れた。
レイの勝利だ。
ハモンドのヒーラーが駆けて来て、すぐに回復魔法を行い始めた。
また、大会スタッフも数人出て来て、魔法でフィールドの修復を始める。レイが、〈爆裂斬〉を当てた場所だ。試合のたびに、フィールドは修復されているのだ。
レイは、控室に戻った。
ラプソディたちが出迎える。
「やったわね、レイ!」
「……ああ」
ふいにレイの意識が遠のいていく。
(肋骨が折れたことによる、ダメージ……が……)
レイは倒れた。




